第31話 海の敵と新たな戦力の気配
港に向かう前に、ポケットの構成を確認した。
今日は水中での戦闘が起きる可能性がある。何をいつ使うかを決めてから動く方がいい。
俺のポケットは今13あって、魔力容量増加Ⅰで1つ増えているから合計14だ。
ウォーターブリーズを3つ入れた。俺とサークとニアの分だ。ウィークを1つ。ディテクトマジックを1つ。残り2つは予備として空けておいた。
サークの方も確認した。ライトニングを2つ、サモンエレメンタルⅡを1つ、ディテクトマジックを1つ。残り1つを予備とした。
「水中では炎の魔法が使いにくいな」俺は言った。「炎は空気が必要だ。水中ではファイアーボールも力が落ちる」
「そのためにライトニングを優先しました」サークが言った。「雷は水中でも有効です。むしろ水中の方が広がりやすい。その分威力も落ちますが」
「それが正解だ。今日は雷を主力にしてくれ」
ニアに乗って海域へ出た。
今日は前回のような偶然の遭遇ではなく、最初から黒ローブを探すつもりで来た。前回出現した海域を中心に、ニアが旋回しながら水面を確認した。
空は晴れていた。視界は良好だ。
30分ほど旋回していると、高波が起きた。
突然、局所的に海面が盛り上がった。前回と同じパターンだ。
「いるで」ニアが言った。「さっきの場所と近い」
「どこだ」
「あそこや。黒いのが水面に出とるで」
俺には点にしか見えなかった。でもニアが確認できているなら10分だ。
「近づけ」
ニアが急降下した。速かった。海面に向かって1直線に落ちていく感覚があった。
距離が縮まった。黒ローブの輪郭が、俺にも見えてきた。
その瞬間、黒ローブが動いた。
水中に飛び込んだ。
ニアが海面ギリギリまで下りた時には、もう姿がなかった。水面が少し揺れていた。
「潜ったで」ニアが言った。「速い」
「水中は見えるか」
「見える。まだ近くにおる」
ニアが水面を低空で追った。
俺とサークには水中が見えない。波の揺れと光の反射があるだけで、中で何が動いているかわからない。
でもニアには見えていた。
「右や。少しずつ右に曲がっとるで」
ニアが右に旋回した。
俺は状況を整理した。ニアが水中の動きを視認できる。これは予想外の強みだった。空中からの視線で水の中を透かして見ている。
しばらく追っていると、ニアが言った。
「速すぎる。追い越してまうで」
「追い越す?」
「わいの速度の方が上や。抑えても、黒いのを追い越してしまう」
飛行速度が速すぎて、目標を通り過ぎてしまうということか。
ニアが少し考えてから言った。
「そうや、ゆっくり飛べばええんやで」
翼の動きが変わった。羽ばたきが止まった。それでも飛んでいた。
「スカイウイング使っとる。翼を使わなくていいから楽やで」
「スカイウイングを持っているのか」
俺は少し間を置いてから言った。
「なぜ今まで言わなかった」
「聞かれなかったからや」
ニアが当然のように言った。
俺は返す言葉を探した。
「風属性の魔法を使えるのか」
「使えるで。普通やろ」
「普通じゃない」
「そうなんか」ニアが少し首を傾けた。
サークがニアを一発叩いた。
「後で全部聞く」
「何で叩くんや」
「話が変わっていたかもしれないからだ」
ニアが少し縮んだ。
俺は前を向いた。
「今は追跡に集中する。話は後だ」
やり取りをしている間に、ニアが言った。
「……見えなくなった」
「どこに」
「深く潜った。もう見えへん」
水中の深い場所に逃げ込まれた。ニアの視力でも届かない深さまで潜られると追えない。
「一旦戻るか」
「そうしましょう」サークが言った。「今日は情報が取れた。それで十分です」
海岸に戻って、ニアの魔法について確認した。
「一から全部話せ。何が使えて、何が使えないか」
ニアが話してくれた。
風属性の魔法が使える。話を聞いた感じ、おおよそのレベルは10前後だろう。光属性も少し使えるが、こちらはレベルが低い。
使える魔法のリストを確認した。
レベル1がサンダーとウィンドショット。レベル2がインパルス。レベル3がガストウィンドとスカイウイングだ。
ポケットが7つある。
「スカイウイング以外はほぼ攻撃魔法だな」俺は言った。
「攻撃寄りの構成ですね」サークが静かに言った。
「才能の数値は確認できるか」
「どうやってやるんや」
俺の本を見せた。ただ、ニアのステータスが出るかどうかは試してみないとわからなかった。
触れてもらったが、数字は出なかった。
「サークと同じようにはいかないな」
「転生者の相棒ではないから、という制約だと思います」サークが言った。「ニアの才能の上限は確認できません」
日が傾いてきた。
「日没が近い。水中で夜間の追跡は無理だ。今日得た情報を整理してから次を考える」
黒ローブの存在は確認できた。水中への潜水能力も確認した。スカイウイングで低速追跡が可能なことも分かった。今日は情報として十分だった。
ニアを館に送り届けてから、宿に戻った。
サークと向かい合って、俺は少し考えてから口を開いた。
「善行ポイントで相棒を追加できる仕組みがあった。」
「ありましたね」
「ニアを正式な相棒にすれば、ニアも善行ポイントを貯められるようになる。」
サークが少し間を置いた。
「費用は?」
「10ポイントだ。今の俺は9.75しかない。少し足りない」
「タイミングの話ではなく、動機の話を先にした方がいいと思います」サークが言った。「今日、ニアに風属性魔法があると判明しました。その後でこの話をしていますよね」
俺は黙った。
「ニアが戦力になると分かったから、という部分はありますか」
否定しようとした。でも完全には否定できなかった。
ニアの魔法一覧を見た後に、この話が頭に浮かんだのは事実だった。
「……あるかもしれない」
「それが悪いとは言いません」サークが続けた。「でも、ニア本人がどう思っているかを先に確認してからの方がいいと思います」
「そうだな」
「俺を選んだ時も、タカオ様は先に俺に聞きましたよね」
思い出した。相棒選びの場で、強くなりたいかと聞いた。サークが答えてから決めた。
「そうだった」
「同じことをすればいいと思います」
「明日、ニアに聞く」
「それでいいと思います」サークが言った。
「追跡は明日も続ける。ニアへの確認はその前に済ませておく」
サークが頷いた。
窓の外で波の音が聞こえた。夜の海は昼間より音が大きい気がした。
黒ローブの正体はまだわからない。でも追えた。情報が積み上がってきた。
ニアのことは、明日ニア本人に聞く。それだけのことだ。




