↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/107

第73話 指名手配と撤退

 全員の意見を聞いた結果、俺たちは「1日退避」を選んだ。

 理由はシンプルだ。今日の俺たちは探索に特化した魔法構成で動いていた。マジカルガードも全員分は用意していない。ゾマが「今日来る」と言った、その理由がそのままこちらの弱点でもある。準備が整っていない状態で迎撃するのは、最初の夜のダリウス戦と同じ轍を踏むことになる。

 リアンが提案した。

「アラームを設置しましょう。

 侵入検知の魔法よ。今までの野営場所に仕掛けておけば、夜間に誰かが近づいたかどうかがわかる。襲撃があったかどうかの確認くらいはできるわ」

「頼む」

 俺たちは王都からさらに離れた場所に野営場所を移した。全員で今夜の警戒態勢を決めた。

 翌朝。

 元の野営場所に戻ると、アラームが反応していた。

 夜間に、誰かが侵入しようとした。

「退避は正解だったな」

 バルドが静かに言った。誰も反論しなかった。


 その日から、俺たちは戦闘用の魔法構成で動くことにした。俺はマジカルガードを全員分や回復魔法、サークはバーニングストライク等の戦闘用の魔法の準備を維持した。前回のダリウス戦で有効だった迎撃準備を、可能な限り再現する。

 しかし、次の夜は元の野営場所に戻ったが、何も起きなかった。

 静かだった。それが、かえって不気味だった。敵が引いたのか、あるいは別の手を打ちながら時間を稼いでいるのか。考えれば考えるほど、答えが出ない。


 3日目の朝、情報を集めに王都に向かおうとした時だった。

 野営場所に、5人組の冒険者パーティーが近づいてきた。

 向こうが俺の顔を見た瞬間、空気が変わった。

「探したぞ。エリザベート館長を殺した奴だ」

 1人が指を差した。

 俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「賞金首だ。逃がすな」

 剣が抜かれた。俺は咄嗟に後ろに下がり、サークとバルドが前に出た。

「待て、話を――」

「黙れ。館長を殺しておいて何が話だ」

 交渉の余地はなかった。

「スタンスローター」×2

 サークとリアンの声が静かに響いた。

 次の瞬間、5人全員がその場に崩れ落ちた。麻痺だ。手足が動かなくなり、地面に倒れ込む。格下が相手なら、スタンスローターは高確率で通る。

 一方的だった。

 俺たちは全員を縛り上げて、事情を聞く。


 麻痺が解けてきた頃合いで、先頭にいた男に向かって俺は口を開いた。

「エリザベート館長が殺されたというのは、いつの話だ」

「……一昨日の夜だ」

 一昨日。俺たちが図書館から引き返した、その夜だ。

「賞金は?」

「2000ゴールドだ」

 俺は数字を聞いて、思わず目を細めた。2000ゴールドは破格だ。Aランク冒険者でも動くレベルの金額になる。

「お前たちは本当に悪人なのか……」

 縛られたまま、男が低い声で言った。

「普通なら今頃死んでいるはずだ。なんで俺たちを殺さなかった」

「殺す理由がない」

「……そういう奴が、館長を殺すか?」

 男は何か言いかけて、口を閉じた。


 縛めを解いて解放した、冒険者から指名手配書を受け取った。

 開いた瞬間、俺は少し黙った。

 似顔絵がある。俺の顔をもとにしているのはわかるが、明らかに悪人顔に改変されている。目つきが鋭く、口元が歪んでいる。その横に書かれた説明文には「ドラゴンを操る危険な術者」「複数の工作活動に関与」という、大げさな文言が並んでいた。

 完全な印象操作だ。

「発行者を見て」

 リアンが指差した場所には、王都治安部隊長の名前があった。

「国家規模の工作か」

「そういうことね」

 リアンの声は落ち着いていたが、目が冷たかった。

「ユリコは自分が死んだように見せた。そして私達を殺人犯に仕立て上げた。どちらにしても、王都にいる間は私たちに勝ち目がないわ」

「政治的なコネは使えないの?」

 ゾマが聞いてきた。

「マーリンとオーウェンがいる。マーリンはこちらの事情を知っているし、オーウェンもダリウスの件でつながりがある」

「でも2人とも王都の内側の人間でしょう。今回の手配書は治安部隊長が出している。マーリンが動いたとしても、それを上回る政治力があるかどうか……」

 リアンの言葉が途切れた。

「それ以前に、2人がそこまでしてくれるかどうかも怪しいな。」

 バルドも言う。

「確かに信頼性に疑問がある」

 俺は認めた。

 ゾマが口を開いた。

「ハイルセンに戻るのは?」

「ハイルセン?」

「確かに俺たちがハイルセンで積み上げた信頼は、王都よりずっと厚いな。ハミルトンがいる。商人ギルドとも繋がりがある。そこを先に固めて、情報戦で逆転する方が現実的か」

 バルドが言った。

 俺は少し考えた。

 確かに、今の王都は敵が仕掛けた土俵だ。そこで戦い続けるより、自分たちが有利な場所に引いて態勢を立て直す方が筋がいい。

「ハイルセンへ撤退する。今日中に動く」

 俺は答えた。


 王都を離れて、ハイルセンまで3日かかった。

 道中、俺はずっとシェイドのことを考えていた。あいつは地中移動と転移能力を持っている。俺たちが3日かけて移動する距離を、あいつは一瞬で越えられるかもしれない。敵の情報伝達は、俺たちの移動より速い可能性が高い。

 その予感は、ハイルセンの門に着いた瞬間に確信に変わった。

 門番が俺たちの顔を見て、露骨に動揺した。

「あの、お前たちは……」

 既に情報が届いていた。


 ハミルトンの屋敷に直接向かった。門で名を告げると、しばらくしてハミルトン本人が出てきた。俺たちの顔を見て、それから手元の何かを確認した。指名手配書だ。

「これは……本当にあなたたちが?」

「冤罪だ。黒幕はエリザベートという人物で、俺たちはその人物と対立していた」

 ハミルトンはしばらく俺の顔を見ていた。それから、ゆっくりと頷いた。

「わかりました。話を聞かせてください」

 屋敷の中で、俺は最初から順を追って説明した。ユリコの組織のこと、図書館での契約魔法のこと、指名手配が仕掛けられた経緯。そして、ハイルセンの商人ギルドの監査役と繋がっていた黒幕もユリコであると。ハミルトンは途中で口を挟まず、最後まで聞いた。

「商人ギルドに話を通しましょう。ここで足を引っ張られるわけにはいきません」

 その言葉に、俺は素直に礼を言った。


 その日の内に、商人ギルドのギルドマスターが動いた。冒険者ギルドと治安部隊に対して、ハイルセン内での俺たちの扱いについて根回しが行われた。過去の実績と、ハミルトンを筆頭とした複数の有力者の証言が後ろ盾になった。

 結果として、ハイルセンでは俺たちが「正義側」として扱われることになった。

 冒険者ギルドで状況を確認すると、ギルドマスターが少し困った顔で教えてくれた。

「実は、あなたたちが到着するより前に、別の情報が流れていたんです。あなたたちがエリザベートを殺害し、禁断の魔術書を盗み出し、何かを企んでいるという内容でした」

「誰が流した?」

「吟遊詩人だと聞いています。顔も名前もわからない人物ですが、複数の場所で同じ話を広めていたようで」

 俺は少し黙った。

 吟遊詩人。アーキテクト。俺たちより先に手を回そうとしていた。だが、ハイルセンでの俺たちの信用は崩せなかったらしい。

 ハミルトンへの礼を改めて伝え、俺たちはウィンストン館へ向かった。


 ウィンストン館でニアとゾマと合流した後、ゾマが口を開いた。

「1つ気になっているんだけど、なんで吟遊詩人の方が俺たちより先に情報を流せたんだろう? 僕たちが3日かけた距離を」

「転移魔法があるから」

 リアンが答えた。

「この世界には複数の転移系魔法があるわ。フレイムロードは炎属性の5レベルで移動できるけど、行き先に大きな炎が必要だから実用性が低いわ。アースロードは大地属性の6レベルで、大地が繋がっていればどこへでも移動できる。アクアロードは水属性の6レベルで、水が繋がっていれば海の向こう側まで届く。テレポートは風属性の7レベル。プレーンシフトは闇属性の7レベルね。これらは一度行った事がある場所なら自由に移動できるわ。」

「シェイドは大地属性を持っている」

「アースロードの使い手である可能性が高いわ。それだけの実力があるなら、情報を瞬時に伝えることも難しくない」

「加護魔法には転移系はないのか?」

 俺は聞いてみた。

「完全な転移はないわ。レスキューという7レベルの魔法があるけど、これは安全な場所へ、仲間全員を退避させる魔法。好きな場所に自由に行けるわけじゃない」

 なるほど。俺の加護魔法では追いかけることができない。シェイドが転移を使う限り、追跡は不可能だ。


「そういえば」

 ゾマがリアンを見た。

「テレポートが風属性の7レベルなら、僕は習得できる?」

「才能の上限があるのよ」

 リアンが少し考えながら答えた。

「魔法の習得には、属性ごとにその人の才能の限界がある。どれだけ鍛えてもランクが上がらない上限点みたいなものがあってね。上限を超えた魔法は習得できない」

「じゃあ、僕の上限は?」

「測定してみないとわからないけど……」

 俺は冒険者ギルドに行って、ゾマの才能ランクが調べられないか聞いてみた。ギルドの役員をウィンストンの館に連れてきた。能力測定の水晶を持って来て貰った。

 ゾマが水晶に触れた。

 数値が浮かんだ。

水属性:ランク55、レベル16。

風属性:ランク34、レベル25。

闇属性:ランク15、レベル9。

「水が1番高いわね」

 リアンが数値を見ながら言った。

「ランク55なら、将来的にアクアロードを習得できる。水属性レベル36に達すれば使えるはずよ」

「テレポートは?」

「風のランク上限が34。テレポートは風属性の7レベルが必要で、ランクが足りない。習得は不可能ね」

 ゾマは少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。

「アクアロード路線でいくよ」

「それが現実的ね。水が主軸なら、アクアロードが使えるようになれば転移手段も手に入る」

「ゾマ、頼りになるわ」

 リアンが静かに言った。

「私は炎と光使いだから、実用的な転移魔法を習得することができない。でもゾマなら将来的に担える」

「役割分担ということだね」

 ゾマがこくりと頷いた。


 その夜、俺は窓の外を眺めながら考えた。

 王都では社会的に追い詰められた。戦闘では勝てても、情報戦と政治工作では一手先を行かれた。ユリコはそういう戦い方をする。

 でも、ハイルセンでの地盤は守れた。ハミルトンが動いてくれた。商人ギルドが動いた。冒険者ギルドも味方についた。

 今後の方針を、改めて考えなければならない。

 俺は全員に向かって言った。

「明日から、どう反撃するかを考えよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。