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第27話 情報の統合と進路決定

 緑灯亭に戻ると、バルドとリアンがいた。

 1階の食堂のテーブルで、リアンが何か書き物をしていた。バルドは椅子の背にもたれて腕を組んでいた。2人とも無事だった。

「戻ったか」バルドが言った。

「ああ。採取は終わった」

「お疲れ様でした」リアンが顔を上げた。「ニアは?」

「竜舎に預けてきた」

「怪我はないですか。全員」

「問題ない」

 サークが椅子の横に座った。リアンがサークの状態を確認するように一瞥してから、また書き物に視線を戻した。

 別行動が長かった割に、会話が自然に戻った。パーティとして動いてきた時間が、そのまま残っている感じがあった。

「飯を頼もう。話はその後だ」


 食事を取りながら、採取の報告をした。

 北の山岳地帯へのニアによる飛行移動。11件の依頼を全件達成したこと。ロック鳥とグリフォンとの遭遇と撃退。報酬が230ゴールドだったこと。

 バルドが少し目を丸くした。

「ロック鳥を撃退したのか」

「ウィークをかけてニアのブレスで仕留めた。訓練も兼ねた戦闘だった」

「CランクはCランクでも、ロック鳥は動きが速い部類だ。それをニアと連携して対処できたなら、戦力として本物だな」

「安定性はまだ不足している。今回はうまく条件が揃った部分もある」

 リアンが考えるような顔で言った。

「ニアの維持費は折り合いがついていますか。竜舎が使えるのは王都にいる間だけでしょう」

「そこはまだ課題が残っている。採取の収益で今のところは回っているが、長期的な解決にはなっていない」

「移動先でどう確保するか、ですね」

「それを考えながら動くしかない」


「こちらの話もする」バルドが前に乗り出した。

「竜王の決勝は見たか」

「見ていない。採取に出ていた」

「そうだったな」バルドが少し残念そうにしてから、話し始めた。「結果はバルモスが3代目竜王に決まった」

「ウィンディオではなく」

「そうだ。試合が始まった瞬間から、バルモスが主導権を握り続けた。速度はほぼ互角で、どちらが優っているか見ていても判断がつかない場面が続いた。でも中盤に一度だけ、バルモスが大きく旋回してウィンディオの死角を突いた。その一撃でウィンディオが体勢を崩して、そこから流れが変わった」

 バルドの説明は細かかった。試合を本当に楽しんで見ていたのがわかった。

「ウィンディオも悪くなかった。ただバルモスの方が一手先を読んでいた。経験というより、判断の質の差だった」

「名勝負だったんだな」

「そうだ。500年ぶりの選定としては相応しい試合だったと思う」


「ただ」バルドの表情が変わった。「決勝の翌日、ウィンディオが行方不明になった」

「行方不明?」

「竜の庭から姿を消した。王国が捜索しているが、見つかっていない」

 俺は少し黙った。

 ニアのことを思い出した。選定に敗れて、飼育員に持て余されて、俺たちに押し付けられた。処分してもいい、という言葉まで出た。

 ウィンディオは有力候補だった。それが決勝で敗れて、翌日に消えた。

「敗れた竜は以前どうなっていたんだ」

「バルモスの父親が2代目竜王のゼルギオスに敗れた後も、ゼルギオスに協力する立場になったと記録が残っています」リアンが書き物から顔を上げて言った。「守護竜の選定で敗れた候補は、通常は王国との関係を維持しながら別の役割を担う形になります」

「なのに今回は行方不明か」

「そうです」

 何かある、と思った。ただ、今の俺には情報がなかった。ウィンディオがどこに行ったか、誰が関わっているか、何も手がかりがない。

 動けない時に動こうとしても意味がない。頭の隅に入れておくだけにした。


「もう1つ」リアンが書き物を俺に向けた。「ハイルセン方面の情報です」

 紙を見た。

「不老不死になった者がいる、という話が流れています。王都でも耳にしました。対象は小貴族や大商人が多いようです」

「ハイルセンでも似た依頼を見た」

「ええ。ただ確証はありません。あくまで噂の段階です」リアンが続けた。「実際に不老不死になった人間を見た、という証言が複数あるようですが、直接確認した者は誰もいない。伝聞の伝聞という状態です」

 俺はハイルセンで見た依頼の紙を思い出した。商会名がついているものもあった。噂として流れているだけでなく、それを信じて動いている人間が複数いる。

「眉唾だが、完全に無視もできないな」

「そうですね。現地に行かないと判断できません」


「ハイルセン絡みでもう1つ」バルドが言った。「港で異常な高波が頻発しているらしい。漁業に被害が出ている」

「原因は?」

「不明です」バルドが言った。「海の異変というのは珍しい話ではないですが、頻度が高すぎる、という声が漁師から出ているようです。嵐でもないのに波が来る」

 自然現象なのか、それとも何かが原因なのか、今の情報では判断がつかない。

「これも現地で確認するしかないな」

「そうだと思います」


 食事が終わった。

 俺は頭の中で情報を並べた。

 不老不死の噂。ハイルセンに集まっている需要。確証はないが、何かが起きている可能性がある。

 港の異常高波。原因不明だが、頻度が高い。自然現象ではないかもしれない。

 ウィンディオの失踪。こちらは今の段階では追いようがない。

 どれも現地に行かないと確認できない。そして、今いる王都ではこれ以上の情報が得られない状態になっていた。

 王都での依頼も1巡した感がある。守護竜の選定が終われば、人の集まりが落ち着いて仕事も減る。

「ハイルセンに戻るのが自然だな」


「選択肢を整理する」俺は言った。「王都に残る、別の都市に行く、ハイルセンへ戻る。この3つだ」

「王都は選定が終われば人が減る」バルドが言った。「仕事も落ち着く」

「別の都市というのはどこだ」リアンが言った。「イーストフロントか、シルバムに戻るか、いずれにしても今集まっている情報からは離れることになる」

「ハイルセンなら不老不死の噂も高波の件も確認できる。依頼も集まっている。稼ぎ場としても悪くない」

 3つを並べると、答えは1つだった。

「ハイルセンだ」

 バルドとリアンが頷いた。


「移動の仕方を決めよう」俺は言った。

「陸路と空路で速度が違う」サークが言った。「同時に出ても着くタイミングが大きくずれます」

「それを活かす」俺は言った。「バルドとリアンは護衛依頼を受けながら陸路で移動してくれ。安定した収入になるし、道中の情報も集められる」

「それは問題ない」バルドが言った。

「俺たちはニアで先行する。ハイルセンに早く着いた分だけ、採取依頼を先に消化できる。情報収集も先に始められる」

「合流の場所と時期は?」リアンが聞いた。

「ハイルセンの《金羊亭》を拠点にしよう。以前も使った。着いた順に情報を共有して、揃ったところで次の動きを決める」

「了解した」

 パーティが解散するわけではない。速度の差を使って、並行して動く。俺たちが空路で先に着いて、バルドとリアンが陸路で後から来る。それぞれが動きながら情報を集めて、合流時に統合する。


「出発はいつにする」バルドが言った。

「明日の朝でいい。ニアの準備もある」

「護衛依頼は今日中に受注しておきます」リアンが言った。「明日出発のものがあるか確認します」

「頼む」

 話が一段落すると、バルドが少し笑った。

「ニアは今どうしているんだ」

「竜舎で寝てると思う」

「あいつ、懐いてきたか」

「懐いてきたというより……怖がっている相手から守ってくれる存在として見られているという方が正確かもしれない」

「サークを怖がっているのか」

 サークが何も言わなかった。表情も変えなかった。それが答えだった。

 リアンが笑いを抑えている顔をしていた。バルドが肩を揺らした。

「まあ、うまくやれているなら問題ない」バルドが言った。

「機能はしている」


 部屋に戻ってから、俺はサークと2人になった。

「ハイルセンに着いたら、まず依頼掲示板を確認する」

「不老不死関連か、高波関連か、どちらを先に動くつもりですか」

「まだ決めていない。依頼の状況を見てから判断する」俺は言った。「情報がなければ動けない。現地で集めてから方針を立てる」

「そうですね」

 窓から王都の夜景が見えた。明日には離れる場所だ。ハイルセンとここで、見えてきた情報が幾つかある。不老不死の噂、高波の異変、ウィンディオの失踪、そしてシルバムと山岳から続いている黒幕の影。

 点が増えてきた。

 線になるかどうかは、ハイルセンに行ってみないとわからない。

「明日、早めに出る」

「準備しておきます」

 サークが目を閉じた。

 俺も横になった。

 次の舞台はハイルセンだ。


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