第24話 ドラゴンの維持費と現実問題
王国の担当者に連絡先を聞いてから、ニアを連れて移動を始めた。
ニアがついてきた。
どすん、どすん、と地面が揺れた。5メートルの竜が歩いているのだから当然だが。
これは、とても町の中を連れて歩けない。
俺は立ち止まった。
「ニア、ここで待っていてくれ。動くな」
「なんや、せっかくついていこうとしたのに」
「いいから待て」
俺はそのままニアを竜舎に戻した。
バルドとリアンに会いに行って事情を話す。
「ドラゴンを仲間にしたって……どういう流れだ?」バルドが言った。
「成り行きで、押し付けられた」
「大きすぎて宿に入れられませんよ」リアンが言った。即答だった。「竜が入れる宿なんて、この王都にもありません。今夜どうするんですか」
「それは考える」
「食事はどうするんだ」バルドが続けた。「あのサイズだと、人間の食事量とは桁が違います」
2人を連れて竜舎に戻り、ニアに話を聞く。
「ニア、1日どのくらい食べる」
「肉を60から70キロくらいか」
「70キロって」俺は復唱した。
「少ない方やで。本調子なら100キロはいける」
リアンが小声で計算し始めた。
「70キロ……安くても2~3ゴールドですね。100キロなら最低でも1日3~4ゴールドになります」
俺は少し黙った。
計算は出ている。
「これは無理だな」
「即断が早い」バルドが言った。
「考えても結論は変わらない」
人間の約100倍。それがニアの食事量だ。
1日2から3ゴールドというのは最低ラインで、本調子なら5ゴールド近くなる。今の所持金が195ゴールドだ。それを食費だけで40日で使い切る計算になる。
依頼を受け続けながら維持するには、収支が合わない。
「王国に再交渉する」
先ほどの担当者を呼び戻した。
交渉は短かった。
王都滞在中は竜舎を利用できる。食事込みで1日3ゴールド。王国側もニアを完全に手放したわけではないから、最低限の世話はするという話だった。
「1日3ゴールドか」
「選定期間中の特別料金です。通常なら5ゴールド以上になります」
安くはない。でも自分たちで肉を用意するよりはずっとマシだ。
「わかった。滞在中はそれで頼む」
担当者が書類を取り出した。手続きをして、竜舎の場所を教えてもらった。
俺は内心、王都を出た後のことを考えた。竜舎が使えるのは王都にいる間だけだ。この先どうするかは、先送りになった。
ニアに向かった。
「ニア」
「なんや」
「食費は1日5ゴールドかかる。今の俺たちには払い続けられない」
「知らんわ、そんなこと」
「だから稼いでもらう」
ニアが目を細めた。
「わいが、働くんか」
「そうだ。文句があるか」
「……文句はないけど」ニアが少し考えてから言った。「何すればいいんや?」
「それをこれから考える」
「移動時間を削れます」
サークが言った。
「距離で敬遠されている依頼なら、価値が上がります」
「採取か護衛か」俺は言った。「空から動けるなら、通常では時間のかかる移動が短縮できる」
翌朝、ギルドへ向かった。
大会の最中で、多くの冒険者が観戦に時間を使っているようで、掲示板の前に人が少なかった。
未受注の依頼が余っていた。
北の山岳地帯に関する採取依頼が複数あった。高山にしか生えない薬草や鉱物の採取で、1件あたりの報酬が10ゴールド前後だった。
通常なら往復に10日以上かかる距離だ。だから敬遠されている。でもニアの飛行なら、往復を大幅に短縮できる。
「これだ」
サークが横から見た。
「タカオ様、薬草の識別ができますか」
俺は少し考えた。
各種知識のランクが16ある。スキルとして取得すれば対応できるはずだ。植物知識と地域知識があれば、現地で判断できる。
「善行ポイントを使う」
本を開いた。
地域知識と植物知識の取得確認をした。それぞれ1ポイントずつ。合計2ポイント消費する。
俺の善行ポイントが12.65から10.65になった。
頭に情報が流れ込んできた。山岳地帯の地形の傾向、薬草の特徴と識別方法、季節ごとの採取条件。魔物知識の時と同じ感覚だ。索引が増えた感じがした。
「これで現地でも判断できる」
「採取自体はニアに手伝わせるのが難しいと思いますので」サークが言った。「飛行と運搬が主な役割になりますね」
「それで十分だ」
戻りながらリアンが言った。
「ニアの宿泊場所はどうするんですか。王都を出た後の話ですが」
「竜舎が使えない場所では、町の外で待機させるしかないだろうな」
「合理的だが、気持ちの上では難しい」
サークが言った。「町の外なら広い場所があります。ニアにとっても窮屈な宿より向いていると思います」
「問題は討伐対象にされることだな」バルドが言った。「知らない冒険者が見れば、魔物と判断する」
「事前に警備や領主側に説明を入れておく必要がある」俺は言った。「移動先で毎回調整が必要になる。面倒だが仕方ない」
完全な解決ではない。でも今すぐ解決できる問題でもなかった。
竜舎に行って、ニアに説明した。
石造りの広い建物で、大型の竜が複数入れる構造になっていた。ニア以外の竜候補も何頭かいた。
「ここに泊まれ。食事はここで出る」
「わかった」ニアが言った。「ところで、さっきのサークはんも来るんか」
「サークも一緒に動く。なぜだ」
「怖い」
「お前の方がでかいだろう」
「でかさの問題やない」ニアが言った。「あいつ、本気で怒った時の顔が怖い」
俺はサークを見た。サークは無表情だった。それが余計に怖い気がした。
「サークは抑えておく」
「ほんまに?」
「ただし、お前が礼儀を守る限りは手を出さない。タカオ様と呼べ。それだけ守れ」
俺は特に気にしないが、サークが気にしそうだからだ。
「……タカオ様な」
「そうだ」
「わかった」
採取依頼の段取りを進めながら、1つ問題が出てきた。
ニアに乗れる人数だ。
体格の上では複数人が乗れそうだが、飛行中の安定性の問題がある。ニアが言うには、本人の感覚として2人が限度だということだった。
「2人か」
「それ以上は飛びにくい」
バルドとリアンと俺とサークで4人いる。全員が一度に移動できない。
「パーティを分けるしかないな」
夕方、試合会場に戻った。
その日の予選は終わっていた。観覧エリアで残った情報を拾うと、翌日の決勝が判明した。
ウィンディオとバルモスの一騎打ちだということだった。下馬評通り2頭の有力候補が最後に残った形だ。ニアはすでに脱落しているから、3代目の守護竜は明日決まる。
「明日の決勝は見ておきたいですね」リアンが言った。
「時間が許せば」俺は言った。「採取依頼も進めないと、維持費が追いつかない」
宿に戻って、4人で話し合った。
「採取依頼はタカオさんたちがニアを使ってやる方が効率的だな」バルドが言った。「俺たちが乗れる人数じゃないし、邪魔になるだけだ」
「私たちは王都で情報収集をします」リアンが続けた。「守護竜の選定に絡んで、王都では色々な動きがあるはずです。不老不死の薬の依頼も気になっています」
「それは助かる」俺は言った。「数日かかるかもしれないが、戻ったら宿で情報を共有しよう」
「了解です」バルドが頷いた。
方針が決まった。俺とサークとニアで採取依頼に動く。バルドとリアンは王都に残って情報収集をする。
ニアの食費を稼ぎながら、王都での調査も進める。
「明日の朝、早めに出る」俺は言った。「ニア、準備はできるか」
竜舎からニアに伝言を入れてもらった。返事は「わかった。タカオ様」だったと係の人間が教えてくれた。
サークが珍しく満足そうな顔をした気がした。
「サーク」
「なんですか」
「お前、ニアの返事を聞いて少し嬉しそうだったぞ」
「気のせいです」
俺は笑った。
面倒なことになった。でも、そういうことが続いてここまで来た気がした。放っておけないから動く。それが結果として、今の状況を作っている。
明日から、ニアを連れた採取が始まる。




