第50話 残された影と次の一手
シルバムのギルドに戻ったのは、夕方近かった。
医者の遺体をゾマが運んでいた。重いものを運ぶのに、ゾマは文句を言わなかった。ただ、表情が硬かった。初めて、こういう形で依頼が終わるのを経験したのだと思う。
ギルドの受付に事情を説明した。担当者が遺体を見て、顔色が変わった。
「……あの医師が?」
しばらく沈黙があってから、続けた。
「無口だったが、評判は悪くなかったはずだ。真面目に仕事をしていると聞いていた」
俺は黙って聞いていた。
悪人が悪人に見えるとは限らない。普通の顔をして、普通の評判を持って、その裏で別のことをやっている。今回の件でそれを改めて思い知った。
「正式な捜査に引き渡す。あなた方の報告は重要な証言になる」
「行方不明の冒険者については」
「捜索を続ける。森の中で何かわかれば連絡する」
それ以上できることはなかった。
「依頼達成扱いで、報酬が80ゴールドになります」
受付の担当者が言った。
6人で分配した。俺達に40ゴールドが入った。
小さな額だった。今回の戦いの規模と比べると、釣り合わない。ただしそれは依頼の報酬という仕組みの話であって、別の形での収益はある。
リアンが回収した装備の売却は、明日以降になる。今日は疲れていた。全員で宿を取って、その日は早めに休んだ。
翌日、ギルドから連絡が来た。
医者の家宅捜索が行われた結果を、情報共有してもらえることになった。ギルドの一角で、担当者から話を聞いた。
「コードネームで"アルケミスト"と呼ばれていた形跡があります」
担当者が資料を見ながら言った。
「ユリコという人物との通信記録が見つかりました。詳細な内容は解読中ですが、定期的なやり取りがあったことは確認できています」
「ユリコから何か受け取っていた?」
「資金です。研究の資金を提供されていた。代わりに、研究の成果を提供する約束をしていたようです」
医者の目的は不老不死の研究だった。金と研究環境を提供してもらう代わりに、ユリコに協力した。スポンサーと被スポンサーの関係だ。ただし、やっていたことの内容は、冒険者を材料にした実験だった。
「ユリコの正体は」
「不明です。名前以上の情報がありません」
俺は礼を言って、その場を離れた。
「……またユリコか」
外に出てから、俺は言った。
「何者だ?」
サークが隣で黙っていた。答えは出ない。ただ、名前だけが積み上がっていく。高波の件、マーフォークの件、今回の件。全部の糸の先に同じ名前がある。姿は見えないまま、範囲だけが広がっていく。
宿に戻って、ニアのステータスを確認した。
善行ポイントの本を通じて確認できる。ニアは相棒になったので、俺の本からでも見られる。
風魔法がレベル10からレベル13に上がっていた。ただし、そこで止まっていた。上限に達したということだ。
光魔法がレベル2からレベル7へ。近接戦闘がレベル4からレベル10へ。危険感知がレベル9からレベル11へ。気配感知がレベル8からレベル10へ。視認がレベル13からレベル14へ。
善行ポイントがゼロから10.00になっていた。
「ニア、確認したか」
「した。すごいな、わい」
ニアが言った。冗談ではなく、素直に驚いていた。
「風魔法が上限に達した。ランクを上げる必要がある」
「上げたら、もっと強くなれるんか」
「レベルの上限が上がる。そうなれば、新しい魔法も使えるようになる」
「ほなやる」
ニアは風魔法のランクを13から25まで引き上げた。ニアの善行ポイントが10.00から6.60に減った。
「まだまだ強くなれるってことやな」
ニアが言った。以前と同じ言い方だったが、中身が違った。以前は根拠のない自信だったが、今は実感が伴っていた。
「サークはどうだ」
「確認しています」
サークの属性魔法(炎)がレベル9からレベル13に。属性魔法(地)がレベル1からレベル4に。属性魔法(光)がレベル14からレベル18に。
「地魔法がレベル4か」
「はい。さっきの考察通り、ディテクトマジックの影響が出ているようです。地魔法の2レベルと光魔法の4レベルのそれぞれで新しい魔法が使えるようになります」
「選択肢が増えましたね」
サークが言った。珍しく、表情が少し明るかった。
とは言え、上限が近づいているので、サークは各属性のランクを上げることにしたようだ。光を30、炎と地を25まで引き上げる。善行ポイントがサークの分で今回増えた結果13.06だったが、使った後に4.86残る形になった。
「バランスよく伸ばせるな」
「バランス型を目指します。攻撃も防御も、状況に合わせて使い分けたい」
自分のステータスも整理した。
加護魔法のランクを28から36まで引き上げた。上限まで成長すれば6レベル魔法に手が届くようになった。
善行ポイントは今回の件で9.75から19.75に増えていた。ランクの強化に11.4ポイント使って、8.35が残った。
「ようやく次が見えてきたな」
俺は言った。
6レベル魔法。そのレベルに何があるかは、まだ詳しく調べていない。ただ、近づいてきているという感覚はある。
「医師の装備の売却、結果が出たわ」
リアンが戻ってきて言った。
「2200ゴールドになったわよ」
俺は一瞬、聞き返そうかと思った。
「……2200か」
「ええ。高位のマジックアイテムが複数あったの。使い手が限られる分、価値が高い」
半分が俺.サーク.ニア入る。1100ゴールドだ。
所持金を計算した。スクロール費用や諸々の出費があって、さらにここで入ってきた分を合わせると、合計で1718ゴールドになった。
「……使い道を考えないとな」
俺は言った。
全員で今後の方針を話し合った。
「状況限定の魔法はスクロール化する方向にしよう」
俺は言った。
「普段は使わないが、いざという時に必要になる魔法がある。そういうものをポケットに常に入れていると圧迫する。スクロールにしておけば、必要な時だけ使える」
「エイド系の備蓄も増やした方がいいわね」
リアンが言った。
「今回みたいに回復が尽きる場面が増えてくると思う。継戦能力を上げておかないと」
「作れる日に作り続ける。在庫を積み上げていく」
金はある。装備も整ってきた。レベルも上がった。
ただ、俺は自分の中にある感覚を言葉にできなかった。
夜、1人で考えた。
レベルも上がった。金もある。戦術の幅も広がった。確実に強くなっている。
だが、ユリコという名前が消えない。姿も目的も見えない相手が、各地で工作を続けている。医者はその末端の1人に過ぎなかった。口封じに来た存在は、俺たちより強い何かだった。
準備が足りない。まだ、足りない。
それだけが、強くなった実感の裏側にあった。
メモ
タカオ
加護魔法 ランク36 レベル22
ポケット 23+1
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック
レベル2:ストレングス・ウィーク
レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ
レベル4:センスライ・クリエイトスクロール
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル6
植物知識 レベル3
地域知識 レベル2
水泳 レベル4
善行ポイント 8.35
スクロール:エイド
サーク
属性魔法(炎) ランク25 レベル13
属性魔法(地) ランク25 レベル4
属性魔法(光) ランク30 レベル18
ポケット 20+1
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック・バークスキン
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー
レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール・ミラージュフレイム・シャインヒール
近接戦闘 ランク9 レベル5
鋭敏感覚 レベル7
気配感知 レベル5
水泳 レベル4
善行ポイント 4.86
ニア
属性魔法(風) ランク25 レベル13
属性魔法(光) ランク63 レベル7
ポケット 7
習得魔法
レベル1:サンダー.ウィンドショット・スリープ・ライト・ディテクトマジック
レベル2:インパルス
レベル3:スカイウイング.ガストウィンド
近接戦闘 ランク45 レベル10
電撃ブレス レベル11
危険感知 レベル11
気配感知 レベル10
視認 レベル14
水泳 レベル1
善行ポイント 6.60




