第16話 善行ポイントと成長設計
シルバム滞在の残り日数が2日になった。
グルックの出発まで、まだ少し時間がある。魔法の習得は1通り終えた。装備の確認も済んでいる。となると、次に手をつけるべきことが1つある。
善行ポイントの使い道だ。
今のポイントは俺が11.52、サークが6.25。今まで使い道を把握しきれていないまま、魔法スキルに使ってきた。まとまった量になった今、一度ちゃんと整理しておく必要があった。
「本を持ってきてくれるか」
サークが荷物から本を取り出した。俺は宿の小テーブルに広げて、じっくり読み込んだ。
善行ポイントの使い道は大きく3つに分かれていた。
1つ目は才能ランクの取得と強化。レベルの成長上限を決める数値を上げる。
2つ目はスキルレベルの取得。魔物知識のような知識系スキルや、特定の能力を新たに習得する。
3つ目は特殊能力の取得。飛行能力や感知強化のような、スキルとは別の系統の能力を直接得る。
「3つか」俺は言った。「それぞれの効果とコストを確認していこう」
まず才能ランクの話だ。
俺の加護魔法ランクは28だ。これは加護魔法が成長できる上限を示していて、ランクより高いレベルには上がれない仕組みだ。
本を読み進めると、上位魔法の条件が書いてあった。
上級魔法である6レベル魔法を使うにはランク36以上が必要だ。今の28から8つ上げなければならない。究極魔法である9レベル魔法の場合はランク81以上が必要になる。
「今のランクでは、まだ上級魔法には届かないな」
「6レベル魔法まではそれほど遠くないですが、9レベルは……」サークが少し黙った。「ランク81は、かなり遠いですね」
コストも確認した。ランク21から30の範囲は1つ上げるのに0.9ポイント。ランク31から40は1つに1.6ポイント。ランク41から50になると2.5ポイントになる。
ランクが上がるにつれ、コストも上がっていく仕組みだ。
俺は計算した。ランク28から36まで上げるには、8段階分が必要だ。ランク28から30が0.9ポイント2つで1.8ポイント、ランク31から36が1.6ポイント6つで9.6ポイント。合計で11.4ポイントほどかかる計算だ。
「今持っているポイントをほぼ全部使っても、6レベルに届く才能ランクがギリギリ取れるかどうかだな」
「それだけ使って上位魔法に届く、ということでもありますが」
「ただ、今すぐ6レベル魔法を使えるわけじゃない。レベルそのものを上げるには、また別の経験が必要だ。才能ランクはあくまで上限だから」
「順番の問題ですね。ランクを上げてから、レベルを経験で積む」
「本格的に伸ばすなら、長期的な投資になる」俺は本を閉じた。「今すぐ全部使う必要はない。むしろポイントを貯める方針にした方がいいかもしれない」
次にスキル取得を確認した。
スキルを取得するには、まず対応する「才能」が必要だ。才能とは素質のようなもので、それがなければスキルが取れない。つまり、新しいスキルを開拓しようとすると、才能取得からスキル取得という2段階が必要になる。
「コストが重いな」
「才能の取得だけで相当のポイントが飛びます」サークが言った。「新規の方向を開くより、今持っているものを伸ばす方が効率がいいということですね」
「現状は既存強化を優先する。新規スキルの開拓は後回しだ」
異論はなかった。
3つ目の特殊能力を確認した。
1覧を見ていくと、飛行能力があった。コストは25ポイントだ。
「高い」俺は言った。「加護魔法が高レベルになればフライトが使えるようになる。将来的に魔法で代替できるなら、今25ポイント使う意味は薄い」
鋭敏感覚という項目もあった。感知能力の強化だ。コストは5ポイント。
「これはサークがすでに持っている能力だな」
「レベル6まで上がっています。俺の感知能力を補助的に使える状況なら、タカオ様が取る必要はないと思います」
他の項目も見ていったが、コストに見合わないか、今の俺たちの構成では役割が重複するものが多かった。
1覧の中に、1つ目を引いた項目があった。
魔力容量増加Ⅰ。
効果はポケットが1つ増える。コストは1ポイントだ。
「これは安い」
「1ポイントでポケットが増えるのは、非常に効率がいいと思います」サークが言った。
上位版も確認した。Ⅱは2ポイント追加で累計3ポイント、ポケットがさらに1増える。Ⅲは3ポイント追加で累計6ポイント、さらに1増える。
1ポイントでポケット1つが最も効率がいい。上位版になるにつれてコストが上がっていくから、まずⅠを取って、余裕があればⅡへ進む形になる。
「Ⅰから順に取得していくのが理にかなっている」
「同感です。ポケットが増えれば、1回の戦闘でセットできる魔法の数が増える。長期の依頼では特に差が出ます」
検討の結果が出た。
短期の投資先は魔力容量増加Ⅰだ。コストが低くて即効性がある。
長期の目標は才能ランクの強化だ。上位魔法を解禁するために必要で、リターンが大きい。ただし膨大なポイントが必要なので、今すぐ全額使うのではなく、貯めながら段階的に進める。
「まずⅠを取って、残りは貯める」
「それで良いと思います」サークが頷いた。
俺が先に本のページに手を当てた。
魔力容量増加Ⅰ。1ポイント消費。
ポケットの感覚が、わずかに広がった気がした。実感としては微妙だが、数字に出た。
俺のポケットが9から10になった。善行ポイントが11.52から10.52になった。
「サークも取るか」
「はい」
サークが本に触れた。同じように取得したようだった。
「ポケットが9になりました」サークが言った。「善行ポイントが5.25です」
「変化は感じるか」
「少し……広くなった感じがします。うまく言えませんが」
「俺もそんな感じだ」
追加で確認しておきたいことがあった。
「属性魔法のランク強化は、加護魔法と仕組みが違うのか」
「半分ほどのコストで強化できるようです」サークが言った。「属性魔法は加護魔法より習得のコストが低い分、ランク上昇のコストも抑えられているみたいです。ただ別々に育てないといけないので、両方を伸ばそうとすると、トータルで必要なポイントはあまり変わりません。」
「1点集中だと育成効率が高いかもしれないが、汎用性も大事だな」
「俺の炎と光は、まだランクに余裕があります。ただ、レベルを上げるには経験が必要なので、使い続けることが前提になります」
方向性は変わらない。炎は積極的に使って経験を積む。光は主軸として引き続き活用する。才能ランクを上げるポイントは、優先度を考えながら貯めていく。
整理が終わった。
「基本戦略を確認しておく」俺は言った。「魔法才能ランクを優先的に強化していく。上位魔法の解禁に直結するし、長期的なリターンが大きい」
「今すぐランクを上げるわけではなく、ポイントを貯める方針ですね」
「そうだ。まだ成長上限には余裕がある。今の経験でレベルが上がっていくなら、ランクを上げるのは少し先でいい。ポイントは蓄えておく」
サークが頷いた。
本を閉じて荷物に戻した。
グルックの出発まで、残り2日だ。時間はある。魔法の整理も終わった。成長方針も決まった。
「依頼を見に行くか」
「シルバムのギルドですか」
「ああ。空き時間を遊ばせておく理由もない。Eランクで受けられる依頼を確認してみよう」
サークが立ち上がった。
窓の外でシルバムの朝が動いていた。金属を打つ音が聞こえた。煙突から煙が上がっていた。事件の余韻は残っているが、この町の日常は止まらない。
俺たちも動く。それだけのことだ。




