第54話 炎の戦い方
シルバムの町外れに、ちょうどいい木陰があった。
人通りがなく、落ち着いて話せる場所だ。俺とサークとニアの3人で、依頼の後始末をしながら現状を整理した。
報酬の確認から始めた。今回の依頼の半額分が手元に入って、宿代を引いた後の所持金が1286ゴールドになった。
次に成長の確認だ。
俺の加護魔法がレベル22からレベル23に上がっていた。ポケットが24+1になった。それと、植物知識がレベル3からレベル6に跳ね上がっていた。今回の採取で、見慣れない植物を大量に扱ったのが効いたのだと思う。地域知識もレベル2からレベル3になっていた。
サークは地魔法がレベル4からレベル5に、光魔法がレベル18からレベル19になっていた。ポケットが20+1に増えた。鋭敏感覚がレベル8からレベル9、気配感知がレベル7からレベル9へ。
ニアは風魔法がレベル13からレベル14、光魔法がレベル7からレベル8になっていた。ポケットが11から12に増えた。危険感知がレベル11からレベル12、気配感知がレベル10からレベル12へ。
数字の上では順調だ。
「……善行ポイント、増えてないな」
俺は本を確認しながら言った。
これまでは依頼を達成するたびに、わずかでも増えていた。今回は完全にゼロだった。変化がない。
「そういや、あの依頼……なんか変やったな」
ニアが言った。
「依頼の内容自体は普通だった。ただ」
俺は言いかけて、止まった。何が変だったのかを言語化しようとすると、うまくいかない。採取依頼として完了した。報酬ももらった。ただ善行ポイントが増えていない。
「ですが、理由までは分かりません」
サークが言った。
「……考えても仕方ないか」
俺は本を閉じた。
引っかかりは残る。ただ、今の時点では何も判断できない。材料がなさすぎる。
「……炎レベルが伸びていません」
サークが言った。
俺は顔を上げた。サークが自分のステータスを見ながら、珍しく困った顔をしていた。
「今回の戦闘を振り返ると、光魔法ばかり使っていました。ホーリーライトでアンデッドを処理して、シャインフラッシュで視界を制圧して、シャインヒールで回復した。炎はほとんど使っていません」
「サークの強みは炎だろ」
「そうです。ただ光はリアンの方が上ですし、ニアの素質もある。俺が光を使い続けることが、パーティー全体として最善かどうかを考えると」
俺は少し考えた。
サークの光魔法は確かに高い水準にある。しかしリアンの光属性はさらに上で、ニアの光属性の才能ランクは63という桁違いの数値だ。長期的に見れば、光はニアとリアンが担う形になる可能性が高い。
「サークにしかできない役割を考えると、炎か」
「大地も伸びていますが、炎の方が戦闘での即効性が高い」
「今使える炎魔法は何がある」
「最大火力はファイアーボールです。ただ今回の依頼は森の中でしたので、使いませんでした。山火事になります。フレイムボディーで体に炎をまとわせる使い方、ミラージュフレイムで回避率を上げながら炎属性の攻撃を放つ使い方、精霊召喚で炎の精霊を出す使い方があります」
「全部使える状況が整っていなかっただけで、手段は揃っているな」
「……そうですね」
サークが一拍置いた。
「俺の強みを出すためにも――今後は炎を優先します」
珍しく、はっきりと言い切った。
ギルドに戻って掲示板を確認した。
バルドとリアンとゾマが別の依頼を見ていた。北西方面の採取依頼で、3人で行けそうだという。
「今回は別行動でいいか」
「問題ない。俺たちはこれを受ける」
バルドが頷いた。リアンが地図を確認しながら「気をつけてね」と言った。
俺が目を向けていた依頼は、荒野での害虫系魔物の大量発生駆除だ。
依頼票を詳しく読んだ。数が多い。再生力があって、焼かないと増える。魔物知識がレベル6になっていたおかげで、その特性がすぐにわかった。生息地は乾燥した荒野で、周囲に燃えるものが少ない。地域知識がレベル3になっていたので、地形の特性も把握できた。
「炎の練習にはちょうどいい」
「……分かりました」
サークが答えた。
荒野に着いたのは昼過ぎだった。
焼け跡のような地形だった。土が赤茶けていて、草もほとんど生えていない。空気が乾いている。
群れがいた。
小型の虫型魔物が、地面を埋めるように蠢いていた。1体1体は小さいが、数が尋常ではない。見渡す限り動いている。
「うわ……気持ち悪い数やな」
ニアが上から言った。
「これは……確かに炎向きですね」
サークが静かに言った。炎を使うことへの迷いが、声から消えていた。
「行くぞ」
魔物が一斉に動いた。
地面から波のように押し寄せてくる。数が多すぎて、ニアの爪でも処理が追いつかない。1体倒しても、その隙に5体が前に来る。
「サーク、任せた!」
俺はエイドを使ってサークのポケットを1つ回復した。直前の移動でいくらか消費していた分を補う。
「……いきます」
サークが息を吸った。
ファイアーボールが炸裂した。
着弾点を中心に、炎が広がった。乾いた地面が熱を吸って、魔物が1帯で焼き尽くされた。土煙と炎が混ざった煙が上がった。
「1気に減ったで!」
ニアが上から言った。
確かに数が激減した。しかし全滅ではない。外周にいた個体が生き残っていて、さらに焼き残された個体が再生を始めていた。体の1部が繋がっている間は、増殖に向かおうとする性質があるらしい。
「やはり焼き切らないと……!」
サークが言った。
2発目のファイアーボールが飛んだ。3発目が続いた。連続使用だ。ポケットの消費が激しいが、中途半端に残すよりも1気に片付けた方がいい。俺はエイドスクロールを確認した。在庫を使うタイミングは今ではない。まだ余裕がある。
外周から接近してくる個体が増えてきた。
ファイアーボールの射程外から、じわじわと寄ってきている。ニアが爪で対応していたが、数が多い。
「フレイムボディー!」
サークが魔法を使った。炎の膜がニアの体を包んだ。
「ニア、そのまま踏み込め」
「任せてな」
ニアが地面に降りた。群れの中に突っ込んでいく。体に触れた魔物が、接触した瞬間に燃えた。ニア自身は傷つかない。炎を纏った体が、そのまま群れを薙いでいく。
近接の処理速度が1気に上がった。
俺は後方でヒーリングとエイドを使いながら、サークとニアの状態を確認していた。サークがポケットを消費するタイミングでエイドを入れる。ニアが群れの端まで行ったら戻るように合図を出す。それだけだったが、それだけで十分だった。
サークが主火力。ニアが近接処理。俺が補給と回復。3人の役割が、今日の戦闘ではっきりとした形で機能していた。
群れが消えた。
最後の個体がサークのファイアーボールで焼かれた。再生の動きが止まった。焼けた地面だけが残った。煙が風に流れていく。
「……炎の方が、圧倒的に効率がいい」
サークが言った。
「最初からそう言ってる」
俺は答えた。
「ええ感じやな!」
ニアが言った。体についた炎の残滓を翼で払いながら、満足そうな顔をしていた。
サークが荒野を見渡した。一面が焼けている。魔物の痕跡が残っているが、動くものは何もない。
俺はサークの横顔を見ていた。何かを確かめているような目をしていた。
しばらくして、サークが小さく息を吐いた。
これが自分の戦い方だと、理解した顔だった。言葉にしなくても、そう見えた。
「次からはこれで行くぞ」
俺は言った。
「はい」
サークが答えた。今度は迷いがなかった。
帰路につく前に、俺は本を開いて全員のステータスをもう一度確認した。
今日の戦闘でどこが動いているか、次の話をするための材料にする。
荒野の煙がまだ漂っていた。遠くに、シルバムの屋根が見えた。
メモ
タカオ
加護魔法 ランク36 レベル23
ポケット 24+1
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック
レベル2:ヒーリングプラス・ストレングス・ウィーク・マジカルガード・センスエネミー
レベル3:リジェネレーション・キュアディジーズ・ヘイスト・ディスペルマジック・キャンセレーション・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ
レベル4:キュアポイズン・センスライ・クリエイトスクロール・フィッシュムーブ
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル6
植物知識 レベル6
地域知識 レベル3
水泳 レベル4
善行ポイント 8.35
スクロール:エイド
サーク
属性魔法(炎) ランク25 レベル13
属性魔法(地) ランク25 レベル5
属性魔法(光) ランク30 レベル19
ポケット 20+1
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック・バークスキン
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・ホーリーライト・フレイムボディー・ストーンサーバント
レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ホーリースフィア・ファイアーボール・ミラージュフレイム・シャインヒール
レベル4:サモンエレメンタルⅢ・セーブライフ
近接戦闘 ランク9 レベル5
鋭敏感覚 レベル9
気配感知 レベル9
水泳 レベル4
善行ポイント 4.86
ニア
属性魔法(風) ランク25 レベル14
属性魔法(光) ランク63 レベル8
ポケット 12
習得魔法
レベル1:サンダー.ウィンドショット・スリープ・ライト・ディテクトマジック
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・インパルス・ウィンドトーク
レベル3:スカイウイング.ガストウィンド
近接戦闘 ランク45 レベル10
電撃ブレス レベル11
危険感知 レベル12
気配感知 レベル12
視認 レベル14
水泳 レベル1
善行ポイント 6.60




