第21話 成長の実感と新たな目的地
宿に戻って、本を開いた。
数字が変わっていた。
加護魔法のレベルが11になっていた。前が9だったから、2段階上がっている。ポケットも10から12に増えた。魔力容量増加Ⅰで増やした1つと合わせて、合計13になっている。魔物知識もレベル4に上がっていた。
「思ったより上がったな」
サークが本に触れた。少し間があってから言った。
「炎がレベル8になっています」
「3段階か」
「洞窟で炎の精霊を使ったのが効いたと思います。リアンさんに教わった通りでした」サークが続けた。「光はレベル10です。ポケットが10に増えました。近接戦闘がレベル5、鋭敏感覚がレベル7、気配感知がレベル5になっています」
全体的に大きく上がっていた。
「格上の敵と戦うと、経験の質が違うな」
「術者に逃げられたとはいえ、あれだけの敵と連続して対峙しました。経験としては十分だったということだと思います」
逃がした悔しさはある。でも成長として返ってきたことは事実だ。結果として無駄ではなかった。
善行ポイントも確認した。
俺:12.65。前が10.55だったから、2.1増えている。
「サークは?」
「7.38です。前が5.28でした」サークが言った。
2.1の増加、同じ量だった。行方不明者の真相解明という成果が、大きく反映されたのだろう。
報酬の分配も計算した。75ゴールドが入って、前の所持金と合わせると175ゴールドになっていた。
「少し余裕が出てきたな」
「次の習得に使えます」
翌朝、ギルドへ向かった。
今回の反省は明確だった。洞窟で術者が消えた時、透明化なのか転移なのか、俺自身で判断する手段がなかった。リアンがいたから確認できたが、それがなければ何もわからないままだった。
ディテクトマジックを習得した。1レベル魔法なので費用は10ゴールドだ。
それからサークにも聞いた。
「お前も習得するか」
「はい。俺の属性魔法でも取得できます」
サークも加護魔法版ではなく、属性魔法共通版のディテクトマジックを習得した。
習得しながら、1つ確認したことがあった。
リアンから魔法を教わった時に気になっていた点だ。同じ名前の魔法でも、系統が違えば構造が違う。加護魔法のディテクトマジックと、属性魔法のディテクトマジックは別物だ。だから互いに教え合えない。
ただし、属性魔法の中では「共通魔法」という概念がある。ディテクトマジックやサモンエレメンタルがそれに該当する。全属性で共通の構造を持つ魔法で、炎使いが光使いに教えることができる。
「整理できてよかった」俺は言った。「今後また誰かと組む時に使える知識だ」
2人分の習得費用で20ゴールド。所持金が175から155ゴールドになった。
それから数日が経った。
山岳周辺での異変が、目に見えて減った。
ゴブリンの出現数が落ちていた。依頼掲示板でも討伐報告が少なくなっていた。グルックからも「最近は街道が静かになった」という話を聞いた。
ギルドの職員に確認すると、1つの見解を示してくれた。
「ゴブリンの増加は、アンデッドの影響で生息域が乱れていたためだと考えています。術者が撤退したことで、アンデッドの発生が止まり、ゴブリンも落ち着いてきたようです」
「敵が撤退した、ということか」
「可能性が高いと見ています。洞窟の件が発覚したことで、この地域での活動を一時中断した可能性があります」
つまり、術者は逃げただけでなく、この地域から手を引いた。
事件は沈静化した。でも解決したわけじゃない。黒幕には届いていない。目的もわからない。
俺の中でくすぶるものがあったが、今すぐどうにかできる手段もなかった。
バルドとリアンに声をかけられたのは、事件が落ち着いてから3日後だった。
食堂で4人が向かい合って座った。
「提案がある」バルドが言った。
「なんでしょうか」
「王都に行かないか」
俺は少し間を置いた。
「王都というのは、バークホルムのことか」
「そうだ」バルドが続けた。「この地域での事件は収束した。敵も撤退している。ここで待ち続けても、次の手がかりは出てこない可能性が高いと思う」
「大きな仕事や情報を求めるなら、場所を変える必要があります」リアンが補足した。「王都は情報が集まる場所ですし、今は特に人が集まる時期です」
「特別な時期というのは?」
「守護竜の選定が行われます」リアンが言った。
守護竜、という言葉を初めて聞いた。
リアンが説明してくれた。
バークホルム王国には、建国王の相棒だったドラゴンが守護竜として代々存在してきた。単なる象徴ではなく、王国を実際に守護する役割を担ってきた存在だ。
現在は2代目の守護竜がその役を担っているが、高齢になったため3代目を決める儀式が行われる。その選定の大会が500年ぶりに王都で開催される予定だという。
「500年ぶりか」俺は言った。
「王都には各地から人が集まる。情報も、仕事も、普段より密度が高くなる。それを利用しない手はないと思った」バルドが言った。
「守護竜を直接見られる機会でもあります」リアンが少し目を輝かせた。「魔法的な観点からも、非常に興味深い」
サークが静かに俺を見た。
俺は少し考えた。
この地域での目的は、一旦達成した。山岳の行方不明者の件は解決扱いになった。術者は逃げたが、手がかりがこの地域に残っている保証もない。
次の手がかりを求めるなら、情報が集まる場所に行くのが合理的だ。
守護竜という存在に、率直に興味があった。この世界に来てから、ドラゴンとは出会っていない。ギルドで一度、小型のドラゴンを連れた冒険者を見かけたくらいだ。守護竜が何なのか、どんな存在なのか、自分の目で見てみたかった。
サークに向いた。
「どう思う」
「行くべきだと思います」サークが言った。「術者の話が王都と繋がっているかどうかわかりませんけど、情報を集めるなら人の多い場所の方がいいと思います。」サークが少し間を置いた。「それに、俺も守護竜というものが、気になります」
「お前が気になるのか」
「はい。ドラゴンがどういう存在なのか、俺も知りたいです」
珍しく素直な好奇心だった。俺は少し笑って、バルドとリアンを見た。
「王都に行こう」
バルドが頷いた。リアンが嬉しそうに言った。
「よかった。一緒に行きましょう」
翌日から準備を始めた。
グルックに話した。
「王都に行くことにした」
「そうですか」グルックが少し寂しそうな顔をしてから、すぐに笑顔になった。「でも、そのくらいのレベルなら当然の選択ですよ。王都ならもっと大きな仕事があります」
「護衛を頼めなくなるが」
「大丈夫です。他に頼める人間を見つけます」グルックが言った。「ただ、またどこかで会うことがあれば、ぜひ声をかけてください」
「もちろんだ」
グルックと握手をした。最初に出会った街道の場面を思い出した。あの時はまだサークとの距離感もぎこちなくて、剣の持ち方も不安定だった。ずいぶん遠くまで来た気がした。
出発の前日の夜、俺は本を開いてステータスを確認した。
タカオ
加護魔法 ランク28 レベル11
ポケット 12+1
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド・ディテクトマジック
レベル2:ストレングス・ウィーク
レベル3:リジェネレーション・ディスペルマジック・エレメンタルガード
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル4
善行ポイント 12.65
サーク
属性魔法(炎) ランク19 レベル8
属性魔法(光) ランク25 レベル10
ポケット 10+1
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト・ディテクトマジック
レベル2:サモンエレメンタルⅠ・ホーリーウェポン・フレイムボディー
レベル3:サモンエレメンタルⅡ・ライトニング・マジックファング・シャインフラッシュ・(ファイアーボール)
近接戦闘 ランク9 レベル5
鋭敏感覚 レベル7
気配感知 レベル5
善行ポイント 7.38
出会った時、サークを選んだ時のことを思い出した。
檻の中で縋るような目をしていたロックと重なって、放っておけなかった。
今のサークは、あの時とは違う。体格も戦力も上がって、判断も速くなった。それでも根本は変わっていない。
必死で、誠実で、正直だ。
俺も変わっていた。棍棒一発で膝をついた頃から、リジェネレーションとディスペルマジックとエレメンタルガードを持つ後衛になった。
「サーク」
「はい」
「王都、どんな場所だと思う」
サークが少し考えた。
「ハイルセンよりさらに大きいと聞いています。人も情報も、今まで見たことのない密度で集まっている場所でしょう」
「守護竜もいる」
「はい」サークが静かに言った。「ドラゴンです。どんな存在なのか、俺には想像がつきません」
「俺もだ」
窓の外でアールストンの夜が静まっていた。
ここに来たのは最初の夜だった。グルックの家に泊めてもらって、翌朝ハイルセンに向かった。遠い昔のような気がする。
明日、この町を出る。
バルドとリアン、サーク、それから俺。4人で王都を目指す。守護竜の選定が行われている王都で、散らばった点が線になるかもしれない。ならないかもしれない。
でも行かない理由はなかった。
俺は本を閉じた。




