↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/107

第40話 相棒の意味

 ハイルセンに戻ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 船旅は穏やかだった。リアンの言葉通り、今度は何も起きなかった。波も風も普通で、俺は半分眠りながら甲板で過ごした。それだけで十分だった。

 港から真っ直ぐ、ウィンストン男爵の館へ向かった。


 館の中庭に入ると、ニアが首を伸ばして俺たちを出迎えた。体長5メートルの銀白色のドラゴンが首だけ動かすと、それだけで中庭の空気が変わる。

「おかえり」

 ニアが言った。関西弁で。

「ただいま」

 俺は答えた。無事で何よりだと思ったのは本当だ。

 そこに、別の声が割り込んだ。

「タカオ」

 ゾマだった。灰色のドラゴンが、庭の隅からこちらに向かってくる。ニアよりやや体格が小さい。

「僕も頼みがある」

「聞こう」

「ニアだけずるい」

 ゾマが言った。

 子供みたいな言い方だったが、ゾマ自身は至って真剣な顔をしていた。

「外に出たい。俺も冒険者と組んで動いてみたい」

 俺がゾマの方を見る前に、ニアが即座に口を開いた。

「それはあかん」

「なぜだ」

「わいが困る」

「ニアが困る理由がわからない」

「わいが困るから困る」

 ゾマが呆れた顔をした。俺も似たような顔になっていたと思う。

「ニア、それは理由になってない」

「タカオ様はわいのもんや。ゾマにあげるわけにはいかん」

 場が、微妙に止まった。

 バルドが後ろで小さく咳払いをした。リアンは何かを言いかけて止まった。サークが、静かにニアを観察していた。


 その夜、俺とサークは中庭の端に座って話した。

 月が出ていた。館の灯りが遠くで揺れている。ニアはすでに眠っていて、ゾマも物陰で丸くなっていた。

「タカオ様」

 サークが言った。

「ニアは理解していません」

「何を」

「相棒とは何かを」

 俺は少し考えた。

「俺もか」

「タカオ様も、まだ全部はわかっていないかもしれません」

 否定できなかった。

 サークが続けた。

「ニアは"タカオ様は自分のもの"と言いました。しかしそれは違います。相棒は所有ではない。選ぶことです。危険を知った上で、それでも隣に立つと選ぶこと。ニアはまだ、その重さを知らない」

「知らせないといけないな」

「はい」

 俺は膝の上に肘をついて、空を見上げた。

「ニアを戦力として見ていた部分が、俺にはある」

 口に出したら、改めてはっきりした。

 採取依頼の効率化、空中戦の即戦力、維持費の問題を解決するための働き手。そういう目でニアを見ていた部分があった。

「でも、それだけじゃない」

「分かっています」

 サークが言った。

「だから話すべきです。明日、正面から」


 翌朝、俺はニアを呼んだ。

 中庭の中央で、向き合う形で座った。ニアの目が、俺を見ていた。いつもの無邪気な目だ。

「ニア、聞きたいことがある」

「なんや」

「俺と戦うってどういう意味か、分かってるか」

 ニアがすぐに口を開いた。

「一緒に飛んで、敵見つけて、ばーっとやっつけて……」

「違う」

 俺は遮った。

 ニアが口を閉じた。俺の声のトーンに気づいたんだと思う。

「もっと重い話だ」

 俺は続けた。

「俺と戦うっていうのは、死ぬかもしれないってことだ」

 空気が変わった。

 ニアが俺を見ていた。さっきまでと違う目になっていた。何かを処理しようとしている、そういう目だ。

「南の島で、俺たちは族長の娘を倒した。マーフォークの族長に殺せと命令されて、全力で逃げた。それだけじゃない。これからも、似たような場面はある。もっと強い相手もいる。俺が死ぬかもしれない。サークが死ぬかもしれない。そしてニア、お前が死ぬかもしれない」

 ニアは黙っていた。

「だから聞く。それでも来るか」


 ニアが長い間、俺を見ていた。

 いつもなら何かを喋っているか、首を動かしているか、落ち着きなく体を揺らしているかのどれかだ。それが今は、じっとしていた。

 俺は待った。急かさなかった。

 やがて、ニアが口を開いた。

「……それでも行く」

 声が、いつもと少し違った。軽さが消えていた。

「わいは、タカオ様と一緒におりたい」

「理由を聞いていいか」

 ニアが少し考えた。

「なんでやろな」

 正直な答えだった。

「最初は、強そうやったから。守護竜に負けたわいを、負かしたから。それだけやったかもしれん」

「今は」

「今は……ちゃんとわいの話聞いてくれるから、かな。バカにしないで。うちが何言っても怒らんで」

 俺は少し黙った。

「俺はお前を戦力として見てた部分がある」

 正直に言った。

「採取依頼の効率が上がる、空を飛べる、維持費の問題が解決する。そういう計算をしてた。お前に言ったことはなかったけど」

 ニアが目をぱちりとさせた。

「でも、それだけじゃない」

 俺は続けた。

「お前が必要だ。戦力としてじゃなくて、仲間として」

 ニアが、また黙った。今度は違う黙り方だった。照れているのか、困っているのか、判断がつかない。

「……なんや、急に」

「急じゃない。ずっとそうだったんだと思う。言葉にできてなかっただけで」


 俺は善行ポイントの本を開いた。

 19.75ポイント。ここから10ポイントを使う。

 俺とニアの相棒契約。

 ポイントが動く感覚があった。数字が変わった。19.75から9.75へ。

 その瞬間、何かが変わった。

 うまく説明できないが、感覚が広がったような気がした。遠くにいるニアの存在が、少しだけ近くなった。意識の端に、別の何かが触れている感覚。

 ニアが首を上げた。

「……なんやこれ」

 困惑した声だった。自分の体に何かが起きたことは感じ取っているようだが、何なのかわからない、という顔をしている。

「それが相棒だ」

 サークが静かに言った。


 善行ポイントの本が反応した。ニアが本に前脚をかざすことで、自分の状態が見えるようになった。

 ニアに自分の能力を読んでもらった。


ニア現在ステータス

属性魔法(風) ランク13 レベル10

属性魔法(光) ランク63 レベル2

ポケット 7

習得魔法

 レベル1:サンダー.ウィンドショット

 レベル2:インパルス

 レベル3:スカイウイング.ガストウィンド

近接戦闘 ランク45 レベル4

電撃ブレス レベル11

危険感知 レベル9

気配感知 レベル8

視認   レベル12

水泳   レベル1

善行ポイント 0


 サークが数字を見て、わずかに沈黙した。

「光がランク63。近接がランク45」

 静かな声だったが、その中に驚きが混じっていた。

「そのランクの数値は何や?」

「才能の塊かもしれん」

 俺は答えた。


 ランクは才能の指標だ。俺やサークのランクと比較すると、ニアの数値は桁が違う部分がある。光属性のランク63というのは、伸びしろという意味では天井が見えないレベルだ。

 ニアは自分のステータスを見て、どこか他人事のような顔をしていた。

「すごいんか、わい」

「すごい」

「ほんまか」

「ほんまだ」

 ニアがふんと鼻を鳴らした。悪い気はしていないようだった。


 一段落してから、俺は言った。

「それじゃあ、明日から頼むぞ」

「はいな」

 ニアがあっさり答えた。

「自分で考えるんだぞ」

 サークが言った。

「わかってますがな」

「わかってるとは思えない場面が多々あった」

「……うっさい」

 俺はニアに向かって続けた。

「いきなり全部やれとは言わないから、少しでも考える習慣をつけることが大事だ。気づいたことがあれば、恥ずかしがらずに何でも言ってくれ。変なことでも構わない」

「タカオ様、わいのことバカやと思っとる?」

「思ってない。ただ、考えてないことと、考えてることは違う。お前は考えれば分かるタイプだと思ってる」

 ニアが少しの間、俺を見た。

「……わかったで」

 いつもより真剣な声だった。


 その様子を物陰から見ていたゾマが、近づいてきた。羨望、という言葉が顔に書いてあった。

「ゾマ」

 俺が声をかけると、ゾマが少し身を縮めた。見られていたのを気にしているのかもしれない。

「明日、紹介する人を連れてくる」

「……紹介?」

「相棒候補だ。俺の仲間の冒険者だ。ちゃんと話してみてから、互いに決めればいい」

 ゾマが目を細めた。期待と不安が混じったような顔だ。

 俺はウィンストン男爵に話を通しておく必要があった。バルドとリアン。ゾマと合うかはまだわからない。だが、顔を合わせるところから始めなければ何も進まない。

 今日中に男爵を捕まえて、話をしておこう。

 中庭に夕方の光が差し込んでいた。ニアが欠伸をして、サークがその隣に静かに座った。ゾマが少し遠い位置から2体を眺めていた。

 相棒というのは選ぶことだ、とサークが言っていた。

 俺にはまだ、その全部がわかっているわけではないかもしれない。ただ、今日1日で少し近づいた気がした。


メモ


タカオ

加護魔法 ランク28 レベル15

ポケット 16+1

習得魔法

 レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック

 レベル2:ストレングス・ウィーク

 レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル5

植物知識 レベル3

地域知識 レベル2

水泳   レベル4

善行ポイント 9.75


サーク

属性魔法(炎) ランク19 レベル9

属性魔法(光) ランク25 レベル13

ポケット 12+1

習得魔法

 レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール・ミラージュフレイム

近接戦闘 ランク9 レベル5

鋭敏感覚 レベル7

気配感知 レベル5

水泳   レベル4

善行ポイント 16.46


ニア

属性魔法(風) ランク13 レベル10

属性魔法(光) ランク63 レベル2

ポケット 7

習得魔法

 レベル1:サンダー.ウィンドショット

 レベル2:インパルス

 レベル3:スカイウイング.ガストウィンド

近接戦闘 ランク45 レベル4

電撃ブレス レベル11

危険感知 レベル9

気配感知 レベル8

視認   レベル12

水泳   レベル1

善行ポイント 0


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。