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第70話 戦果と選択

 ダリウスとの戦いが終わってから、2日が経った。

 リアンの傷は俺のリジェネレーションと、その後のトリートメントでほぼ回復していた。体の傷は塞がっても、シェイドの一撃を受けた衝撃はリアン自身の中にまだ残っているらしく、口数が少ない日が続いた。それでも今朝は「次に会ったら絶対に燃やす」と静かな声で言っていたので、精神的には立ち直りつつあるのだろうと思う。

 さて。

 戦いの後には、必ず後始末がある。


 倒したダリウスの装備は、まるごとポケットに回収していた。宮廷魔術師が身に着けていたものだ。安物のはずがない。俺は宿の1室にそれらを並べ、リアンと2人で確認作業に入った。

 黒いローブ。細工の入った指輪が3つ。魔力が宿った杖。腰に差していた短剣。それから、薄い革の手袋。

 リアンが1点1点を丁寧に調べながら、小さく口を開いた。

「魔力量を増幅させるローブよ。指輪もそれぞれ違う付与魔法が入っているわ。……それなりのものね」

「俺たちには使えそうか?」

 リアンはしばらく考えてから、首を横に振った。

「魔術師向けの作りね。魔力の流れ方が、魔力魔法使い向けに調整されている。加護魔法や属性魔法には合わないわ」

 俺も実際にローブを手に取って確かめてみたが、確かに何かがしっくりこない感じがした。着られないわけではないが、魔力を行使した時に「ずれ」が生じるような感覚がある。

「魔力術師用か……俺たちには合わないな」

「売りましょう。これだけ揃っていれば、買い取り額もそれなりになるはずです」

 鑑定士のいる店を3軒回って交渉した結果、合計で6800ゴールドという数字が出た。俺は数字を聞いた瞬間、思わず口の中で繰り返した。

 6800。

 悪くない。いや、十分すぎるくらいだ。

 宿に戻って、バルドたちも含めた全員で山分けにした。2人1組のチームが2つなので、折半で3400ゴールドずつ。俺達3人の取り分に、これまでの所持金を合わせると――

「4676ゴールドか」

 声に出すとなおさら実感が湧く。ここへ来た頃を思えば、考えられない金額だった。

 バルドが「おい、こんなに持ち歩いたら落とした時が怖いぞ」と笑いながら言った。リアンが「プラチナ貨幣に換えてもらいましょう」と即座に返す。それに従って、翌朝に両替商で1部をプラチナ貨幣へ変換した。財布が軽くなるのに、資産は変わらない。当たり前のことだが、それが妙に新鮮に感じられた。

 資金に、余裕ができた。

 つまり次は――ビルドを拡張する番だ。


 その夜。サークと2人で、今後の方針を整理した。

「まずは全体の方向性ですね」

 サークが静かに言う。

「次を見据えた選択をすべきだ。次の戦いが相手の本拠地に近い形になるなら、今回のダリウス戦よりもはるかに条件が厳しくなる可能性が高い」

「同感です。ダリウスでさえ、最初の夜は一方的にやられました。格上の相手と戦う前提で準備しないといけないと思います」

 手元に、習得可能な魔法のリストがある。俺はそれを眺めながら、加護魔法の6レベル帯に視線を落とした。

 候補は4つあった。

 1つ目は「デス」。対象を即死させる魔法だ。ただし、効く相手と効かない相手の差が極端らしい。格下には絶大だが、格上にはほぼ無意味になる。強敵を相手にするなら、それは保険にならない。

 俺は迷わず線を引いた。却下。俺の運用思想には合わない。

 2つ目は「リフレッシュ」。接触によって対象の生命力を完全回復させる。ヒーリングやリジェネレーションとは根本的に異なり、蓄積した消耗をまとめて帳消しにするような効果を持つという。

 俺は少し考えてから、採用と書いた。

 理由はシンプルだ。ヒーリング系の魔法は傷を治すが、長時間の戦闘で削られた体力の「底上げ」という意味では限界がある。リフレッシュはその穴を埋める。確実な立て直し手段として、今後必ず必要になる場面が来るだろう。

 3つ目は「プリザーベイション」。死亡した状態にある者の蘇生可能時間を引き伸ばす魔法だ。俺はすでにレイズデッドを持っているが、蘇生には制限時間がある。それを延長できるなら戦術の幅が広がる。

 ただ――今すぐ必要かと問われると、微妙なところだ。

 保留、と書いた。有用なことは間違いない。ただし今は優先度が低い。

 4つ目は「グレーターディスペルマジック」。最大4つの魔法を同時に解除できる上位版のディスペルだ。俺はすでにディスペルマジックとキャンセレーションを持っているが、強敵が複数の付与魔法を重ねてきた場合、1つずつ剥がしていたのでは間に合わない可能性がある。

 採用、と即断した。

 強敵対策の中核になる。単体解除の上位互換として、今後の布石にもなりうる。

 5つ目は「アナライズマジック」。対象にかかっている魔法の正体を看破する。

 俺の手が、一瞬止まった。

 ダリウスとの一連の戦いで、何度か「何をされたかわからない」という場面があった。スペルターニングの反射を確認するために魔法を消費させる戦術は有効だったが、あれは推測に基づいた判断だ。もし、未知の魔法をかけられていたとして、それを看破する手段があれば――

 俺は採用と書いた。情報戦の強化として、これは外せない。

 結論として、今回の取得は3つ。「リフレッシュ」「グレーターディスペルマジック」「アナライズマジック」。320ゴールドが3枠で960ゴールドの消費だ。

 回復と解除と解析。

 万能型への一歩だと、俺は思った。


 サークの魔法選定は、翌朝に2人で話し合った。

 炎の6レベル帯については、サーク自身がすでに候補を絞っていた。

「サモンエレメンタルⅤは必要です。エレメンタルの規模が上がれば、戦闘の補助として使える幅が広がりますし、既にⅣを習得していますので半額で済みます」

「費用は?」

「160ゴールドです」

 安い。俺は迷わず頷いた。

「次が問題です」

 サークが淡々と続ける。

「バーンアウトという魔法があります。炎ダメージに加えて、気絶.麻痺.火傷の3種の状態異常にできる可能性があります」

「状態異常が3種類、同時に?」

「正確には、3種の判定があるという事です。全てが発現するとは限りませんが、格上の相手に対して状態異常が1つでも通れば、戦況は大きく変わります。格上相手でも3回判定があるなら1つくらいは通る可能性が十分にあります。」

 俺は記憶を手繰った。最初の夜、サークも俺も一方的にやられた。あの時、何かでも状態異常が入っていれば。

「採用だな」

「フレイムエリアは却下の方向です」

「範囲型か。味方への影響は?」

「あります。敵の炎使いも強化します」

「それなら却下でいいな。今のパーティ構成で全体範囲は使いにくい」

 サークはわずかに顎を引いた。同意の仕草だ。

「最後に、フェニックスライフ」

「……名前からして、蘇生系か?」

「はい。タカオ様がレイズデッドを持っています。現状、蘇生魔法が使えるのはタカオ様1人だけです。もし、タカオ様が死亡した場合に、誰も蘇生魔法が使えません。俺が蘇生できるようになっておいた方がいいと思います」

 その一言で、俺は少し黙った。

 今まで、俺が蘇生を使う側だった。サークやニアが死んでも俺が生きていれば立て直せる。そういう構図で動いてきた。でも、俺が死んだら?

 その時、パーティは蘇生手段を持たない。

 それは、確かに穴だった。

「採用だ」

「保険としての意味合いが大きいです。使わないに越したことはないですが」

「そうだな。でも持っておくべきだ」

 炎6レベルの取得は3つ。「サモンエレメンタルⅤ」「バーンアウト」「フェニックスライフ」。合計800ゴールドだ。

「大地魔法はどうする?」

 サークがこちらを見た。

「3レベルに、アースシーイングという魔法があります。地中の状態を把握できる索敵魔法です、これだけ取ろうと思います」

 地中。その言葉で、俺の脳裏にある場面が甦った。リアンが一撃で倒れた瞬間。シェイドが地の中から現れて、そのまま消えた。あの1連の動きを、今の自分たちは追うことができなかった。

「シェイド対策だな」

「はい。それが主な目的ですね。地中に潜られた場合、現状では追跡する手段がない。アースシーイングがあれば、少なくとも位置を把握できる」

「迷う理由がない。採用だ」

 40ゴールド。索敵能力の穴を埋める、最も安価で最も的確な選択だった。


 ニアへの相談は、王都の外で待機させている場所まで足を運んだ。

 ニアは俺の顔を見るなり、大きな翼を軽くはためかせた。

「タカオ様、怪我はもうええんか?」

「俺はもう大丈夫だ。お前はどうだ」

「わいは元気や。ゾマとずっとしゃべってた」

 隣でゾマが「暇ではなかった」と静かに言った。多分それは同意の意味だと思う。

 ニアの風魔法は現在、3レベルまでだ。4レベルへの拡張について、俺は選択肢を並べて話した。

「習得はゾマに教えてもらえるか?」

「聞いてみる」

 ニアがゾマの方を向くと、ゾマは少し考えてから頷いた。外部から習得する形になれば、費用は半額になる。

「それとは別に、サークから風のエレメンタル召喚を受け継ぐのはどうだ。サモンエレメンタルⅢだ」

「わいは近接戦闘がメインやと思っとったわ。

「一応できる事は増やしておかないとな」

「わかったで」

 その言葉に、俺は小さく笑った。

「トルネードとミサイルガードも取ってほしい。トルネードは範囲攻撃と分身対策になる。ミサイルガードは遠距離の飛び道具を防ぐ」

「ミサイルガード、わいにとっては重要やな」

「そうだな。お前は前線に出ることが多いから、遠距離からの奇襲に対する備えがあると安心だ」

 ニアはこくりと頷いた。

 合計、40ゴールドずつで80ゴールドの消費になる。


 全ての習得が終わった夜、俺は宿の窓から王都の灯りを眺めながら、総額を改めて計算した。

 今回の支出は合計1880ゴールド。所持金は4676ゴールドから2796ゴールドへと減ったが、まだ余力はある。次の準備もできるくらいの余裕だ。

 蘇生手段が増えた。フェニックスライフで、俺が倒れてもサークが立て直せる。リフレッシュで、消耗を帳消しにできる。グレーターディスペルで、強力な付与魔法を1気に剥がせる。アナライズマジックで、未知の魔法の正体を看破できる。アースシーイングで、地中に潜ったシェイドを追跡できる。

 ニアは空戦と範囲制圧の両面が強化された。

 着実に、対ボス仕様になってきている。

 そう思いながら、俺はふと手のひらを眺めた。

 アナライズマジックを取得した時のことが、また頭をよぎる。

 今、自分たちに何かかかっていないか?

 試してみようか。でも今は深夜で、サークも眠っている。明日でいい。

 そう考えて、俺は目を閉じた。

 準備は、整いつつある。

 それでも何かが、ひっかかる。

 王都の夜は静かだった。何の動きもない。

 その静けさが、妙に――不気味だった。


メモ


タカオ

加護魔法 ランク49 レベル36

ポケット 37+1

習得魔法

 レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック

 レベル2:ヒーリングプラス・ストレングス・ウィーク・マジカルガード・センスエネミー

 レベル3:リジェネレーション・キュアディジーズ・ヘイスト・ディスペルマジック・キャンセレーション・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ・アースシーイング

 レベル4:キュアポイズン・センスライ・クリエイトスクロール・フィッシュムーブ

 レベル5:レイズデッド・トリートメント・リムーブカース・リセット

 レベル6:リフレッシュ・グレーターディスペルマジック・アナライズマジック

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル7

植物知識 レベル8

地域知識 レベル12

水泳   レベル4

善行ポイント 2.00

スクロール:エイド


サーク

属性魔法(炎) ランク49 レベル36

属性魔法(地) ランク25 レベル9

属性魔法(光) ランク30 レベル20

ポケット 34+1

習得魔法

 レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック・バークスキン

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・ホーリーライト・フレイムボディー・ストーンサーバント

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ホーリースフィア・ファイアーボール・ミラージュフレイム・シャインヒール

 レベル4:サモンエレメンタルⅢ・セーブライフ・バーニングストライク・スタンスローター

 レベル5:サモンエレメンタルⅣ・ファイアイミュニティー・サプレスエレメンタル・フレアボム・コータリゼイション

 レベル6:サモンエレメンタルⅤ・バーンアウト・フェニックスライフ

近接戦闘 ランク9 レベル7

鋭敏感覚 レベル14

気配感知 レベル10

水泳   レベル4

善行ポイント 6.66


ニア

属性魔法(風) ランク25 レベル19

属性魔法(光) ランク63 レベル12

ポケット 16

習得魔法

 レベル1:サンダー.ウィンドショット・スリープ・ライト・ディテクトマジック

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・インパルス・ウィンドトーク

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・スカイウイング・ガストウィンド・シャインフラッシュ・シャインヒール・マジックファング

 レベル4:サモンエレメンタルⅢ・トルネード・ミサイルガード

近接戦闘 ランク45 レベル22

電撃ブレス レベル11

危険感知 レベル12

気配感知 レベル13

視認   レベル16

水泳   レベル1

善行ポイント 24.15


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