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第43話 選択と拡張

 湿地帯の依頼は2日で終わった。

 初日に採取を終えて、2日目に帰路についた。道中で追加の素材が見つかったので、ついでに回収した。ギルドで報告を終えると、報酬が60ゴールド入った。

 南の海からの帰りの船賃と宿代を引いた結果、所持金が405ゴールドから455ゴールドになった。

 大きな額ではない。ただ、こういう積み重ねが全部を支えている。派手な報酬が入る仕事ばかりではない。地道な採取依頼を確実にこなしていくことが、安定した活動の土台になる。それは前世で働いていた頃から変わらない感覚だった。


 翌日の朝、ウィンストン男爵の庭でサークとニアと3人で話し合った。

 男爵は今日は館の中にいるらしく、庭には俺たちだけだった。ニアが地面に伏せた姿勢で、首だけ俺の方に向けている。サークが隣に座っていた。

 まず現状の確認から始めた。

 俺の加護魔法がレベル15からレベル16に上がっていた。ポケットが17に増えた。魔力容量増加で1追加されているので合計18だ。それと、魔物知識がレベル5からレベル6になっていた。湿地帯での遭遇が効いたのだと思う。

 サークの属性魔法(光)がレベル13からレベル14に上がっていた。ポケットの計算式では0.5増えるが端数切り捨てなので変動はない。次のレベルまで上がれば変わる。

 ニアの視認がレベル12からレベル13になっていた。昨日の湿地帯で水中を確認し続けた経験が反映されたのだろう。

「ニアが確実に伸びてるな」

 俺は言った。

「当然や」

 ニアが鼻を鳴らした。


 加護魔法がレベル16になったことで、レベル4の魔法が使えるようになった。何を取るかは、昨日から考えていた。

「候補を整理する」

 俺はサークとニアに向かって言った。

「まずフライト。空中を飛べる魔法だ」

「ニアのスカイウイングで代用できますね」

 サークがすぐに言った。

「そうだ。今の状況でフライトを俺が持つ意味は薄い。ニアが使えない状況、たとえばニアが傷ついて飛べない場合などに備える意味はあるが、優先度は低い」

 次に進んだ。

「タングは未知の言語に対応できる魔法だ。必要な場面が来れば取る。ただ今すぐではない」

 センスライを出した。

「これはマーフォーク事件の時に痛感した。嘘を検知する魔法だ。ただし故意の嘘にしか反応しない。グリブネスで嘘を通されると意味がなくなるが、それでも持っていれば使える場面はある」

「あの時のことがありますね」

 サークが静かに言った。

「ある。あの場で俺がセンスライを使える立場にあれば、状況が違っていた可能性がある。後から何でも言えるが、それでも学んで備えるのが正しいと思う」


「もう1つ」

 俺は続けた。

「クリエイトスクロールだ」

「なんですか、それは?」

「魔法をスクロールという使い捨てのアイテムに保存する魔法だ。作っておけば、スクロールから魔法を発動できる」

 サークが少し考えた。

「ポケットを外に出せる、ということですか」

「そうだ。普段使わない魔法を外に出しておけば、その分のポケットが空く。それと、スクロールから発動する場合は自分の魔力を使わない。外部の魔力で動く」

「それは……大きいですね」

 サークが言った。

「エイドのスクロールを作れる。エイドはポケットを1つ即時回復する魔法だ。今はギルドで1つ20ゴールドで買える。自分で作れば材料費5ゴールドで済む。4分の1で済む」

「量産できる、ということですね」

「時間があれば。制約があるかどうかはまだわからないから、取得してから確認する」

 ニアがぽつりと言った。

「それがあったら、わいもポケット増やせるんか?」

「サークやニアにエイドをかければポケットが回復する。補給の手段になる」

「ほな持ってた方がええな」

「そう判断した」


 フィッシュムーブは海中での機動力強化だ。今すぐ必要な状況ではない。海に関わる依頼が出た時に再検討すればいい。

 結論は出ていた。

「センスライとクリエイトスクロールを取得する」

 費用を計算した。センスライが80ゴールド、クリエイトスクロールが80ゴールドで合計160ゴールドだ。痛い出費だが、どちらも長期的に見て元が取れる判断だと思った。


「サーク」

 俺はサークに向かって言った。

「大地属性、どう判断した」

 サークが少しの間、黙っていた。

「取ります」

 昨日の湿地帯を経験した上での言葉だった。足場が崩れた時の不安定さ、リーチが張り付いた時の防御の薄さ。あの状況で「防御があれば」と思ったのは、勢いではなく実感だ。

「善行ポイントは」

「16.46あります。大地才能ランク1の取得で10ポイント、ランク10まで強化で0.9ポイント、地魔法レベル1の取得で2.5ポイント。合計13.4ポイントの消費で、残りが3.06ポイントになります」

「大きな投資だな」

「はい。ただ、今が取り時だと思います」

 俺は頷いた。

「バークスキンを取るか」

「はい。防御特化で使います。攻撃はすでに足りている。安定性を上げることを優先します」

 それが昨日から考えていた答えだということは、言わなくてもわかった。サーク自身が、自分の戦い方を整理した上で出した判断だ。


「ニア」

 俺は最後にニアに向いた。

「光魔法の才能がランク63ある。今はレベル2しかないが、伸びしろが大きい」

「そう言われても、どうすればええかわからんで」

「まずサークから魔法を教えてもらう。光属性の基礎から始める」

 サークがニアを見た。

「スリープ、ライト、ディテクトマジックを伝授する。光魔法の基本的な2つと共通魔法1つの計3つです」

「ええの? タダで」

「タダだ」

 ニアが少し驚いた顔をした。何かを期待していたのか、あるいはそういうものだと思っていなかったのか。

「使えるようになれば、索敵と補助の役割が広がる。ディテクトマジックがあれば魔法の気配を察知できる。スリープで敵の行動を止める選択肢も出る」

「……やってみる」

 ニアが素直に言った。昨日から少しずつ変わっているのが、こういう場面で出ている。


 翌日、ギルドで俺とサークの魔法の取得を進めた。

 俺はセンスライとクリエイトスクロールを習得した。センスライは加護魔法レベル4だ。使い方をギルドの資料で確認した。発動すると俺が視認した対象が、嘘の発言をすると光が揺れる。グリブネスには対応できないが、それでも持っていた意味がある局面は必ずある。

 クリエイトスクロールは、習得した後すぐに制約がわかった。

「1つ作成するのに、丸1日かかります」

 ギルドの職員が説明してくれた。

 1日で1つ。思ったより時間がかかる。

「販売価格は20ゴールドで、材料費は5ゴールドです。差額が15ゴールドになりますが、1日拘束されることを考えると、緊急時は購入した方が早い場合もあります」

「それは状況次第だな」

 動けない日に作る、という運用を考えた。移動中や戦闘がない日に作り置きしていけば、少しずつ在庫が増える。時間と金の選択だ。

 サークはバークスキンを習得した。地魔法レベル1の取得が完了している。善行ポイントが16.46から3.06に減った。大きな消費だったが、サークの表情は落ち着いていた。

 ニアはサークからスリープ、ライト、ディテクトマジックの3つを伝授してもらった。伝授の場面は俺も横で見ていたが、ニアが珍しく真剣な顔をしていた。途中で一度「これ、どうやって使うんや」と聞いていたが、教えを乞う姿勢自体が変化だと思った。


 所持金の整理をした。

 455ゴールドから、センスライとクリエイトスクロールで160ゴールド、サークの地魔法関連で10ゴールド使った。合計170ゴールドの支出だ。残りが285ゴールドになった。

 痛い出費だが、後悔はなかった。

 今持っている装備と能力を整理した。

 俺の役割は支援と資源管理だ。センスライで嘘を見抜く手段を持ち、クリエイトスクロールで補給アイテムを作れる。前線には立たないが、戦闘全体を支える機能が増した。

 サークは攻撃に防御が加わった。ライトニングやシャインフラッシュの火力はそのままで、バークスキンで足場の悪い場所や多対1の状況での安定性が上がる。

 ニアは索敵と警戒が主な役割だったが、光魔法が加わることで補助の幅が広がる。ディテクトマジックがあれば、魔法を使う相手への対応が変わる。

 3人の役割が、少しずつ明確になってきた。


「エイドスクロールを作り始める」

 俺は2人に向かって言った。

「移動がない日に1枚ずつ作る。急には増えないが、在庫が積み上がれば戦闘中の補給手段になる」

「時間かかるんやろ」

「1日1枚だ。急がない」

 ニアが「ふうん」と言った。興味があるのかないのか判断しにくい反応だが、反対はしなかった。

「今日中に1枚作ってみる」

 材料をギルドで揃えた。エイドスクロールに必要な素材は、ギルドで購入できた。5ゴールド分の材料を手に入れて、宿に戻ってから作業を始めた。

 その日の内には完成しなかった。バルド達が帰ってくるまで時間があるので、翌日も作業を続けた。

 実質計12時間くらいの作業の結果、手の中に、1枚のスクロールができていた。

 小さな羊皮紙に、魔法の力が封じられている。使えば対象のポケットが1つ回復する。それだけのものだが、これが積み上がれば戦術の選択肢が増える。

 準備が、少しずつ整ってきていた。


メモ


タカオ

加護魔法 ランク28 レベル16

ポケット 17+1

習得魔法

 レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック

 レベル2:ストレングス・ウィーク

 レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ

 レベル4:センスライ・クリエイトスクロール

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル6

植物知識 レベル3

地域知識 レベル2

水泳   レベル4

善行ポイント 9.75

スクロール:エイド


サーク

属性魔法(炎) ランク19 レベル9

属性魔法(光) ランク25 レベル14

ポケット 12+1

習得魔法

 レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック・バークスキン

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール・ミラージュフレイム

近接戦闘 ランク9 レベル5

鋭敏感覚 レベル7

気配感知 レベル5

水泳   レベル4

善行ポイント 3.06


ニア

属性魔法(風) ランク13 レベル10

属性魔法(光) ランク63 レベル2

ポケット 7

習得魔法

 レベル1:サンダー.ウィンドショット・スリープ・ライト・ディテクトマジック

 レベル2:インパルス

 レベル3:スカイウイング.ガストウィンド

近接戦闘 ランク45 レベル4

電撃ブレス レベル11

危険感知 レベル9

気配感知 レベル8

視認   レベル13

水泳   レベル1

善行ポイント 0


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