第18話 Dランク依頼と新たな目的
Dランクになった翌朝、ギルドの掲示板に向かった。
今まで見られなかった区画が解禁されている。青い紙のDランク依頼が並んでいた。Eランクの黄色い紙より数が少ないが、報酬の数字は上がっている。
期待して眺め始めた。
護衛依頼をまず確認した。
数が少なかった。あるにはあるが、目的地がほぼ遠方だ。行って帰るだけで1カ月以上かかる案件ばかりだった。しかも、ほぼ着手済みの印がついていた。
「Eランクと同じ状況だな」俺は言った。
「シルバムはハイルセンほど冒険者が多くないですが、それでもDランクになると依頼の数が絞られて、依頼の奪い合いになるようです」
討伐依頼に移った。
目についたのはサンダービークの討伐報酬だった。魔物増加の影響で、領主が報奨金形式で出しているらしい。1羽につき510シルバー。証明はくちばしの提出だ。
「報酬は悪くないな」
「ただ、狙って探すのは非効率です」サークが言った。「山岳の広い範囲をうろついて、偶然遭遇を待つしかない。時間効率が悪い」
「遭遇した時に対処する方針でいいな。わざわざ探しには行かない」
調査依頼も確認した。遺跡の調査、山道の測量、集落の状況確認。どれも時間のかかる案件だった。グルックの護衛が明日に控えている。1日で終わるものがない。
一通り見終えて、引き上げようとした時に、掲示板の端に貼られた小さな紙が目についた。
公式依頼ではなく、情報の共有に近い内容だった。
アールストンにて山岳調査依頼あり。行方不明者が続出している山道の原因究明。Dランク以上推奨。
俺はその紙を少し見た。
山越えの行方不明者の話は、最初にグルックから聞いた。シルバムの鍛冶屋で起きたアンデッド事件。ゴブリンの増加。サンダービークの出現。
点が増えてきた。
全部が山を起点にしている気がした。
「サーク、これ見たか」
「見ていました」サークが静かに言った。「以前から気になっていた件ですね」
「ただ、今は動けない。グルックの護衛が先だ」
「はい」
紙から目を離した。頭には残しておいた。
「今日受けられる依頼はないな」
1日で終わる依頼が見当たらない。無理に遠方のものを受けて中途半端になるより、明日に備えた方がいい。
「休養にする。装備の確認と、体を休めておこう」
「わかりました」サークが言った。
翌朝、グルックの馬車でアールストンへ向けて出発した。
布陣は変わらない。グルックが御者台、俺が荷台後方、サークが前方索敵だ。
1日目、昼前にゴブリンが出た。
5匹だった。以前なら少し身構えていた数だが、今は違う。サークが低く唸った。スリープ一発で3匹が崩れた。残り2匹のうちの1匹にファイアボルトを撃つと、もう1匹は逃げ出した。
1分もかからなかった。
「速くなったな」
「はい」サークが特に感慨もなく言った。
2日目の夕方、別の遭遇があった。
今度はゴブリンの集団で、その中に1匹だけ様子の違う個体がいた。手に魔法陣みたいな光を纏わせていた。
「ゴブリンシャーマンだ。属性魔法を使って来るぞ。」俺が言うと、
「任せてください」
サークがライトニングを撃った。
光が走った。
ゴブリンシャーマンが一撃で消えた。
残りの普通のゴブリンはサークのスリープで片付いた。
俺はしばらく黙って、サークを見た。
「ライトニングは強いな」
「レベル3魔法ですから。ポケットを3つ使いますが」
「それでも一撃で仕留められるなら10分だ」
戦力が上がっていることを、数字でなく実感として感じた。
特に大きな問題もなく、アールストンに着いた。
グルックが報酬を渡してくれた。今回は12ゴールドだった。前回より少し多い。
「お疲れ様でした」グルックが笑顔で言った。「相変わらず頼りになります」
「またよろしく頼む」
宿は以前泊まった麦穂亭を使った。顔を覚えていてくれた宿主が、軽く頭を下げた。
宿に落ち着いてから、本を開いた。
タカオ:10.55。
出発前の10.52から、0.03増えていた。
「サークは?」
「5.28になっています」サークが言った。「前が5.25でした」
俺は少し考えた。
今回の護衛では、ゴブリンを相当な数倒している。それでも減っていない。むしろ増えている。
「正当な戦闘では減点にならないということだな」
「護衛の依頼を達成したことと、商人を守ったことが加算されているんだと思います」サークが言った。「自衛や依頼のための戦闘は、善行に含まれるということでしょうか」
「基準は相変わらずはっきりしないが、方向性はわかってきた」
悪意のない戦闘は減点にならない。誰かを守るための行動は加算される。おそらくそういうことだ。
ついでにステータスも確認した。
加護魔法のレベルが9になっていた。
「上がった」
「今回の護衛でかなりの数の魔法を使いましたから」サークが言った。「数をこなせば経験になるということですね」
「雑魚戦でも積み重ねれば上がる。それがわかった」
レベル9になったことで、3レベル魔法を習得できるようになった。資金もある程度残っている。
ギルドで加護魔法の3レベル候補を確認していた内容を、改めて整理した。
リジェネレーション。継続回復の魔法で、戦闘中に徐々に体力を回復する。長期戦や強敵相手に有効だ。
「長期戦に入ったとき、俺のヒーリングの補助になる」俺は言った。
「坑道でガルバンさんが倒れた時のような状況で、あれば助かったかもしれません」
ディスペルマジック。敵にかかっている強化魔法を1つ解除する魔法だ。強化された敵に対するカウンターになる。
「これは必須だな。ウィークと合わせれば、強化型の敵を確実に弱体化できる」
「魔術師との戦闘でも有効です。強化や防壁を解除できれば、対処の幅が広がります」
「確定だ」
キャンセレーション。発動しようとする魔法そのものを無効化する。ただし成功率が不安定らしい。
「将来の候補だな。今は確実性のあるものを優先する」
ヘイスト。対象の速度を上げる魔法だ。サークにかければ前衛としての機動力が上がる。
「悪くない。ただ今のサークはすでに10分速い。他を優先する」
エレメンタルガード。特定の属性攻撃に対する防御を張る魔法だ。サンダービークの光属性攻撃が来た時の対策になる。
「属性がわかっている相手には特に有効ですね」
「これも確定だな」
他の候補も確認した。ウォーターブリーズは環境魔法で今は不要。キュアディジーズは病気治療で今のところ必要性がない。クリエイトフードは食料生成で緊急用途だが今は不要。アニマルスピークは動物との会話だが、現状有効そうには見えない。
3つに絞った。
ディスペルマジック、エレメンタルガード、リジェネレーション。
3レベル魔法は1つ40ゴールドだ。3つで120ゴールドになる。
「1気に使うな」俺は言った。
「残金はどのくらいになりますか」
「今が220ゴールドある。120使えば100ゴールド残る」
「生活費と次の移動を考えると、ギリギリですね」
「そうだな」俺は少し考えた。「でもここで取っておかないと、次に機会があるかわからない。山に入ることを考えると、エレメンタルガードは特に必要だ」
「同感です」
翌朝、ギルドの施設を使って3つを習得した。合計3時間かかった。3レベル魔法は1レベルより習得に時間がかかる。頭に流れ込む知識の量が違った。終わった後、少し頭が重かった。
残金が100ゴールドになった。
宿に戻る途中だった。
「タカオさん」
振り返ると、見知った顔だった。
シルバムのギルドで昇格試験をやった時の、重装の戦士の方だった。隣に軽装の魔術師もいた。2人で並んで立っていた。
「昇格試験の時の」俺は言った。
「そうです」戦士が言った。「少し話があるんですが、時間ありますか」
近くの食堂に入った。
戦士の名前はバルド、魔術師の名前はリアンといった。2人ともDランクで、しばらくシルバム周辺で依頼を受けていたらしい。
「実は、一緒に依頼を受けてもらえないかと思いまして」バルドが言った。
「どんな依頼だ」
「山岳調査です。アールストンで出ている案件で、行方不明者が続いている山道の原因を調べる内容です」
俺は少し黙った。
掲示板の端に貼られていた紙の内容だ。
「危険度は高いですが、報酬もそれなりです。ただ2人では不安で、信頼できる相手を探していました」バルドが続けた。「昇格試験を見て、動き方が合いそうだと思いました」
「急に言われても即断はできない」
「もちろんです。考える時間を取ってください」リアンが言った。「ただ、あまり長くは待てません。私達もどうするか決めたいので」
その夜、グルックに会いに行った。
グルックの店に行って事情を話すと、グルックが少し考えてから言った。
「受けた方がいいと思いますよ」
「そうか」
「タカオさんたちのレベルになると、護衛の仕事では物足りなくなってきます。私の護衛なら、他に頼める人間はいます」グルックが続けた。
「それに、山の件はずっと気になっていました。誰かがちゃんと調べないと、街道を使う商人全員が困る」
「グルックが困るということか」
「俺も含めて、ということです」グルックが苦笑した。「でも本当に、タカオさんたちなら任せられると思って言っています」
グルックの言葉には邪気がなかった。損得よりも、俺たちの力を信じて言っているのがわかった。
宿に戻ってからサークと話した。
「どう思う」
「リスクは高いです」サークが言った。「ただ、以前から気になっていた案件です。アンデッド、魔術師、行方不明者、魔物の増加。全部が山に繋がっている気がします」
「俺も同じことを考えていた」
「バルドとリアンの2人は、実力は確認できています。シャインフラッシュで俺たちの視界を潰した上で、戦士が即座に突っ込んできた。連携が取れている」
「信頼できる相手かどうかは、一度組んでみないとわからないが」
「それはどんな相手でも同じです」
俺は少し間を置いた。
「受ける」
サークが頷いた。
翌朝、バルドとリアンに伝えた。
「一緒に受けましょう」
バルドが少し表情を和らげた。
「助かります。詳細を共有させてください」
4人でテーブルを囲んだ。
依頼の内容を確認しながら、俺は頭の中で点を繋げていた。
最初にグルックの馬車で聞いた話。山越えで行方不明者が出ている。ゴブリンだけではない何かがいる可能性がある。
シルバムの廃坑で起きた事件。レベル2105以上の魔術師。禁術。アンデッドの生成実験。
サンダービーク。山岳路で初めて遭遇した、今まで見たことのなかった種族。グルックも初見だった。
掲示板に貼られていた非公式情報。山岳調査依頼。行方不明者が続いている山道。
全部が山を向いていた。
何かが山の中にある。あるいは、山の中で何かが起きている。
神様が言っていた言葉がまた浮かんだ。この世界、ちょっと歪み始めていてね。
歪みの中心が、山にあるのかもしれない。




