第63話 王都帰還と調査開始
王都バークホルムに着いたのは、ハイルセンを出て3日後だった。
途中の野営では魔物に遭遇したが、全員が揃っている状態では問題にならなかった。ニアとゾマの飛行で移動を短縮しながら、狩りで食料を補いつつ進んだ。
王都の門が見えた時、俺はニアに向かって言った。
「王都には入らないでくれ」
「なんでや」
「内部にユリコの関係者がいる可能性がある。王国に従魔を預けると、そちらから情報が漏れるかもしれない」
ニアが少し不満そうな顔をしたが、頷いた。
「わかった。外で待つ」
「ゾマも一緒に頼む」
ゾマも了承した。2体には町の外の目立たない場所で待機してもらうことにした。何かあれば、ウィンドトークで連絡が取れる。
6人のうちタカオ、サーク、バルド、リアンの4人で王都に入った。
久しぶりの王都だ。守護竜選定以来だから、かなり時間が経っている。通りの様子は変わっていないが、どこか違う目で見ていた。
「王都に行くのはいいが……準備なしで会うのは危険だ」
俺は歩きながら言った。
「何をしてくるか分かりませんね」
サークが言った。
「契約系、精神干渉、いくらでもあるわよ」
リアンが続けた。
「……なら対策が必要だな」
俺は言った。
「ユリコの情報も含めて、一度調べよう。王国の政治機構についてもだ」
「図書館がいいわね。王都なら充実しているはず」
「そうしよう」
王都の図書館は、中央広場の近くにあった。
石造りの落ち着いた建物だ。入り口を入ると、受付があった。
受付に女性が座っていた。30代ほどで、眼鏡をかけている。落ち着いた雰囲気の、いかにも図書館員らしい人物だ。
「閲覧のご利用ですか」
「はい。政治関係と魔法関係の資料を調べたいと思っています」
「わかりました。閲覧申請に名前と連絡先をご記入ください」
女性が書類を差し出した。俺は受け取って、名前と今滞在している宿の名前を書いた。サークも確認用に名前を書く欄があった。
「従魔は確認のため足型を押していただきます」
サークが前足の型を押した。バルドとリアンも記入欄に必要事項を書き込んだ。
「これでいいでしょうか」
「はい、問題ございません」
女性が書類を受け取った。丁寧に確認してから、奥に向かった。
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ言って、奥の棚の向こうに消えた。
広い閲覧室に案内された。
棚が並んでいて、様々な書物が整理されていた。俺たちは2手に分かれて資料を探した。リアンが魔法関係、俺とサークが政治関係、バルドが軍事と治安関係を担当した。
まず魔法の資料を確認した。リアンが関連する書物を持ってきた。
「契約魔法について」
リアンが読みながら言った。
「自発的に名前を書くことで発動する。強制されていない状態での記名が条件になる。契約書に記載された内容に、一定の強制力が生まれる」
「どうやって解除する」
「ディスペルマジックでは解除できない場合が多い。高位の契約魔法はリムーブカースが必要になる」
「精神干渉は」
「魔力魔法か吟遊詩人魔法に多い。基本的にはディスペルで対応できるが、上位のものはリムーブカースが必要」
政治構造の資料に移った。
表向きの体制はわかりやすかった。国王が頂点にいて、騎士団と宮廷魔術師団が補佐する。商人ギルドが経済的な役割を担う。普通の王国の構造だ。
「……普通の王国だな」
俺は言った。ただし、読み進めると違和感が出てきた。
騎士団と宮廷魔術師団の間に対立の記録がある。過去に王命が実行されなかった事例がいくつかある。特定の貴族が異常に強い影響力を持っていた時期がある。
「おかしくないですか?」
サークが言った。
「権力が分散してるのよ」
リアンが言った。
「王が命令を出しても、実行するかどうかは各組織が判断している。実質的な権力が1点に集中していない」
「つまり……王が全部動かしてるわけじゃない」
俺は言った。
少し考えた。
「逆だな」
「逆?」
「それぞれが勝手に力を持ってる。王の権威は形式的に保たれているが、実際の力は分散している」
「だから――」
サークが続きを読んだように言った。
「一部を押さえれば、全体を動かせる」
「そうだ」
俺は確信した。
「ユリコは王を操ってるわけじゃない。権力の"要所"を握ってるんだ。騎士団の誰か、宮廷魔術師団の誰か、あるいは有力な貴族。そういった実質的な力を持つ者に食い込んでいる」
「厄介ね……」
リアンが言った。
「王を動かすより、はるかに見えにくい。どこが要所なのかを特定するだけでも、時間がかかる」
「実際の実力者まではここじゃ分からないな」
俺は言った。
資料で調べられることには限界がある。表向きの構造は把握できた。しかし、今現在誰が実質的な力を持っているのかは、現地の情報がなければわからない。
「ギルドで情報を集めるか」
バルドが言った。
「そうなるな。冒険者の話から、最近の王都の動きが見えてくることもある」
「商人の動きも参考になるわよ」
「明日、手分けして動こう」
「今日はここまでにして戻ろう」
俺は言った。
「ニアとゾマも待ってる」
閲覧していた資料を棚に戻した。書き留めた内容を整理しながら、4人で図書館を出た。
夕方の光が石畳に伸びていた。王都の通りに、行き交う人々の声が混じっている。
この町の中に、俺たちの名前と行動を把握しようとしている誰かがいる。まだ姿が見えない。ただ、同じ空気を吸っているのだという感覚だけがあった。
門の外で、ニアとゾマが待っているはずだ。
俺は足を速めた。




