第19話 山岳調査と共同戦闘
翌朝、バルドとリアンに会いに行った。
「受ける。一緒にやろう」
バルドが頷いた。リアンが少し口角を上げた。
4人でギルドに向かって、正式に依頼を受注した。
改めて確認した報酬は150ゴールドだった。最初に掲示板で見た金額より上がっていた。
「危険度が高い上に未解決のまま時間が経っているので、ギルドが上乗せしたんです」リアンが説明した。「実質Cランク上位相当の報酬です」
「解決できなかった場合は?」
「情報提供だけでも1部報酬が出るようだ」バルドが言った。「段階報酬型の依頼だ。行方不明者の手がかり、原因の特定、解決、それぞれに報酬が設定されている」
無理に突っ込まなくていい仕組みだ。情報を持ち帰るだけでも意味がある。それが判断を楽にした。
「わかった。行こう」
その日は南にある宿場村を目指して出発した。
今回はこれまでの護衛と根本的に違う点があった。
迂回しない。
行方不明者が出ている山道を、直接進む。危険を避けるための依頼ではなく、危険の中心に向かう依頼だ。
それがどういうことか、1歩踏み込んだ時に改めて実感した。道の両脇に迫る山が、これまでとは違う重さで見えた。
「サーク、何か感じるか」
「今のところは問題ありません。ただ、匂いの層が複雑です。いろんなものが通った跡がある」
「人間も含めて、か」
「はい」
バルドが先頭を歩いた。歩き慣れている様子で、足元の確認が速い。リアンは中央で、魔法の準備がすぐできる姿勢を維持していた。
宿場村には夕方前に着いた。
夕食の後、リアンがサークに話しかけた。
「少し聞いていいですか」リアンが言った。「魔法の教え合いをしませんか」
サークが少し頭を傾けた。
「教え合い、ですか」
「ギルドで魔法を習得すると費用がかかりますよね。でも習得済みの術者から直接教われれば、費用を節約できる場合があります。双方が同意していれば問題ない方法です」リアンが続けた。「価値が釣り合えば公平な取引です」
俺も隣で聞いていた。
「どんな魔法を想定しているんだ」俺は聞いた。
リアンはサークに覚えている魔法を聞いた。サークが答えると、
「サークさんが持っているライトニングとマジックファング。合わせて80ゴールド相当ですよね。私が持っているシャインフラッシュとファイアーボールも合わせて80ゴールド相当です。同じ価値なら公平でしょう」
サークが俺を見た。俺が頷いた。
「問題ない。やってみよう」
食後の時間を使って、サークとリアンが魔法を教え合った。
リアンの教え方は整理されていた。魔法の理屈から入って、感覚の説明をして、実際にやってみせる。手順が明確で、サークも理解しやすそうだった。
サークがファイアーボールを習得した。
「ただ」サークが言った。「今のレベルでは使えません。炎のレベルが足りない」
「どのくらい必要なんだ」
「3レベル魔法なのでレベル9以上が必要です。今が5なので、もう少し先です」
「方向性は合っている。今はとりあえず持っておく形でいい」
リアンの方も同様に、サークからライトニングとマジックファングを教わった。リアンは覚えが速かった。魔法を集めているのが伝わる吸収速度だった。
「リアンさん、魔法収集の趣味がありますね」サークが言った。
「わかりますか」リアンが少し笑った。「使わない魔法でも持っておきたくなるんです。いつか役に立つかもしれないので」
俺はリアンを見た。実用より好奇心で動いている部分がある人間だとわかった。それが強みにも弱みにもなり得る。
リアンが追加で話してくれた。
「サモンエレメンタルについて、1つ確認しておきたいんですが」
「何でしょうか」
「あれは全属性共通の召喚魔法ですよね。使用者の適性に応じて属性を選択できます」
「そうなんですね」
「炎の精霊を呼べば、炎を使うことになるので炎レベルが上がります。意識して炎の精霊を使えば、炎属性の経験が積めるんです」
サークが少し顔を向けた。
「それは考えたことがなかったです」
「光の精霊ばかり使っていたなら、光のレベルしか上がりません。炎を伸ばしたいなら、炎の精霊を使う場面を増やした方がいい」
俺は少し考えた。
「サーク、次の戦闘では炎の精霊を試してみてくれ。状況が許すなら」
「わかりました」
リアンの情報は実用的だった。魔法収集が趣味というだけあって、細かいところまで把握している。
翌朝、山道に本格的に踏み込んだ。
隊列を決めた。
先頭はバルドだ。重装で防御力が高い。道中の初手を受け止めるのに向いている。
後方警戒はサークが担当する。嗅覚と気配感知で、後ろからの接近を察知する。
中央は俺とリアンが並んだ。俺が支援を担当して、リアンが魔術を担当する。
「役割が重複しないな」俺は言った。
「パーティとしてはバランスが取れているな」バルドが言った。
山道は傾斜があった。道幅が狭い場所と、開けた場所が交互に来る。岩が多くて、木の根が道を横切っていた。気を抜くと足を取られる。
昼を過ぎた頃だった。
「タカオ様」サークが声を落とした。
「何だ」
「東の方向に、人間の匂いが続いています」
「生きているか」
「……わかりません。匂いが古い。でも血の匂いはない」
「視覚的には?」リアンが周囲を確認した。「何も見えないですね」
「匂いは確かにあります」サークが言った。「ここから外れた方向ですが」
バルドが俺を見た。
「調べるか」
俺は少し考えた。今は山道の調査依頼を受けている。人間の痕跡を無視して進む理由はない。
「行ってみよう。ルートを変える」
サークが先導した。
山道から外れて、木立の中に入った。足元が悪くなった。岩と倒木を避けながら進んだ。
約1時間歩いた。
洞窟があった。
岩肌に横穴が開いていた。入口は大人が2人並んで入れるくらいの幅だ。黒く暗くて、奥が見えない。
「匂いは中に続いています」サークが低く言った。
「人間の匂いか」
「人間の匂いと……別の何かです。坑道で嗅いだものに近い」
アンデッドだ、と全員が同じことを思ったはずだった。
リアンがライトを発動した。白い光が入口を照らした。
「行きます」バルドが言って、先に踏み込んだ。
4人で慎重に進んだ。天井が徐々に低くなって、道幅が狭まった。足元に砂と小石が積もっていて、踏むたびに音がした。
奥から音がした。
音というより気配だ。複数の存在がいる。
俺は魔物知識を参照した。
「アンデッドです」俺は静かに言った。「複数います」
「何体くらい」バルドが聞いた。
「わかりません。ただ多い」
サークが鼻を動かした。
「20体前後だと思います。それと……もう1つ、別の匂いがあります。生きた人間の匂いです」
「行方不明者か」俺は言った。
「おそらく」
少し引いた場所で、4人が頭を寄せた。
「準備を確認する」俺は言った。
サークがマジックファングを自分にかけた。爪と牙に魔法武器の性質が付与される。長時間持続する魔法だから、戦闘が始まってからでも機能し続ける。
「リアンはバルドにホーリーウェポンをかけますか?」サークが言った。
「突入直前にかけます」リアンが答えた。「準備時間が必要なので、合図のタイミングに合わせます」
「アンデッドだけじゃないかもしれない」俺は言った。「シルバムで経験している。術者がいる可能性がある」
「そうだとしたら、優先順位はどうする?」バルドが言った。
「アンデッドを片付ける前に術者を叩く。ただし位置を確認してから動く。見えない状態で突っ込まない」
「了解だ」
「1つ提案があります」リアンが言った。
「何だ」
「突入した直後、私が合図を出したらシャインフラッシュを使います。その前に全員目を閉じてください。敵の視界だけを潰します」
「有効だな」
「ただ、タイミングがずれると味方も巻き込みます」リアンが続けた。「合図は必ず声で出します。私が『いくわよ』と言った瞬間に目を閉じてください」
「わかった」
バルドが頷いた。サークも頷いた。
昇格試験でリアンのシャインフラッシュに視界を潰された。あの感覚を今度は敵に使う側になる。
「俺はサークへのブレスとストレングスを先にかけておく。あとは状況を見てリジェネレーションやディスペルマジックで支援する」
「私はバルドへのホーリーウェポンを突入直前に」
「俺は前に出て最初の1体を受け止める」バルドが言った。「その後は手当たり次第だ」
4人の役割が揃った。
俺はサークにブレスとストレングスをかけた。淡い光がサークを包み、サークの体が一回り大きくなる。
洞窟の奥に向かって、4人で進んだ。
音が大きくなった。気配が濃くなった。
道が広くなった。
リアンがバルドの剣に手を伸ばした。ホーリーウェポンが発動した。剣が白く光った。
「突入したら合図に備えて」リアンが静かに言った。
広い空間に出た。
いた。
アンデッドが20体ほど、空間の中に散らばっていた。ワイトのような少しレベルの高いアンデッドが多い。シルバムの廃坑より数が多かった。
その奥に、人影があった。
女だった。黒いローブではなく、動きやすそうな暗い服を着ていた。腕に魔法陣が刻まれているのが見えた。アンデッドを操っている術者だ。
女が気づいて俺たちを見た。
表情が変わった。
「なぜここを……」
想定外の遭遇だった。向こうは俺たちが来ることを知らなかった。驚いていた。
それが一瞬の隙になった。
リアンの声が響いた。
「いくわよ」




