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第26話 空中戦訓練

「方向は北東。上空や」

 俺は空を見た。

 まだ何も見えなかった。青い空と白い雲だけだ。

「どのくらい遠い」

「速いから、すぐ来る」ニアが言った。「大きい。翼が広い」

 サークの匂いではまだ分からない。

 それだけ速く動いているという事だ。

 俺は魔物知識を参照した。この山域に生息する大型の鳥型魔物で、危険度がCランク相当になるのはロック鳥だ。グリフォンより体が大きく、力が強い。縄張りに入った相手を積極的に攻撃する習性がある。

「ロック鳥だ」俺は言った。「俺たちより1ランク上だな」

「木陰に隠れれば回避できますか」サークが言った。

 俺はニアを見た。

 5メートルの竜が隠れられる木陰はこの辺りにはない。それどころか、ニアがいる時点で気配と魔力が両方出ている。引きつけるのは時間の問題だ。

「逃げられない」俺は言った。「戦うしかない」


「ニア、ブレスは使えるか」

「溜めれば使えるで。でも時間がいる」

「溜めておいてくれ。すぐには撃つな」

「わかったで」

「空中戦だ。上に出る」

 地上では体格差がそのまま戦力になる。だが飛行中は機動力がものを言う。ロック鳥は縄張りの防衛が目的だから、こちらが動き続ければ対応が遅れる可能性がある。

「ニア、飛べ。俺たちが指示を出す」

「タカオ様、了解やで」


 ニアが離陸した。1気に高度を上げた。

 上空から見ると、北東からの影が見えた。大きかった。ニアより一回り大きい翼を広げた鳥型の魔物が、まっすぐこちらに向かってきていた。体重はニアの方があるかもしれないが、翼の広さはロック鳥の方が上だ。

「サーク、マジックファングをかけておいてくれ」

「はい」サークが魔法を発動した。ニアの爪に魔法武器の性質を付与した。ニアがロック鳥に近接攻撃をするときに有利にするためだ。

 ロック鳥が距離を詰めてきた。

 すれ違いのタイミングで、俺はウィークを発動した。淡い光がロック鳥に届いた。

 ロック鳥の翼の羽ばたきが、わずかに乱れた。


「ニア、あれを見ろ。翼の動きが変わった」

「ほんまや。なんか重そうや」

「ウィークをかけた。筋力と耐久が落ちている。飛行中は常に出力が必要だから、空中戦ではデバフの効果が大きい。旋回するたびにバランスが崩れる」

「なるほど」

「だから今が攻めやすい状況だ。ただ、ブレスはまだ撃つな」

「なんで」

「当たる状況を作るのが先だ」


 ロック鳥が向きを変えて突っ込んできた。

「ニア、正面は避けろ。横に回り込め」

「こっちか」

「もう少し早い。相手が向きを変える前に位置を変える」

 ニアが旋回した。ロック鳥が追ってくる。でもウィークで旋回が遅れていた。ニアの方が内側を回れた。

「今、横に出た。そのまま後ろから近づけるか」

「やってみるで」

 ニアが加速した。ただし軌道が1直線だった。ロック鳥が察知して向きを変えた。すれ違いになった。

「外れた」

「届かんかった」

「当たり前だ。まっすぐ行けば読まれる。フェイントを入れろ」

「フェイントってなんや?」

「最初に左に動いて、すぐ右に変える。相手は左と思って動いた瞬間に右から入る」

 もう一度やった。

 今度は少し当たった。ニアの翼がロック鳥の翼端を掠めた。ロック鳥がバランスを崩した。

「かすったで」

「それでいい。感覚を掴め」

 3回目、4回目と繰り返した。

 ニアの軌道が変わってきた。最初は全部1直線だったのが、途中で角度を変えるようになった。まだぎこちなかったが、方向性は出てきた。

「タカオ様、コツがわかってきた気がするで」

「急がなくていい。相手を見てから動け。先に動くんじゃなく、相手が動いてから合わせるんだ」

「待ってから」

「そうだ」

 5回目。ニアがロック鳥の動きを一瞬待った。ロック鳥が右に向いた瞬間に、ニアが右側から突っ込んだ。

 体当たりが入った。

 ロック鳥が大きくよろめいた。

「当たったで」

「そうだ。それが正解だ」


 ロック鳥が体勢を立て直そうとしていた。でも動きが鈍くなっていた。ウィークの効果と、体当たりのダメージが重なっている。

「もういい」俺は言った。「ブレスを使え」

「ええんか」

「当たる状況になった。撃て」

 ニアが溜め動作に入った。

 喉の奥から光が集まった。稲妻みたいな光が収束して、1気に放出された。

 ロック鳥の翼に直撃した。

 ロック鳥が高度を落とした。一瞬、落下しかけて翼を広げ直した。飛べなくはないが、明らかにダメージを受けていた。

 ロック鳥がこちらを一度見た。それから向きを変えて、北の方向に飛んでいった。

 追わなかった。


 地面に降りた。

 俺はしばらく何も言わなかった。

 俺は頭の中で整理していた。ニアを含めた今の俺たちの戦力がどの水準かを確認していた。

 ロック鳥はCランク相当だ。撃退できた。ウィークの補助があったとはいえ、ニアが実戦で動いた結果だ。

 ただし安定はしていない。ニアの動きはまだ荒い。フェイントを入れることを覚えたが、連続してできるかはわからない。今日の戦闘で機能したのは、状況が良かった部分も大きかった。

 ニア込みでCランク相当の戦力と判断した。ただし安定性はまだ不足している。

「ニア」

「なんや」

「よくやった。でも反省点がある」

「わかっとる。最初の3回はまっすぐすぎたんや」

 ニアは自分でわかっていた。俺は少し意外だった。

「気づいてたのか」

「外れた時に、なんか違うと思うた」

「それで十だ。続けていけば安定してくる」

 ニアが翼を広げたり閉じたりした。落ち着かない様子だったが、怒っているわけではなさそうだった。


 午後も採取を続けた。

 ニアが上空から採取ポイントを見つけた。崖の上や岩の間に生えている植物を、遠目で識別して場所を教えてくれた。

 植物知識があるから、ニアが指示した場所に行って実際に確認できた。条件に合うものを選んで、状態を崩さないように採取した。

 その日の終わりに、1日の採取件数を数えた。5件が完了していた。


 夕方、ニアが鹿を見たと言っていた場所へ行った。

 サークがサモンエレメンタルを使った。今回は炎の精霊を召喚した。炎レベルを上げるための意識的な選択だ。精霊が草むらに入って、シカを3頭追い出した。ニアが1頭を捕まえて、サーク1頭を仕留めた。2頭も仕留めれば十分だった。

 焚き火の代わりに炎の精霊を使って、俺とサークの分の肉を焼いた。ニアは生でも問題ないらしく、残りを自分で処理した。

 食事をしながらニアが言った。

「タカオ様、今日の戦闘、楽しかったわ」

「怖くなかったか」

「怖かった。でも当たった時は気持ちよかった」

「訓練だと思え」俺は言った。「実戦で試して、失敗して、次に直す。それを繰り返すしかない」

「タカオ様、わかったで」


 別の日、グリフォンが出た。

 ロック鳥より体が小さかったが、旋回が速かった。直線の速度ならニアの方が上だが、方向転換の素早さがグリフォンの方が明らかに高かった。

 ニアにとって対応が難しい相手だった。でもその分、訓練になった。

 相手の動きを読んで待つことと、フェイントを入れることを実戦で繰り返した。完全に制圧はできなかったが、グリフォンが撤退するまで持たせることができた。

「前回より動きがよかった」俺は言った。

「グリフォン、速かった」ニアが言った。

「あれに慣れれば、大抵の相手には対応できるようになる」


 予定通りの日数で王都に戻った。

 ニアを竜舎に預けてから、ギルドへ向かった。


 採取依頼の全件を報告した。

 予定した通り全部条件を満たして持ち帰った。

 職員が確認してから、驚いた顔をした。

「全件完了ですか。これほど短期間で」

「飛行手段があったので」

「…なるほど」職員がそれ以上は聞かなかった。「報酬をお支払いします」

 合計230ゴールドだった。


 ギルドの待合席で本を開いた。

 俺は加護魔法がレベル11からレベル12になっていた。ポケットが13+1になった。魔物知識がレベル5、植物知識がレベル3、地域知識がレベル2に上がっていた。

 善行ポイントが10.65から10.75になっていた。

「サークは?」

「炎がレベル9になっています。これで炎の3レベル魔法が使えるようになりました。」サークが言った。

 これで、最もコストパフォーマンスがいいとされ、ほぼ全員が習得するファイアーボールが使えるようになった。範囲も広く威力も高いから、これだけでかなりの戦力アップと言えるだろう。

「炎の精霊を意識して使ったのと、グリフォンとの戦闘で実戦経験が積めました。善行ポイントは7.46です」

「少し増えたな」

「護衛と採取の両方が影響していると思います」


 財布を確認した。

 出発前が195ゴールドだった。竜舎の費用として5日分15ゴールドを支払っていた。鞍が5ゴールド。肉の確保が初日分で2ゴールド。合計22ゴールドの支出だ。

 そこに230ゴールドの報酬が入った。

 計算すると、195マイナス22プラス230で、403ゴールドになった。

「増えた」

「大幅にですね」サークが言った。

「ニアの食費を含めてもこれだけ残る。運用として成立した」


 でも、課題は残っていた。

 王都を出た後の竜舎問題は解決していない。移動先で毎回、ニアの待機場所を調整する必要がある。

 バルドとリアンが王都で情報収集をしていた。守護竜の決勝が終わったはずで、3代目が決まっているかもしれない。不老不死の薬の依頼についても、何か掴んでいるかもしれない。

 シルバムと山岳で逃げた術者の話も、まだ何も解決していない。

 採取で稼いで維持費を確保する軸と、黒幕の手がかりを追う軸が、両方動き続けていた。

「バルドとリアンに報告しに行くか」

「宿で待ってるはずです」サークが言った。

 俺は立ち上がった。

 ニアを加えてから、動き方が変わった。飛行で移動できる。上空から索敵できる。戦力として機能した。

 面倒なのが増えた、と最初に思った。その通りではあった。でも、それだけでもなかった。

 俺は宿への道を歩いた。


メモ


タカオ

加護魔法 ランク28 レベル12

ポケット 13+1

習得魔法

 レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック

 レベル2:ストレングス・ウィーク

 レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル5

植物知識 レベル3

地域知識 レベル2

善行ポイント 10.75


サーク

属性魔法(炎) ランク19 レベル9

属性魔法(光) ランク25 レベル10

ポケット 10+1

習得魔法

 レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・ファイアーボール

近接戦闘 ランク9 レベル5

鋭敏感覚 レベル7

気配感知 レベル5

善行ポイント 7.46


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