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第77話 迎撃戦――ユリコ強襲(前編)

 異変を察知したのは、ニアだった。

 深夜、調査団の野営地から少し離れた場所で俺たちが交代で見張りをしていた時だ。ニアが突然、低い声を出した。

「何かが近づいてくるで」

 ゾマがすぐに続いた。

「起きて」

 全員が即座に動いた。寝ていた者も、一瞬で目が覚めた。事前に取り決めていた通り、調査団のメンバーは自己防衛に専念してもらう。俺たちが前に出る。

「どこだ?」

「見えへん。でも気配はある」

 ニアが翼をわずかに広げて、暗闇の方を向いた。見えない。それ自体が、すでに嫌な兆候だ。

「ディテクトマジック」

 ゾマが静かに唱えた。

 西の方向。透明化と飛行の魔法反応。6人編成。

「全員ディテクトマジック!」

 俺は声を上げた。サーク、リアン、バルドがそれぞれ展開する。バルドが舌打ちした。

「見えん。俺には視認できない」

 透明のまま接近してくる相手に、バルドは実質的に戦闘不能だ。まず可視化する手段が必要だった。


 敵はまだ距離がある。接敵するまでに、わずかな時間がある。

「精霊を出す。手数を確保しろ」

「了解しました」

 サークが炎の精霊を召喚した。揺らめく炎の塊が、俺たちの横に並ぶ。ニアとリアンがそれぞれ光の精霊を呼び出した。ゾマが風の精霊を展開する。

 俺はニアにマジカルガードをかけた。前衛が最初に狙われる。

「精霊は全方位に展開しろ。透明でも当たる範囲攻撃を優先する」

「わかったで」

 敵は接近のみ。奇襲のタイミングを測っている。先手は取られた。でも迎撃体制は整いつつある。


 接敵した瞬間、ディテクトマジックに引っかかった反応から、編成が見えてきた。

 6人。

 ユリコ本人。クラウド。戦士。加護術士。魔力術士。吟遊詩人。

 フルメンバーだ。

「ゾマ、スカイウイングでバルドを上に出せ。魔力術士に炎で位置を割り出す」

「わかった」

 ゾマがスカイウイングをバルドにかけた。バルドが浮き上がる。地上に縛られていた前衛に機動力が生まれた。

「リアン、バーニングストライク」

「任せて」

 リアンの炎が飛んだ。不可視の空間のどこかで、炎が何かに当たって弾けた。

「あの炎が敵の魔力術士よ!」

 位置が露出した。バルドが即座にそちらへ向かう。

「精霊、全力でユリコに向けろ」

 光の精霊が2体、ユリコがいると思われる方向に向かった。しかし、ぶつかった瞬間に弾き返された。

「スペルターニングだ。続けろ」

 炎の精霊と風の精霊を続けて当てると、今度は通った。

 そしてスペルターニングが消えた。

「グレーターディスペルマジック」

 俺は唱えた。

 透明化が解けた。

 姿が現れた。

 図書館の受付で見た顔だ。でも今は戦闘装備を纏っている。銀色の長い髪。冷静な目。あれがユリコだ。

「ニア、行け」

「もう行っとるで」

 ニアがユリコに向かって突進した。しかし途中で戦士が割り込んできた。大柄な体格で、両手剣を構えている。ニアと戦士が正面からぶつかった。

 バルドは魔力術士に突撃している。

 均衡が取れている、と思った次の瞬間だった。

「パワーワードスタン」

 ユリコの声が、静かに響いた。

 サークが止まった。

 4肢が動かなくなって、その場に崩れ落ちる。主火力が封じられた。

 すぐさま加護術士がディスペルを飛ばした。バルドの炎が消える。魔力術士が体勢を立て直した。クラウドがこちらの風の精霊に向かってサプレスエレメンタルを展開し、精霊が霧散した。吟遊詩人が新たな風の精霊を呼び出す。

「リアン、サークを頼む」

「わかったわ」


 リアンのコータリゼイションがサークに届いた。麻痺が解けて、サークが起き上がる。

「サーク、後衛をまとめて叩け」

「了解しました」

 サークがファイアーボールを放った。加護術士、魔力術士、そして吟遊詩人が呼び出した風の精霊をまとめて巻き込む。後衛が揺らいだ。風の精霊が消えた。

 光の精霊2体が加護術士へ向かう。炎の精霊が魔力術士を削る。

「ニアにヘイスト」

 俺はニアに加速魔法をかけた。ニアの動きが目に見えて速くなった。戦士が一瞬だけ対応に遅れる。ニアの拳が戦士の胴に入った。

「優勢だで」

「そのまま押せ」

 バルドがユリコへターゲットを変えた。直接仕留める気だ。

 しかし。

「パワーワードスタン」

 また、あの静かな声が聞こえた。

 バルドが止まった。

 空中で動けなくなり、ゆっくりと落下していく。前衛が2人とも止まった。これは致命的だ。

「ゾマ!」

「もうやってる」

 ゾマがスカイウイングをサークにかけた。サークが浮き上がる。

「バルドをお願い」

 サークが麻痺中のバルドを抱えて安全な位置まで移動させた。役割が入れ替わった。

 しかし、その間に敵は動いていた。

 魔力術士が炎の精霊に集中攻撃を浴びせた。炎の精霊が消える。加護術士が光の精霊の1体にディスペルを当てて解除した。クラウドが残りの光の精霊に向かってサプレスエレメンタルを展開した。最後の1体が霧散した。

 精霊が、全滅した。


 俺は状況を確認した。

 サークはバルドを抱えて後方に下がっている。バルドの麻痺はまだ解けていない。ニアは戦士と1対1で優勢を保っているが、単独だ。精霊は全て消えた。

 ユリコは無傷だった。

 スタン2発で前衛を順番に止めた。支援役が即座に回復を入れた。精霊を体系的に潰してきた。

 ユリコの戦い方が、はっきりと見えてきた。

 状態異常で主力を順番に無力化する。支援役がすぐに立て直す。精霊を含めた増援をとにかく消す。1つひとつの手が噛み合っていて、無駄がない。

 問題は、ユリコを止める手段が今の俺たちにはないことだ。後衛の加護術士と魔力術士を放置していれば、じわじわと削られて詰む。かといってユリコに直接向かえば、スタンで止められる。

 どう崩す?

 俺は頭の中で高速で考えた。精霊が全滅した。前衛が止まっている。ニアは孤立している。

 このままだと押し切られる――。


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