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第59話 情報の根を断て

 噂の内容が、妙に具体的だった。

 ハミルトンが市場を操作している。買い占めを主導した黒幕だ。そういう内容が、ハイルセンの複数の場所で同時に広がっていた。

「ただの噂にしては精度が高すぎますね」

 サークが言った。

「……誰かが意図的に流している」

 俺は答えた。

 噂には特徴がある。発生が早かった。ハミルトンが大量放出を実施した翌日には、もうギルドで話題になっていた。それだけでなく、内容が複数の場所で統一されていた。尾ひれが付いたり、話が変形したりするのが通常の噂の動き方だが、今回は骨格が崩れていない。広がり方も、自然発生の噂とは違う速度だ。

 自然発生ではない。発信源がある。


「どこから広がったのかを調べる」

 俺は全員に役割を振った。

 バルドとリアンは冒険者たちに聞き込みをする。ハミルトンは商人仲間のネットワークから情報を集める。俺とサークはギルドの周辺と一般の人々から話を聞く。

 半日かけて情報を集めた。

 夜に全員で集まって整理した。

「ギルドで聞いたという人間と、商人から聞いたという人間が多かった」

 バルドが言った。

「割合はどうだ」

「ギルドで聞いたが6割、商人経由が残りの4割くらいだな」

「発生源は2つに絞れるな」

 俺は言った。

「商人ギルドの内部と、商人個人のネットワーク。どちらか、あるいは両方だ」


「偽情報を流して反応を見る」

 俺は言った。

「どういうことですか」

「複数パターンの情報をそれぞれ違う相手に流す。そのどれが広まるかを確認する。広まった情報を流した相手が、発信源に近いということになる」

 作戦を組んだ。

 Aの情報はハミルトンが在庫を隠しているというもの。ハミルトンの従業員数人に、それとなく話す形で流す。Bの情報は別の商会が裏で動いているというもの。リアンとバルドが冒険者ギルドで雑談に混ぜる形で出す。Cの情報はシルバムなど別の町に採取者が売っているというもの。俺が一般の商人数人に話す。

「どれが広まるかで、誰が情報を拾って流しているかが見えてくる」

「面白いですね」

 サークが言った。

「やってみる価値はある」


 数日待った。

 その間も通常の依頼をこなしながら、情報の動きを観察した。バルドとリアンが聞き込みを続けた。ハミルトンも商人のネットワークから動向を追った。

 3日後に集まった。

「流れたのはAだけですね」

 サークが言った。

 Bの情報とCの情報は、ほとんど広がっていなかった。Aだけが、また複数の場所で同時に聞かれるようになっていた。内容も統一されたままだ。

「Aを話した相手は商人ギルドだ」

 俺は言った。

「ハミルトンの従業員が話した相手が、商人ギルドに繋がっている誰かだということですね」

「そうだ。次はそこを絞る」


 ハミルトンに商人ギルドの内部の情報の流れを調べてもらうことにした。

 2日後、ハミルトンから報告が来た。

「ヴェイン商会が情報を流している可能性が高い。商人ギルド内でヴェイン商会と近い立場にいる者が複数いて、その人間経由で広がっている形跡がある」

「ヴェイン商会か」

 買い占めの主体として名前が出ていた商会だ。情報操作も同じところがやっていることになる。

「もう少し調べる」

 俺はサークとバルドとリアンで動いた。冒険者ギルドで、ヴェイン商会に関する情報を集めた。

「ヴェイン商会に出入りしている吟遊詩人がいるらしい」

 リアンが言った。

「吟遊詩人か」

「商人と頻繁に取引したり、情報交換したりしているという話だ。特定の人物なのか、複数なのかまではわからない」

 吟遊詩人という言葉が引っかかった。マーフォークの件で関わった吟遊詩人のことが頭をよぎったが、今すぐ結びつけるのは早計だ。

「現地を見る」


 ヴェイン商会の建物を遠くから観察した。

 中規模の倉庫を兼ねた商会だ。人の出入りがある。荷物を運び込む者が複数いた。

「薬草の匂いがしますね」

 サークが鼻を利かせながら言った。

「かといって証拠を押さえたわけではないので、踏み込むわけにもいかない」

 俺は言った。

 臭いは感じる。怪しいとは思う。ただし、これだけでは何も動けない。商人ギルドを通じて正式な調査が入らなければ、中の状況は確認できない。

「ハミルトンさんに報告して、商人ギルドを動かしてもらう方向で」

「そうするしかないな」


 ハミルトンへの報告を終えると、ハミルトンがすぐに動いた。

 商人ギルドマスターに話を通して、正式な調査を入れることになった。翌日、ハミルトンから連絡が来た。

「ギルドマスターからの調査が入る。証人として立ち会ってほしい」

「わかりました」

 ドラゴンは商会の建物に入れない。ニアとゾマは外で待機してもらう形になった。バルド、リアン、サーク、俺の4人でハミルトンと商人ギルドの調査員に同行した。


 ヴェイン商会の入り口に着いた。

 調査員が商会の扉に向かって、正式な調査の旨を告げようとした。

 その瞬間だった。

 魔法が飛んできた。

 調査員の1人に直撃した。男が声を出す間もなく倒れた。もう1人の調査員が壁に弾き飛ばされた。

 俺は即座に全員を確認した。バルド、リアン、サーク。全員立っている。ハミルトンが壁に張り付いて動けなくなっていた。

 商会の扉が開いた。

 用心棒らしき者たちが出てきた。1人、2人、3人。さらに続く。武器を手にしている。表情がない。仕事として動いている顔だ。

「囲まれるぞ」

 バルドが低く言った。

 俺は状況を確認した。調査員が2人倒れている。ハミルトンが動けない。俺たち4人と、数の上では用心棒の方が多い。

 正面に、まだ扉から人が出てきていた。


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