第33話 南の島と迫る対立
ギルドから戻った夜、本を開いた。
加護魔法のレベルが12から13に上がっていた。ポケットが15になった。
「水泳もレベルが上がっています」サークが言った。「2になりました」
「俺も同じだ」
サークの光魔法もレベルが11になっていた。ポケットも12に増えた。
数字として成長が出た。でも俺の気持ちはそこに向いていなかった。
善行ポイントを確認した。変わっていなかった。
「増えていないな」
「高波を止めた結果として、誰かを助けたわけではないということでしょうか」サークが言った。「あるいは、あの人魚を倒したことが……」
言葉が途切れた。
俺も同じことを考えていた。あの状態のマーフォークを戦闘で倒した。追い詰められた被害者を、結果として殺した可能性がある。善行ポイントが動かないのは、そういうことかもしれなかった。
答えは出なかった。
2日後、ギルドから連絡が来た。
海坊主の討伐依頼は変則的な達成として処理され、報酬50ゴールドが支払われた。宿代で多少減ったが、これで手持ちが415ゴールドになった。
回収した槍状の道具については、職員から説明があった。
「魔道具として検査しました。高波を発生させる秘宝クラスの品です。危険性が高いため、ギルドで保管させてください」
「構わない」
道具は証拠として確定した。人為的に高波を起こしていた。マーフォークが道具を使っていた。でも黒幕には届いていない。道具がどこから来たのか、誰が渡したのかが、まだわからない。
その日の夕方、バルドとリアンが金羊亭に到着した。
4人でテーブルを囲んだ。互いの情報を出し合った。俺たちの側は海坊主の件と、マーフォークの正体と、道具の話を伝えた。
バルドが少し顔を曇らせた。
「その吟遊詩人について、俺たちも聞いた話がある」バルドが言った。
「王都でもか」
「ハイルセンに来る途中の町でも、似た話を聞いた。ただ、歌の内容が変わっていた」
「変わった?」
「以前は人魚の肉を食べれば不老不死になるという内容だったらしい。だが今は、可哀そうな人魚の話になっている。食われ続けて、最後は人間に殺された、という内容に」
俺は黙った。
「南の島に向かうと言っていたのか」リアンが確認した。
「そうだ」俺は言った。「ギルドを出る時にそう言っていた」
「南の島について知っているか」バルドが言った。
「採取依頼があることは知っている」
「それだけじゃない」バルドが続けた。「あの辺りの海域はマーフォークの生息地だ。仲間意識が非常に強い種族で、族長を中心に動いている。特に現族長は娘を溺愛していると聞く。その娘が行方不明になっているらしい。」
俺は今日倒したマーフォークを思い出した。
女性だった。衰弱しきった状態で、それでも高波を起こし続けていた。
「その娘がどうなったかは、まだわかっていないのか」
「わかっていない」バルドが言った。「ただ、タイミングが悪い」
リアンが口を開いた。
「もし吟遊詩人がマーフォーク側に、人間が人魚を捕まえて食べた、最後には殺した、という話を持ち込んだとしたら」
誰も即座に否定しなかった。
「種族間の衝突が起きる」バルドが言った。「マーフォークが本気を出せば、沿岸の漁村は壊滅する。ハイルセンの港も無事では済まない」
「あの道具があれだけの高波を起こせた。族長がその気になれば」俺は言った。
「王国も動かざるを得なくなる。最悪、戦争になる」
テーブルが静かになった。
「放っておけない」俺は言った。
誰も反論しなかった。
「南の島に向かう。吟遊詩人がマーフォークに何を吹き込む前に、こちらも状況を確認しなければならない」
「同意です」リアンが言った。「ただし、情報が足りない。現地で集めながら動くことになります」
「それでいい」
「ニアはどうしますか」サークが聞いた。
俺は少し考えた。
船で移動する。ニアの体格で乗れる船がない。乗せるとしても港での問題が起きる。南の島まで飛んで行けるかどうかも、距離と体力の問題がある。
「今回は連れて行かない」俺は言った。「緊急性がある。ニアの移動手段の問題を解決している時間がない」
「館にいてもらいますか」
「そうだ。ウィンストン男爵に事情を伝えて、しばらく預かってもらう」
相棒の話はまだ保留だ。今はそれより先にやることがある。
翌朝、4人で港に向かった。
南の島への定期船があった。半日ほどの航路だ。
船に乗りながら、俺は海を見ていた。昨日倒したマーフォークのことが頭から離れなかった。あの状態で、何のために高波を起こし続けていたのか。復讐か。それとも他の何かか。
サークが隣に立っていた。
「タカオ様」
「ん」
「間に合うと思いますか」
「わからない」俺は正直に言った。「でも動かなければ間違いなく間に合わない」
島に着いてから、まずギルドへ向かった。
吟遊詩人について確認した。
職員が眉を寄せた。
「その人物なら知っています。数日前から島に来て、人魚の悲劇の歌を広めていました。内容は、人魚が人間に売り買いされて、最後は殺された、というものです」
「今はどこに」
「姿を消しています。昨日から見ていない、という話です」
リアンが言った。「既に次の動きに入っているということですね」
「火種だけ撒いて消えたか」俺は言った。
「マーフォーク側の反応は」
「島の漁師から話を聞いた限りでは、ここ数日でマーフォークの姿を見なくなったそうです。いなくなったのか、潜んでいるのか」職員が続けた。「嫌な感じがする、と漁師が言っていました」
港の周辺を歩きながら、地元の漁師に話を聞いた。
入り江に単独のマーフォークが時々現れる場所があるという。完全に人間を避けているわけではなく、交易をしている個体もいたらしい。最近は姿が減ったが、まだ現れることがある。
「そこへ行く」俺は言った。
入り江に向かった。
岩の陰で待っていると、水面から顔が出た。
男性のマーフォークだった。上半身は人間に近い形で、水草のような緑がかった髭を持っていた。こちらを警戒した目で見ていた。
「話をしたい」俺は言った。「敵意はない。ここ数日の出来事について確認したいことがある」
マーフォークがしばらく俺たちを見た。
「ケルプビアードという」男が言った。「何を聞きたい」
俺は順序立てて話した。ハイルセンでの高波、黒ローブのマーフォーク、戦闘の経緯、倒れた後に海に沈んだこと。できるだけ正確に。
ケルプビアードが俺の話を最後まで聞いた。
長い沈黙があった。
「その人魚の特徴を、もう一度言ってくれ」
俺は繰り返した。黒ローブ、女性、体が衰弱していた、肉が削がれていた、骨が露出していた。
ケルプビアードが水面に視線を落とした。
「族長の娘が行方不明になっていた」ケルプビアードが言った。「昨日、族長のもとに娘が死んだという報告が届いた。体は食い荒らされ、骨が露出していたと」
俺は言葉が出なかった。
重なった。完全に重なった。
「族長は」バルドが静かに聞いた。
「激怒している」ケルプビアードが言った。「娘を奪い、食い、殺した人間を許さないと。各地のマーフォークを集めている」
リアンが小さく息をついた。
「いつ動くか」
「わからない。でも、早いだろう」
「人間の吟遊詩人が族長に接触したか」俺は聞いた。
ケルプビアードが頷いた。
「している。今も側にいると聞いた。娘の死を人間が喜んでいると、族長に告げたらしい」
「でたらめだ」
「族長はそれを信じている」
俺は頭の中で並べた。
最初に不老不死の噂を流した。人魚の肉で不老不死になれるという話だ。その噂に乗った人間が人魚を捕まえた。人魚は売られ、肉を食われ続けた。それが族長の娘だった。
次に、歌を変えた。可哀そうな人魚の話に。人間に食われて殺されたという話に。それをマーフォーク側に届けた。
両側を焚き付けている。人間側の欲を刺激して動かし、マーフォーク側の怒りを煽って動かす。
「どちらが先に動いても、もう一方が応じれば戦争になる」俺は言った。「それが目的だ」
「誰の?」サークが言った。
「まだわからない。でも、一方的な被害を受けて動いているマーフォーク側を止めるのが先だ」
「族長に会いに行く」俺は言った。
ケルプビアードが俺を見た。
「族長は激怒している。人間を見れば話も聞かずに攻撃するかもしれない」
「それでも行く」
「理由は」
「止めなければ戦争になる」俺は言った。「どちら側にとっても、それは最悪の結果だ」
ケルプビアードが少し間を置いた。
「それでも行くのか」
「ああ」
波が岩に当たる音がしていた。入り江の水面は穏やかだったが、その向こうの海がどうなっているかはわからなかった。
メモ
タカオ
加護魔法 ランク28 レベル13
ポケット 14+1
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック
レベル2:ストレングス・ウィーク
レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル5
植物知識 レベル3
地域知識 レベル2
水泳 レベル2
善行ポイント 9.75
サーク
属性魔法(炎) ランク19 レベル9
属性魔法(光) ランク25 レベル11
ポケット 11+1
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー
レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール・ミラージュフレイム
近接戦闘 ランク9 レベル5
鋭敏感覚 レベル7
気配感知 レベル5
水泳 レベル2
善行ポイント 6.46




