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第17話 Dランク昇格試験

掲示板に向かおうとしたところで、声をかけられた。

「タカオさんとサークさんですね」

 受付の職員ではなく、上位職員だった。事件の報告を受け付けた時に対応してくれた人間だ。

「何かあったか」

「少しよろしいですか」

 カウンターの奥の小部屋に通された。

「先日の案件での活躍が、ギルドとして高く評価されました」職員が言った。「Bランク相当の案件に対応していただいたわけですが、現在お2人はEランクです」

「そうだな」

「ランクと実力の乖離が大きい状態です。そこで、Dランク昇格試験を受けていただけないかと思いまして」

 俺はサークを見た。サークが少し耳を動かした。

「Dランク以上は依頼の危険度が上がります」職員が続けた。「そのため、ギルドとして実力の確認が必要になります。実績だけでなく、試験に合格することが昇格の条件です」

「試験というのは」

「Dランク冒険者との模擬戦です。勝利が必須というわけではありません。一定以上の実力を示していただければ合格とします」

「いつやるんだ」

「試験官役の冒険者の都合で、本日の午後になります」


 部屋を出てから、サークと少し話した。

「受けるか」

「受けた方がいいと思います」サークが言った。「ランクが上がれば依頼の選択肢が増えます。試験を避ける理由がない」

「勝利が必須ではないというのは、言い訳の余地があるということか、それとも本当に実力を見るだけなのか」

「どちらにしても、できることをやるだけです」

 サークの言い方は淡々としていたが、それが正しかった。

 職員に伝えた。

「受けます」


 午後まで時間があった。宿に戻って、魔法の構成を考えた。

 相手はDランクだ。今の俺たちはEランクだ。格上の相手ということになる。

「慎重に組む必要があるな」

「マジックファングは事前に付与しておきます」サークが言った。「効果時間が長いので、試合前からかけておけば序盤から機能します」

「それはいい」

 俺の方の構成を考えた。

 ストレングスはサークへの初手強化に使う。ウィークは相手の弱体化に2回分持っておく。ブレスもサークに使う。ヒーリングは万が1の回復に。

 ポケットが10になったおかげで、余裕が生まれた。ポケット2つを残しておけば、予想外の展開にも対応できる。

「俺の構成はストレングス、ウィーク2つ、ブレス、ヒーリング。ポケット2つ残し」

「俺はマジックファング事前使用、サモンエレメンタルⅡ、フレイムボディー。ポケット1つ残しです」

「バランスはいい。あとは相手次第だな」


 午後、ギルドの訓練場に行った。

 石畳の広場で、2人が待っていた。

 1人は重装の戦士だ。鎧を纏って、木製の大きな楯を持っている。腰に木刀を差していた。体格がよくて、立ち方が安定している。前衛だとひと目でわかる。

 もう1人は軽装だった。動きやすそうな格好で、杖を持っている。後衛の魔術師だ。

 審判役の職員がルールを説明した。武器は木製のみ。有効打の蓄積で敗北判定。危険な攻撃は禁止。

 2人は俺たちを見て、特に表情を変えなかった。格上として見ているのか、それとも単に仕事として来ているのかは読めなかった。

「始めましょうか」と審判が言った。


 審判が試合開始を宣言した瞬間、俺はサークに向けてストレングスを発動しようとした。

 それより速かった。

 後衛の魔術師が即座に動いた。杖を向けて、魔法を撃った。

 光が炸裂した。

 視界が消えた。

 完全に白くなった。眩しくて何も見えない。耳は聞こえる。足元の感触はある。でも目が機能していなかった。

 シャインフラッシュだ。広範囲の閃光で視覚を奪う魔法だ。サークが候補として挙げていた魔法の1つだった。


 視界がない状態で、俺は考えた。

 後衛が先に動いた。視界を潰した。次は前衛が来る。見えない俺に突っ込んでくるはずだ。

 今立っている場所にいれば当たる。

 俺は右に跳んだ。

 聞こえた。風を切る音と、重い足音が真っすぐ来て、俺がいた位置を通り過ぎた。

「うお」

 戦士の声がした。空振りした。

 回避できた。


 まだ視界が戻らなかった。

 耳と足の感触だけで状況を把握しようとした。戦士が振り返る音がした。向き直ってくる。

 木刀が来た。風を切る音で方向がわかった。前から斜め上だ。

 俺は地面に転がった。上を何かが通り過ぎた。

 少しずつ視界が戻り始めた。白い霧が晴れていくような感覚だ。

 形が見えてきた。戦士が俺の前に立っていた。楯を構えて、木刀を上げている。


 視界がほぼ戻った。

 サークがいた。

 光の精霊が戦士に向かって体当たりをかましていた。戦士が後退した。精霊が前に出て、戦士の前衛としての動きを塞いでいた。

 サーク本人は後衛の魔術師の横に回り込んでいた。体を低くして、魔術師の動きを抑えている。杖を振れない状態に押さえ込んでいた。

 前衛は精霊が抑えている。後衛はサークが抑えている。

 役割分担が、勝手に成立していた。


 俺は戦士に向けてウィークを発動した。

 淡い光が戦士の体を包んで消えた。

 効果は目に見えてわかった。楯の構えが少し落ちた。動きが鈍くなった。重装の鎧と弱体化の組み合わせで、戦士の機動力が明確に落ちた。

 精霊が体当たりを続けた。戦士が踏ん張れなくなっていた。

 後衛の魔術師はサークに押さえ込まれたまま、杖が使えない状態が続いていた。

 前衛も後衛も、機能が止まっていた。


「そこまで」

 審判の声が広場に響いた。

 精霊が止まった。サークが魔術師から離れた。戦士が楯を下げた。

 俺はまだ少し息が上がっていた。

「判定は合格です」審判が言った。


 審判が続けた。

「特に評価したのは、シャインフラッシュへの即応です。視界が完全に消えた状態で、回避行動を取れた。想定外の攻撃への対処能力があると判断しました」

「連携と役割分担も良かったです」と戦士が言った。「視界がない状況でも、相棒が自分で動いて状況を作っていた」

 俺は少し考えてから言った。

「サークのおかげです」

 サークが少し顔を向けた。何も言わなかったが、耳が動いた。

「タカオ様の回避があったから俺が動けたんです」サークが言った。「どちらかだけでは無理でした」


「補足しておきます」審判が言った。「2人は本気ではありません。ファイアーボールのような危険魔法は使用制限をかけてもらっていました」

「それはわかっていた」俺は言った。「試験の場で本気でやられたら困る」

「2人のレベルは12前後です」

 俺は少し間を置いた。

「Dランクの基準はいくつだ」

「レベル9以上がDランクの目安です。Cランクはレベル16以上になります」

 サークがレベル9だ。俺は加護魔法がレベル8で、サークより少し下だ。

「ランク基準としては到達圏ですね」と審判が言った。


「正式にDランクへの昇格を認定します」

 冒険者証が新しいものに変わった。刻印が変わっていた。

 Dランク。

 Fから始まって、Eを経て、Dに来た。短い期間だったが、積み上げてきたものがここに形として出た。

「おめでとう」と戦士が言った。

「ありがとう」俺は言った。


 訓練場を出た。

 サークが隣を歩いた。

「昇格できましたね」

「ああ」

「嬉しくないですか」

 俺は少し考えた。

「嬉しくないわけじゃない」正直に言った。「ただ、格上の相手に本気を出してもらえていないわけだからな。今日の試験で俺たちが勝てたのは、戦術が合ったからであって、実力で上回っていたわけじゃない」

「相手がレベル12で、本気でファイアーボールを使ってきたら」

「おそらく負けていた」

 サークが少し黙った。

「でも、今日やったことは実力の範囲内です」

「そうだな」俺は認めた。「戦術を組んで、状況に対応して、役割分担をした。それは俺たちにできることを出した結果だ」

「Dランクは出発点ですね」

「そうだ。Cランクはレベル16以上からだ。まだ上がある」

 シルバムの石畳を歩きながら、空を見た。山岳の空は平地より近い気がした。雲が低くて、稜線がはっきりしていた。

「次の依頼を見に行くか」俺は言った。

「グルックの出発まで、あと1日です」

「1日あれば何か動ける」

 サークが頷いた。

 俺たちは掲示板へ向かった。


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