↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/107

第24話 ドラゴンの維持費と現実問題

 王国の担当者に連絡先を聞いてから、ニアを連れて移動を始めた。

 ニアがついてきた。

 どすん、どすん、と地面が揺れた。5メートルの竜が歩いているのだから当然だが。

 これは、とても町の中を連れて歩けない。

 俺は立ち止まった。

「ニア、ここで待っていてくれ。動くな」

「なんや、せっかくついていこうとしたのに」

「いいから待て」

 俺はそのままニアを竜舎に戻した。


 バルドとリアンに会いに行って事情を話す。

「ドラゴンを仲間にしたって……どういう流れだ?」バルドが言った。

「成り行きで、押し付けられた」

「大きすぎて宿に入れられませんよ」リアンが言った。即答だった。「竜が入れる宿なんて、この王都にもありません。今夜どうするんですか」

「それは考える」

「食事はどうするんだ」バルドが続けた。「あのサイズだと、人間の食事量とは桁が違います」

 2人を連れて竜舎に戻り、ニアに話を聞く。

「ニア、1日どのくらい食べる」

「肉を60から70キロくらいか」

「70キロって」俺は復唱した。

「少ない方やで。本調子なら100キロはいける」

 リアンが小声で計算し始めた。

「70キロ……安くても2~3ゴールドですね。100キロなら最低でも1日3~4ゴールドになります」

 俺は少し黙った。

 計算は出ている。

「これは無理だな」

「即断が早い」バルドが言った。

「考えても結論は変わらない」


 人間の約100倍。それがニアの食事量だ。

 1日2から3ゴールドというのは最低ラインで、本調子なら5ゴールド近くなる。今の所持金が195ゴールドだ。それを食費だけで40日で使い切る計算になる。

 依頼を受け続けながら維持するには、収支が合わない。

「王国に再交渉する」


 先ほどの担当者を呼び戻した。

 交渉は短かった。

 王都滞在中は竜舎を利用できる。食事込みで1日3ゴールド。王国側もニアを完全に手放したわけではないから、最低限の世話はするという話だった。

「1日3ゴールドか」

「選定期間中の特別料金です。通常なら5ゴールド以上になります」

 安くはない。でも自分たちで肉を用意するよりはずっとマシだ。

「わかった。滞在中はそれで頼む」

 担当者が書類を取り出した。手続きをして、竜舎の場所を教えてもらった。

 俺は内心、王都を出た後のことを考えた。竜舎が使えるのは王都にいる間だけだ。この先どうするかは、先送りになった。


 ニアに向かった。

「ニア」

「なんや」

「食費は1日5ゴールドかかる。今の俺たちには払い続けられない」

「知らんわ、そんなこと」

「だから稼いでもらう」

 ニアが目を細めた。

「わいが、働くんか」

「そうだ。文句があるか」

「……文句はないけど」ニアが少し考えてから言った。「何すればいいんや?」

「それをこれから考える」

「移動時間を削れます」

 サークが言った。

「距離で敬遠されている依頼なら、価値が上がります」

「採取か護衛か」俺は言った。「空から動けるなら、通常では時間のかかる移動が短縮できる」


 翌朝、ギルドへ向かった。

 大会の最中で、多くの冒険者が観戦に時間を使っているようで、掲示板の前に人が少なかった。

 未受注の依頼が余っていた。

 北の山岳地帯に関する採取依頼が複数あった。高山にしか生えない薬草や鉱物の採取で、1件あたりの報酬が10ゴールド前後だった。

 通常なら往復に10日以上かかる距離だ。だから敬遠されている。でもニアの飛行なら、往復を大幅に短縮できる。

「これだ」

 サークが横から見た。

「タカオ様、薬草の識別ができますか」

 俺は少し考えた。

 各種知識のランクが16ある。スキルとして取得すれば対応できるはずだ。植物知識と地域知識があれば、現地で判断できる。

「善行ポイントを使う」


 本を開いた。

 地域知識と植物知識の取得確認をした。それぞれ1ポイントずつ。合計2ポイント消費する。

 俺の善行ポイントが12.65から10.65になった。

 頭に情報が流れ込んできた。山岳地帯の地形の傾向、薬草の特徴と識別方法、季節ごとの採取条件。魔物知識の時と同じ感覚だ。索引が増えた感じがした。

「これで現地でも判断できる」

「採取自体はニアに手伝わせるのが難しいと思いますので」サークが言った。「飛行と運搬が主な役割になりますね」

「それで十分だ」


 戻りながらリアンが言った。

「ニアの宿泊場所はどうするんですか。王都を出た後の話ですが」

「竜舎が使えない場所では、町の外で待機させるしかないだろうな」

「合理的だが、気持ちの上では難しい」

 サークが言った。「町の外なら広い場所があります。ニアにとっても窮屈な宿より向いていると思います」

「問題は討伐対象にされることだな」バルドが言った。「知らない冒険者が見れば、魔物と判断する」

「事前に警備や領主側に説明を入れておく必要がある」俺は言った。「移動先で毎回調整が必要になる。面倒だが仕方ない」

 完全な解決ではない。でも今すぐ解決できる問題でもなかった。


 竜舎に行って、ニアに説明した。

 石造りの広い建物で、大型の竜が複数入れる構造になっていた。ニア以外の竜候補も何頭かいた。

「ここに泊まれ。食事はここで出る」

「わかった」ニアが言った。「ところで、さっきのサークはんも来るんか」

「サークも一緒に動く。なぜだ」

「怖い」

「お前の方がでかいだろう」

「でかさの問題やない」ニアが言った。「あいつ、本気で怒った時の顔が怖い」

 俺はサークを見た。サークは無表情だった。それが余計に怖い気がした。

「サークは抑えておく」

「ほんまに?」

「ただし、お前が礼儀を守る限りは手を出さない。タカオ様と呼べ。それだけ守れ」

 俺は特に気にしないが、サークが気にしそうだからだ。

「……タカオ様な」

「そうだ」

「わかった」


 採取依頼の段取りを進めながら、1つ問題が出てきた。

 ニアに乗れる人数だ。

 体格の上では複数人が乗れそうだが、飛行中の安定性の問題がある。ニアが言うには、本人の感覚として2人が限度だということだった。

「2人か」

「それ以上は飛びにくい」

 バルドとリアンと俺とサークで4人いる。全員が一度に移動できない。

「パーティを分けるしかないな」


 夕方、試合会場に戻った。

 その日の予選は終わっていた。観覧エリアで残った情報を拾うと、翌日の決勝が判明した。

 ウィンディオとバルモスの一騎打ちだということだった。下馬評通り2頭の有力候補が最後に残った形だ。ニアはすでに脱落しているから、3代目の守護竜は明日決まる。

「明日の決勝は見ておきたいですね」リアンが言った。

「時間が許せば」俺は言った。「採取依頼も進めないと、維持費が追いつかない」


 宿に戻って、4人で話し合った。

「採取依頼はタカオさんたちがニアを使ってやる方が効率的だな」バルドが言った。「俺たちが乗れる人数じゃないし、邪魔になるだけだ」

「私たちは王都で情報収集をします」リアンが続けた。「守護竜の選定に絡んで、王都では色々な動きがあるはずです。不老不死の薬の依頼も気になっています」

「それは助かる」俺は言った。「数日かかるかもしれないが、戻ったら宿で情報を共有しよう」

「了解です」バルドが頷いた。

 方針が決まった。俺とサークとニアで採取依頼に動く。バルドとリアンは王都に残って情報収集をする。

 ニアの食費を稼ぎながら、王都での調査も進める。

「明日の朝、早めに出る」俺は言った。「ニア、準備はできるか」

 竜舎からニアに伝言を入れてもらった。返事は「わかった。タカオ様」だったと係の人間が教えてくれた。

 サークが珍しく満足そうな顔をした気がした。

「サーク」

「なんですか」

「お前、ニアの返事を聞いて少し嬉しそうだったぞ」

「気のせいです」

 俺は笑った。

 面倒なことになった。でも、そういうことが続いてここまで来た気がした。放っておけないから動く。それが結果として、今の状況を作っている。

 明日から、ニアを連れた採取が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。