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第15話 報酬と飛躍

 事件から2日後、ガルバンの工房に呼ばれた。

 工房の奥の小部屋に通された。ガルバンが椅子に座っていた。包帯が左腕に巻いてあったが、顔色は戻っていた。ラザンも隅に立っていた。頭に包帯を巻いて、顔が少し青いが、目の焦点は合っていた。

「来てくれたか」ガルバンが言った。

「ラザンも回復したか」

「なんとかな」ラザンが少しかすれた声で言った。「自分の体なのに、動いている感覚がなかった。あれは怖かった」

「気持ちはわかる」

 ガルバンが俺を見た。

「助けてもらった。礼を言う」

 短い言葉だったが、ガルバンの口から出ると重みがあった。

「これを受け取ってくれ」

 テーブルに革袋を置いた。手に取ると、ずしりとした重さがあった。中を確認すると、金貨が詰まっていた。数えると100ゴールドだった。

「多すぎる」

「多くない」ガルバンが言った。「弟子の命の値段として考えれば、むしろ足りない」

 俺はサークを見た。サークが小さく頷いた。

「受け取る。ありがとう」

「それともう1つ」ガルバンが続けた。「今後、困ったことがあれば力になる。鍛冶のことなら特に。装備が必要になった時は声をかけてくれ」

 ドワーフの鍛冶師に借りができた。これは金より価値があるかもしれないと思った。

「頼りにする」


 翌日、冒険者ギルドへ報告に行った。

 上位職員が対応した。事件の詳細を改めて確認されてから、職員が言った。

「今回の案件は、Bランク相当と正式に認定されました」

「Bランクか」

「禁術マジックジャーの使用、レベル25以上の魔術師との対峙、アンデッド複数体の制圧。これだけの条件が重なれば、Bランク扱いになります」

 職員が革袋を取り出した。

「Bランク冒険者に対する通常報酬額となります。200ゴールドです」

 俺は少し黙った。

「俺たちはEランクだが」

「案件のランクと冒険者のランクは別です。対処した案件の難度に応じて報酬が出ます」職員が続けた。「むしろ、Eランクでそれをやり遂げたことが評価されています」

 受け取った。

 ガルバンからの100ゴールドと合わせると、300ゴールドの臨時収入だ。今まで稼いできた全額に近い金額が、2日で入ってきた。


 宿に戻って本を開いた。

 数字が変わっていた。大幅に変わっていた。

 加護魔法がレベル4からレベル8になっていた。

「4段階上がった」

 ポケットが5から9に増えた。魔物知識もレベル1からレベル3に上がっていた。

 思い当たる節はあった。レベル25以上の魔術師と対峙して、禁術を受けた。アンデッドを制圧した。精神侵食に抵抗した。1回の戦闘としては、今まで経験したどれとも比べ物にならない密度だった。

 強敵との戦闘は、それだけ経験になるということか。


「サーク、お前も確認したらどうだ」

 サークが本に触れた。少し間があって、サークが静かに言った。

「炎がレベル5になっています。光がレベル9です」

「レベル9か」

「3レベル魔法が解禁されます」サークが続けた。「ポケットが8に増えました。近接戦闘がレベル4、鋭敏感覚がレベル6、気配感知がレベル4になっています」

 俺は数字を頭で整理した。

 サークはもともと強かった。でも今回の成長で、明確に1段階上に上がった。属性魔法(光)のレベル9は、3レベル魔法を使える水準だ。それが今のサークだということだ。

「主力戦闘員として、完全に別格になったな」

「タカオ様のサポートがあってのことです」

「お世辞はいい」

「お世辞ではありません」サークが真剣な声で言った。

「ブレスとストレングスとエイドがなければ、今回の戦闘でもっと苦しんでいました」

 俺は黙った。否定することでもない、と思った。


 善行ポイントも確認した。

 タカオ:11.52。

「倍近くになった」

 前回が6.02だったから、5.5ほど増えた。ガルバンを助けたことか、精神侵食に抵抗したことか、ラザンを救出したことか。おそらく全部が重なっている。

「サークは?」

「6.25になっています」サークが少し驚いたような間を置いて言った。「前が0.75だったので……5.5増えました」

「俺とほぼ同じ増え方だな」

「今回は俺も相当動きましたから」

 まとまったポイントが入った。選択肢が広がった。


 臨時収入だ、ということは頭に置いておく必要があった。

 今手元にある金は、グルックの護衛報酬、ゴブリン討伐報酬、ガルバンからの謝礼、ギルドからの特別報酬を合わせると、350ゴールドほどになる。

 ただし、これが毎回入ってくるわけじゃない。今回はたまたま高難度の案件に当たった。通常の護衛依頼では、1件あたり10から15ゴールドが相場だ。

「3レベル魔法は1つ40ゴールドだ」俺は言った。「無駄遣いは避ける」

「はい。優先順位を決めましょう」


 候補を1つずつ確認した。

 サモンエレメンタルⅡ。今のサモンエレメンタルⅠの上位版だ。精霊がより強力になる。以前から主力だった戦術の強化だ。それに、今後もⅢやⅣと上位版を習得していくなら、段階を踏む必要がある。下位魔法を習得している場合は半額で取れる仕組みも考えると、最重要候補だった。

「これは取る。半額で20ゴールドだ」

 ライトニング。高威力の単体攻撃魔法で、光属性の中でも火力が高い部類だ。射程も長く、サンダービークのような飛行型の敵への対空性能がある。前回の山岳路で苦労した相手への対策として、現状最善の手段だ。

「これも取る。対空の選択肢が欲しい」

 シャインフラッシュ。広範囲に閃光を放って、視覚を1時的に奪う。複数の敵を同時に無力化できる戦術的な魔法だ。

「悪くないが、まず他を優先する。余裕があれば後で」

 ホーリースフィア。対魔法防御の魔法で、闇系や禁術に対する防御効果がある。マジックジャーの対策にもなり得る。

「マジックジャーの使い手に早々出会うとは思えない。優先度はやや低い」

「同感です」サークが言った。「もし連続して出会うようなら話は変わりますが」

 マジックファング。爪や牙を魔法武器化する魔法で、効果時間が長く、汎用性が高い。特殊耐性を持つ敵、アンデッドや魔法的な防御を持つ相手に対して、武器の性能を底上げできる。

「これも取る。ホーリーウェポンのより汎用的な魔法だな」

「はい。特定の属性ではなく、魔法武器としての性質になるので、幅広い相手に使えます。効果時間もホーリーウェポンより長い」

 シャインヒール。回復魔法の光版だが、俺の加護魔法でヒーリングがある。2重に持つ必要がない。

「不要だ。加護魔法の2レベルにヒーリングプラスがある。必要なら後でそちらを取る」


 炎の2レベル魔法のフレイムボディーも確認した。体を炎で覆う魔法で、近接攻撃を受けた時に攻撃側にも炎ダメージが入る。接近してくる相手へのカウンターになる。属性魔法(炎)のレベルが5になったので、2レベル魔法が使えるようになっていた。

「フレイムボディーも取る。近接強化として」

「サンダービーク対策にも使えます。急降下してきた瞬間に触れれば、向こうにも炎が入ります」

「それは考えていなかった。悪くない」

 俺はウィークを取ることにした。敵の筋力と耐久を下げるデバフ魔法だ。強化された相手や、元々タフな相手の能力を削ることができる。これまで使える弱体化手段がなかった。

「ウィークを取る。20ゴールドだ」

 まとめると、サークがサモンエレメンタルⅡで20ゴールド、ライトニングで40ゴールド、マジックファングで40ゴールド、フレイムボディーで20ゴールド。俺がウィークで20ゴールド。合計で140ゴールドだ。


 習得を終えて財布を確認した。

 350ゴールドから140を使った。残り210ゴールド。

「加護魔法の3レベル魔法も今後欲しくなる」俺は言った。「1つ40ゴールドだ。複数取るなら蓄えておく方がいい」

「贅沢はしない方針ですね」

「基本はそうだ。今回みたいな臨時収入が毎回ある保証はない」

 サークが頷いた。


 習得を全て終えてから、俺は現状の戦力を整理した。

 精霊戦術が主軸だ。サモンエレメンタルⅡになって、精霊の強度が上がった。ブレスとストレングスで強化すれば、さらに威力が増す。

 ライトニングが加わって、飛行型の敵への対処が1つできた。サンダービーク相手に有効な手段がなかった前回の反省が、ここで活きる。

 マジックファングで近接戦闘が安定した。アンデッドや特殊耐性を持つ相手に、毎回ホーリーウェポンを使う手間がなくなる。

 フレイムボディーで近接カウンターが増えた。接近戦での選択肢が広がった。

 弱点はまだある。広範囲の殲滅手段が限定的だ。シャインフラッシュがあれば変わるが、まだ取っていない。飛行能力も未取得で、空中の敵との距離を詰める手段が精霊頼みだ。

 それでも、坑道に踏み込んだ時より、できることが増えた。


「善行ポイントの使い道も、そろそろ考える必要があるな」俺は言った。

「スキルの取得ですか」

「加護魔法は魔法として習得するが、各種知識系のスキルはポイントで取れる。優先順位を整理しておきたい」

「次の依頼が落ち着いた時に、まとめて考えましょうか」

「そうだな」

 窓の外でシルバムの夜が静かだった。事件の余韻はまだ町の空気に残っていた。閉鎖区画の話は広まっていて、宿の食堂でも話題になっていた。

 それでも、町は動いていた。鍛冶屋の煙突から煙が上がって、朝になれば金属を打つ音が戻ってくる。鉱山都市は止まらない。

 俺とサークも、止まっている理由はない。

「グルックの出発まで、あと2日あるな」

「シルバムでの依頼を消化しておきますか」

「そうしよう。ただし無理はしない」

「はい」

 本を閉じた。

 レベルが上がって、金が増えて、選択肢が広がった。それでも、できないことはまだたくさんある。

 1つずつ、積み上げていくしかない。それは最初から変わっていない。



タカオ

加護魔法 ランク28 レベル8

ポケット 9

習得魔法

 レベル1:ヒーリング.ブレス.エイド

 レベル2:ストレングス.ウィーク(NEW)

各種知識 ランク16

魔物知識 レベル3

善行ポイント 11.52


サーク

属性魔法(炎) ランク19 レベル5

属性魔法(光) ランク25 レベル9

ポケット 8

習得魔法

 レベル1:スリープ.ファイアボルト.サンダー.ライト

 レベル2:サモンエレメンタルⅠ.ホーリーウェポン.フレイムボディー(NEW)

 レベル3:サモンエレメンタルⅡ(NEW).ライトニング(NEW).マジックファング(NEW)

近接戦闘 ランク9 レベル4

鋭敏感覚 レベル6

気配感知 レベル4

善行ポイント 6.25


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