↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/107

第52話 見えない領域

 シルバムのギルドから、Cランク認定試験の打診があった。

 タカオ、サーク、バルド、リアンの4人で受けた。結果は即合格だった。


 Cランクになったその日の午後、掲示板を確認した。

 シルバム北東方面の採取依頼が複数並んでいた。それぞれ別の素材を指定しているが、採取地点が近いエリアに集中している。まとめて受注すれば効率がいい。報酬はやや高めに設定されていた。

「人が入らない場所だ」

 バルドが地図を見ながら言った。

「危険な魔物がいる可能性がある」

「それでも受けるか」

「全員で向かえば問題ない」

 俺も同じ判断だった。6人編成で動けば、多少難易度が高い場所でも対処できるので、まとめて受注した。


 翌日、6人で北東の方向へ出発した。

 まずはある程度近くまではニアとゾマに乗って移動する。

 ある程度近づいたところで、目的の植物を求めて獣道を進む。ニアが上空から先行して確認しながら進んでいく。ゾマは少し後ろに控えながら、危険感知を維持していた。

 採取は順調に進んだ。指定された素材のうちいくつかは、道沿いの草木で見つかった。俺が植物知識を使いながら確認していくと、どんどん袋に入っていく。

「これ、用途が分からない植物だな……」

 俺は1種類の葉を摘みながら言った。植物知識がレベル3あるが、この形状の葉には見覚えがなかった。依頼票には「特定の染料の原料になる」とだけ書いてある。

「持って帰ればええんやろ?」

 ニアが上から言った。

「そうなんだが、知らないものを摘んでいると気になる」

「タカオ様は、細かいで」

 ニアが言った。俺は苦笑しながら袋に入れた。


 午後になって、目的地付近に入った。

 空気が変わった。木々が密集して、日差しがほとんど届かない。地面がじっとりと湿っていて、苔が厚く積もっている。視界が狭い。5メートル先の木の向こうが見えない場所もあった。

「くまなく探す必要がある」

 俺は言った。残りの採取素材が、この深い森の中にあるらしい。

「手分けするか?」

 バルドが言った。

 俺は少し考えた。視界が悪い場所での分散は、通常なら効率化になる。ただ、こういう場所には何かいる可能性がある。

「もう少し様子を見てから判断しよう」

 全員で固まって進んだ。


 その時、背中に衝撃が来た。

 鋭い痛みが走った。石の刃のようなものが背中をかすった感触だ。振り返った。何もいない。木々が静かに並んでいるだけだ。

「タカオ様!」

 サークが俺の背中を確認した。傷は浅い。リジェネレーションをかけるほどではない。ヒーリングで十分だ。

「大地魔法……でも姿が見えない」

 リアンが周囲を見渡しながら言った。

 ストーンエッジだ。地面から石の刃を出す大地属性の攻撃魔法。俺もサークの習得候補として調べたことがある。使った者の姿が見えないということは、遠距離から、あるいは隠れたまま使っている。

「分断はなしだ。警戒して進む」

 俺は全員に言った。

 何かがいる。ただし見えない。


 さらに進んだ。

 気配はある。サークの気配感知が何かを拾っている。ニアの危険感知も反応しているらしく、「なんか変や」と上から言ってきた。しかし、どこを向いても姿が見えない。

 5分ほど歩いたところで、俺は気づいた。

 景色が同じだ。さっき通った気がする木の並び方だ。同じ苔の形をした岩がある。

「……サーク、ディテクトマジックをかけてくれ」

「かけています」

 少しして、サークが言った。

「一帯に強い魔力反応があります。大地系です」

 リアンが眉を寄せた。何かを考えている顔だった。

「……これは大地魔法7レベル、メイズウッズかもしれない」

「何だ、それは」

「森の中で迷い続ける魔法よ。一定の範囲内で、どこを向いても同じ場所に戻ってくる。外からは普通の森に見えるけど、中にいる人間は出られなくなる」

「使えるのは何レベル以上だ」

「7レベル魔法だから……術者は49レベル以上ってことになるわね」

 場が静かになった。

 49レベル以上。俺の現在のレベルより遥かに上だ。前回の医師より格上の存在がこの森にいる可能性がある。


「消せるのか?」

 俺はリアンに聞いた。

「キャンセレーションなら可能性はあるけど……相手が格上ならほぼ無理」

「ニア」

「なんや」

「今の話、聞いてたか」

「なんとなく。森の中で迷い続けるって言うとったな」

「そうだ。どう思う」

 ニアが少し間を置いてから言った。

「ほな、上に出ればええやろ?」

 俺は少し考えた。メイズウッズは森の中で迷わせる魔法だ。森の外、つまり上空に出ることができれば、その効果の外に出られる可能性がある。

「試してくれ」

 ニアがスカイウイングで上昇した。木の梢を抜けて、空に出た。少しして声が降りてきた。

「普通に見える。上は問題ない」

「俺たちは直進する。誘導してくれ」

「わかった」


 しばらく進んだ。

 やはり同じ場所に戻っていた。俺には感覚があったが、ニアが上から確認してはっきりした。

「……同じところ回っとるで」

「確定ね」

 リアンが言った。

「ニア、外から声で誘導してくれ。ウィンドトークが使えるか」

「使えるで」

 ニアが上空から俺たちに向かってウィンドトークを発動した。声が直接耳に届く感覚があった。

「今、少し右にずれとる。もっと左、そこ、今真っ直ぐや」

 ニアの声を頼りに進んだ。同じ場所に戻る感覚が来ても、ニアの指示に従って向きを修正した。少しずつ、確実に外側に向かっていった。

 木々の密度が薄くなった。日差しが見えた。

 森を抜けた。

「出られたな」

 バルドが言った。短い言葉だったが、安堵が混じっていた。


 開けた空間があった。

 森の外側に、広場のような場所がある。木が途切れていて、空が見えた。地面に岩が点在していた。

「なんや、あれ……」

 ニアが上から言った。

 中央に、それがあった。

 岩の塊だった。高さが7メートルほどある。人工的な形ではなく、不規則に岩が積み上がったような見た目だ。ただし、何かが違った。表面が微かに動いているように見える。

「複数の魔力反応が混ざっています」

 サークが言った。ディテクトマジックを維持しながら岩を見ていた。

「……高位の大地精霊よ」

 リアンが言った。声のトーンが変わっていた。

「サモンエレメンタルⅥ。それも、複数の強化魔法がかかった状態」

 強化魔法が乗っている高位精霊。それが俺たちの前に立っていた。呼び出した術者の姿はない。

 地面が震えた。

 岩の塊が動いた。ゆっくりと、しかし確実に、こちらに向いた。石が削れる音がした。

「……来るぞ」

 俺は言った。

 周囲の地面を見た。どこかに術者がいる。姿が見えない。ストーンエッジを背後から使った者が、今もどこかにいる。

 岩の精霊が腕を持ち上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。