第30話 水中戦への布石
宿に戻ってから、サークと向き合った。
今日確認できたことを並べた。黒ローブの何者かが右手の道具を使って高波を起こしている。それが終わったら水中に潜って消えた。追いかけようにも、こちらに水中で動く手段がない。
「先に手を整える必要がある」俺は言った。
「何から始めますか」
「水中で戦えるようにする。それだけだ」
本を開いて、加護魔法のリストを確認した。
水中関連の魔法を探した。
ウォーターブリーズという魔法があった。水中での呼吸を可能にする魔法だ。3レベル魔法で、費用は40ゴールドになる。
以前の検討では環境魔法として保留にしていた。海に縁のない状況では優先度が低かった。でも今は違う。
「これは取る」
次に確認したのはフィッシュムーブだ。水中での高速移動を可能にする4レベル魔法だ。水中の機動力が格段に上がる。
ただし取得には加護魔法のレベルが16以上必要だという条件があった。今の俺はレベル12だ。
「まだ届かないな」
「今後の目標として持っておけばいいと思います」サークが言った。
「そうだ。今は呼吸だけでも確保できれば十分だ」
魔法だけでは不十分だと気づいた。
呼吸が続いても、水中を移動する基礎的な能力がなければ戦いにならない。泳げない状態で水に飛び込んでも、ただ沈むだけだ。
「水泳のスキルを取れるか確認する」
本のスキル一覧を確認した。水泳レベル1という項目があった。コストは1ポイントだ。
「才能の取得は不要なのか」
確認すると、水泳は才能不要のスキルだという説明があった。身体的な訓練に近い性質のスキルは、才能に依存せず取得できる仕組みらしい。戦闘系の魔法スキルとは別の系統だ。
「合理的な仕組みだな」
「魔法の才能がなくても、基礎的な身体能力は誰でも伸ばせるということだと思います」サークが言った。
俺とサークの2人分を取得した。
善行ポイントが俺は10.75から9.75に、サークは7.46から6.46になった。
感覚的な変化があった。水の中でどう動くかという感覚が、うっすらと体に入ってきた感じだ。実際に泳いでみなければわからないが、方向性はつかめた。
「サークの方も整理しておこう」俺は言った。「水中から出てきた相手と戦う可能性がある。遠距離で打てる手段があった方がいい」
「ファイアーボールは使えるようになりましたが、水中で使えるかどうか。」
「相手は1人のようだし、ライトニングの方が有効かもしれない。」
「後は、他の炎の3レベル魔法を確認しておきたいです」
サークが炎の3レベル魔法の一覧を確認した。いくつかの候補があった。
フレイムファング。肉体武器に炎属性をつける魔法で、炎に弱い相手に大きなダメージが入る。
「サークの爪に炎属性がつくのか。強そうだが」
「対象が限定されますね。炎に弱い相手でないと意味がないです。」サークが言った。「必要になる場面が来てからでいいと思います」
「フレイムウェポンも同じ方向か」
「武器1つに炎属性をつける魔法です。俺は武器を使わないので、今は不要です」
ミラージュフレイム。対象の姿を炎の揺らめきで視覚的にぼかして、回避率を大幅に上げる魔法だ。ただし、味方の支援魔法もかけにくくなるという副作用がある。
「近接戦での生存力が上がるな」俺は言った。「俺からのブレスやストレングスが届きにくくなるのは痛いが、サークが1人で動く場面では強い」
「水中から出てきた相手を近接で対応する可能性を考えると、回避が上がるのは有効だと思います」
「それだな。これを取る」
ヒートメタル。接触した金属を高温に熱する魔法だ。
「これはどう考えてもスルーだな」
「鍛冶師向けの魔法だと思います」サークが少し間を置いてから言った。
フレイムシール。術者を中心に炎攻撃を無効化するバリアを張る防御魔法だ。ただし効果時間が短い。
「相手が炎系の魔法を使ってくると分かっていれば強い。今の段階ではわからない」
「必要が出てから取ればいいですね」
「そうだ。今はミラージュフレイムを取る」
翌日、ギルドの施設でウォーターブリーズとミラージュフレイムを習得した。
ウォーターブリーズは感覚が独特だった。呼吸の感覚を水中用に切り替える、という感触だ。魚が水を通して酸素を得るのに近い何かを、魔法で再現しているらしい。
ミラージュフレイムは炎系の魔法で、サークが習得した。習得中に少し体の周囲が揺れて見えた。効いているのがわかった。
費用は合計80ゴールドだ。
館に向かって、ニアに確認した。
「ニア、水は得意か」
「潜るのは苦手や。深くは行けへん」
「水面は泳げるか」
「それはできるで」
「水上で移動しながら支援してくれれば十分だ。戦闘に直接参加しなくていい」
「それならできる」ニアが言った。「上から何か見つけたら教えるのもできるで」
「それも頼む」
完全な戦闘参加は難しい。でも水上での移動と索敵は可能だ。前衛に立てなくても、支援と偵察に回れれば構成として成り立つ。
3者の役割を確認した。
俺がウォーターブリーズで水中での呼吸を確保する。水泳スキルで最低限の移動ができる。支援魔法を展開しながら後衛を維持する。
サークがライトニングで遠距離火力を担当する。ミラージュフレイムで回避率を上げて、近接でも生存力を持つ。
ニアが水上で索敵と支援を担当する。上空からの視認能力と水上移動を活かす。
「不完全だが、戦える構成にはなった」俺は言った。
「準備は整った。今日行く」
「海域の確認ですか、それとも直接追いかけますか」
「黒ローブが現れれば追いかける。現れなければ様子を見る。今日は偵察込みで動く」
サークが頷いた。
完全な準備ではない。フィッシュムーブは取れていない。水中での戦闘経験もない。
でも待っている間に状況が変わる可能性もある。不完全でも動いた方がいい場面がある。今がその場面だと思った。
財布を確認した。
出発前の451ゴールドから、魔法習得費用が80ゴールド、宿代が2ゴールド。残りが369ゴールドになった。
ニアの維持費はウィンストン男爵が負担してくれている。その分が浮いている。以前のように1日3ゴールドが出ていくことがなくなった。
「余裕はある」俺は言った。「ニアの維持費問題が解決したのは大きい」
「そうですね。以前なら採取を続けながら動くしかなかったですが、今は別の動き方ができます」
館でニアに準備を伝えた。
男爵が庭から声をかけてきた。
「どちらへ」
「海の調査です」
「ニアも行くのですか」
「水上での支援を頼む予定です」
男爵がニアを見た。ニアを見る時の目が、他の時と少し違う。
俺はそれを頭の隅に記録してから、視線を戻した。
「行くぞ、ニア、サーク」
ニアが立ち上がった。サークが俺の隣に並んだ。
港の方から風が来ていた。潮の匂いが強かった。
次は海だ。
メモ
タカオ
加護魔法 ランク28 レベル12
ポケット 13+1
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック
レベル2:ストレングス・ウィーク
レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード・ウォーターブリーズ
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル5
植物知識 レベル3
地域知識 レベル2
水泳 レベル1
善行ポイント 9.75
サーク
属性魔法(炎) ランク19 レベル9
属性魔法(光) ランク25 レベル10
ポケット 10+1
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー
レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール・ミラージュフレイム
近接戦闘 ランク9 レベル5
鋭敏感覚 レベル7
気配感知 レベル5
水泳 レベル1
善行ポイント 6.46




