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第51話 再編と選択

 シルバムの宿で、俺は窓の外を見ていた。

 資金がある。経験もある。レベルも上がった。ただ、それで満足している気分にはなれなかった。今回の戦いで、足りなかったものがはっきり見えた。

「……一度、全部見直そう」

 俺は言った。

 サークが隣で本を開いていた。ニアは外で待機している。バルドとリアンとゾマも、それぞれ休みながら次を考えている時間だった。

 今回の戦いで明確になったことが3つある。回復が尽きて撤退した。即死魔法への対策がなかった。役割の整理が中途半端だった。次に同じ状況になった時、同じ結果になってはいけない。


「ニア、少し話せるか」

 俺は外に出てニアに声をかけた。

「なんや」

 ニアが首を傾けた。

「今後の方針を決めたい。お前はどうしたい」

「魔法は……任せるで」

 ニアが少し考えてから言った。

「どういう意味だ」

「光魔法はリアンはんやサークはんの方が上や。風魔法はゾマの方が上や。わいが魔法メインで動いても、同じことをもっとうまくやれる奴がおる」

 俺は少し驚いた。ニアが自分の立ち位置をここまで整理して考えるようになっていた。

「じゃあ何をする」

「わいは前出てかき回す方がええ。でかくて速くて、目立つやろ。敵の注意をうちに引いて、その間に後ろが動く」

「遊撃か」

「そういうことや」

 方針は決まった。ただし遊撃に徹するとしても、何もできないより選択肢があった方がいい。

「魔法を何か追加する。サモンエレメンタルⅠを取れ」

「なんで召喚系なんや」

「壁と囮になる。光の精霊を出せれば、光魔法のレベルを育てる経験にもなる。今のニアのレベルで取れる魔法の中では使い道が広い」

「わかったで」

「それとライトニングだ。射程が長い。遠くから当てられる」

「サークはんから教えてもらえるんか」

「頼んでみる」

 サークに確認すると、快諾してくれた。

 もう1つ、ニアに必要なものがあった。

「ウィンドトークを取れ」

「それは何や」

「視認できる相手と、遠距離でも会話できる魔法だ。1キロ離れていても使える」

「それは便利やな」

「ニアは大きすぎてギルドの中に入れない。ギルドに習得の講師に来てもらうことになるが、費用は俺が出す。追加で10ゴールドかかるが、それだけの価値がある」

 ニアが上空から俺たちに状況を伝えることは以前からやっていたが、ウィンドトークがあれば精度が上がる。視認できる相手ならどこにいても声が届く。索敵と連携の両方で使い道がある。

「ウィンドトーク、わいに合っとる気がするわ」

「俺もそう思った」


 次にサークと話した。

「光属性がレベル4の魔法まで使えるようになった。何を取るか考えたか」

「優先は明確です」

 サークが答えた。

「まずサモンエレメンタルⅢ。今回の戦闘でサモンエレメンタルⅡの精霊がかなり役立ちました。上位の精霊が使えれば、ボス戦での火力が大きく変わります」

「それと」

「セーブライフを必ず取ります」

 サークの声に、珍しく強さがあった。

「今回、ニアとバルドがデスの魔法で即死しました。あれをもう一度見たくない。セーブライフは即死攻撃を1回防ぐ魔法です。予めかけておけば、次は耐えられます」

「俺も同じことを考えていた。取れ」

「それと、ストーンサーバントです」

「どういう使い方をする」

「土の人形を操って、細かい作業をさせる魔法です。スイッチを押す、扉を開ける、装置を操作するといった、精霊では難しい地味な作業ができます。前回のような装置がある戦いでは、人形に囮を担わせる使い方もできます」

「面白い使い方だな」

「はい。それと追加で、ホーリーライトとホーリースフィアを取りたいです」

「ホーリーライトはアンデッド系への広範囲攻撃か」

「低ランクで数が多い場面に有効です。今回の入口付近の戦いで、もう少し早く片付けられた可能性があります」

「ホーリースフィアは」

「マジックジャーや乗っ取り系の攻撃への完全耐性です。シルバムの廃坑の件のような状況に備えます」

 廃坑での経験が、まだサークの中に残っていた。あの時は俺たちが偶然対処できたが、次は保証がない。そのための準備だ。

「全部取れ」

「ありがとうございます」


 自分の再設計を考えた。

「俺が崩れたら終わる」

 俺は独り言のように言った。

 今のパーティー構成で、俺の役割は回復と支援の中核だ。俺が動けなくなれば、全員の継戦能力が落ちる。だから俺は最後まで動き続けなければいけない。それを前提にした構成にする。

 回復効率から始めた。ヒーリングプラスを取る。ポケット消費がレベル2で、全員にヒーリングがかけられる。戦闘後に全員の体力を戻す効率が上がる。

 探索と警戒のためにセンスエネミーを取る。今後、町中や施設内で敵が潜んでいる可能性を考えると、事前に察知できる手段があった方がいい。

 防御面ではマジカルガードを取る。効果時間中、魔法によるダメージが減少する。エレメンタルガードが特定属性のダメージを吸収するのに対して、マジカルガードは魔法全般に対応する。使い分けができる。

 ボス対策として2つ取ることにした。キャンセレーションとヘイストだ。

「キャンセレーションは今回のデスを打ち消せた可能性がありますね」

 サークが言った。

「ただし成功率はレベル差に左右されます。格上の敵が使うデスを確実に打ち消せるかどうかは保証できません」

「それでも、ないより遥かにいい」

「はい」

 ヘイストはバルドにかけると特に効果が大きい。前衛の行動速度が上がれば、戦闘の流れが変わる。

 回復系はキュアディジーズとキュアポイズンを取る。ただし常にポケットに入れていると圧迫する。取得した後はスクロール化する方針だ。自分で作れば市場の半額で済む。

 最後に、フィッシュムーブを取ることにした。今後も水中での行動が必要な場面があれば使う。マーフォークの件を経験した後では、水中対応の手段は持っておくべきだと判断した。


「使った金額を計算しよう」

 俺は各自の習得費用を合算した。タカオ、サーク、ニアの分を全部合わせると、570ゴールドになった。

「……まだ余裕はあるな」

 手元に1188ゴールド残った。

「運用方針を決める」

 俺は全員に向かって言った。

「必要だが使用頻度が低い魔法はスクロール化する。キュアポイズン、キュアディジーズ、将来的にはレイズデッドも在庫として持つ。常にポケットに入れる必要がない」

「エイドはどうするの?」

 リアンが聞いた。

「エイドは買う。自分で作るよりも、高レベル魔法のスクロールを作る時間に充てた方が費用対効果が高い。1レベル魔法のスクロールに1日かけるのは効率が悪すぎる」

「それは納得ね」

「スクロールを作る日は、高レベルのものを1枚作る。セーブライフやキャンセレーションのスクロールがあれば、緊急時に使える」


「ここまで上がったか」

 俺は本を見ながら言った。

 加護魔法がランク36、レベル22。ポケットが23+1。レベル22というのは、少し前の自分からすると想像できなかった数字だ。転生直後にヒーリングを習得した時から、どれだけ遠くまで来たのかを感じた。

「今回の敵は異常でしたから」

 サークが言った。

「アルケミストと呼ばれていた人物。女魔術師。アンデッドの大群。そして口封じに来た存在」

「全部まとめて経験した結果がこれだ」

「それだけの戦いだったということです」

 そう言われると、受け入れやすかった。今回の成長は、今回の戦いの規模に対応したものだ。次の戦いも、同じくらいの規模かそれ以上になるかもしれない。そのための準備が、今日整った。


 全員の役割が、今日ではっきりした。

 前衛はバルドとニアだ。バルドが盾になり、ニアが遊撃で動き回る。後衛の火力はサークとリアンが担う。サークが対ボス対応、リアンが万能型で状況に応じて動く。補助は全員が担い、ゾマが幻影と撹乱で戦況を変える。俺は回復と支援の中核として、最後まで動き続ける。

「……次は、準備した状態で戦う」

 俺は言った。

 今回みたいに回復が尽きて撤退することも、即死魔法への対策がないまま戦うことも、防げる準備ができた。

 問題は、次に何が来るかだ。

 ユリコという名前が、まだどこかにある。医者は末端だった。口封じに来た存在は、それより上の何かだった。どこかにいる、まだ見えない相手が次の手を打ってくる前に、こちらも整えておく必要があった。

 準備は、整った。


メモ


タカオ

加護魔法 ランク36 レベル22

ポケット 23+1

習得魔法

 レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック

 レベル2:ヒーリングプラス・ストレングス・ウィーク・マジカルガード・センスエネミー

 レベル3:リジェネレーション・キュアディジーズ・ヘイスト・ディスペルマジック・キャンセレーション・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ

 レベル4:キュアポイズン・センスライ・クリエイトスクロール・フィッシュムーブ

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル6

植物知識 レベル3

地域知識 レベル2

水泳   レベル4

善行ポイント 8.35

スクロール:エイド


サーク

属性魔法(炎) ランク25 レベル13

属性魔法(地) ランク25 レベル4

属性魔法(光) ランク30 レベル18

ポケット 20+1

習得魔法

 レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック・バークスキン

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・ホーリーライト・フレイムボディー・ストーンサーバント

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ホーリースフィア・ファイアーボール・ミラージュフレイム・シャインヒール

 レベル4:サモンエレメンタルⅢ・セーブライフ

近接戦闘 ランク9 レベル5

鋭敏感覚 レベル7

気配感知 レベル5

水泳   レベル4

善行ポイント 4.86


ニア

属性魔法(風) ランク25 レベル13

属性魔法(光) ランク63 レベル7

ポケット 11

習得魔法

 レベル1:サンダー.ウィンドショット・スリープ・ライト・ディテクトマジック

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・インパルス・ウィンドトーク

 レベル3:スカイウイング.ガストウィンド

近接戦闘 ランク45 レベル10

電撃ブレス レベル11

危険感知 レベル11

気配感知 レベル10

視認   レベル14

水泳   レベル1

善行ポイント 6.60


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