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第12話 鉱山都市と閉鎖区画

 シルバムの宿に落ち着いてから、グルックが言った。

「私はここで約一週間、仕入れをします。帰りの日程が合うようなら、またお願いできますか」

「もちろんだ。日程が合えば声をかけてくれ」

「ありがとうございます」グルックが少し安心したような顔をした。「では、それまでは自由に動いてください。シルバムは初めてでしょうから、色々と見ておくといいですよ」

 そういうわけで、一旦グルックとは別行動になった。

 グルックの馬車がなければ、俺とサークだけで動く。護衛の仕事がない分、自分たちのペースで動ける。久しぶりの感覚だ。


 まずギルドへ向かった。

 シルバムの冒険者ギルドは、アールストンよりは大きく、ハイルセンよりは小さかった。石造りで、天井が低い。鉱山都市らしく、全体的に頑丈な作りをしていた。

 護衛任務の完了報告をして、グルックからもらった証明書を提出した。

 職員が書類を確認してから、少し顔を上げた。

「評価が基準を超えましたので、ランクを更新します」

「昇格か」

「はい。FランクからEランクへの昇格です」

 小さな金属板を新しいものに交換してくれた。表面の刻印が変わっていた。

 Eランク。ワンランク上の依頼が受けられるようになった。数字として変わったわけじゃないが、積み上げてきたものが形になった感じがある。

「サーク」

「おめでとうございます」サークが静かに言った。

「サークのおかげだ。ありがとう」


 ギルドの片隅で本を開いた。

 タカオの欄を確認した。

 加護魔法のレベルが4になっていた。ポケットが5に増えている。

「レベル4だ」

 サークが覗き込んだ。

「2レベル魔法が解禁されましたね」

「ああ」

 次にサークに確認をしてもらった。

「炎がレベル3になっています」サークが言った。「光はレベル5です。ポケットも5に増えました」

「炎がちゃんと上がったな。意識してファイアボルトを使った効果が出ている」

「使えば上がる、ということが実感できました」

 サークの光がレベル5になった。3レベル魔法が解禁される9レベルは遠いが着実に前進している。


 アールストンでの検討で最優先にしていた魔法だ。レベル4になったので、今すぐ習得できる。

 職員に申し込んで、講師に通してもらった。

 費用は20ゴールド。払った。

 一時間ほどの講習だった。ストレングスは対象の体に作用する魔法で、筋力と耐久を高めると同時に体格を大きくする効果がある。感覚としては、ブレスと似た系統だが、もっと深く作用する感じがした。

 終わってからサークで試した。

 パスワードを口にして発動すると、淡い光がサークを包んだ。

 変化は目に見えてわかった。体格が一回り大きくなった。肩の幅が広がって、脚の厚みが増した。毛並みが逆立つように張った。

「どうだ」

「……重い」サークが少し間を置いた。「体が重いというより、力が充満している感じです。動くとわかります」

 サークが一歩踏み出した。地面を蹴った感触が違うのが、こちらから見てもわかった。

「これは使える」

「はい。思ったよりもかなり大きく変わります」

 効果時間を確認すると、ブレスと同様に持続する形だ。2レベル魔法なので、ポケットを2つ消費するが、それに見合う強化効果がある。


 宿に戻ってから、サークと今後の課題を整理した。

 一番の問題はサンダービークだ。あの遭遇を振り返ると、空中の敵に対して有効な手段が少なすぎた。精霊の体当たりが最終的に機能したが、それは待ち構えることができたからだ。積極的に対処できる手段がない。

「飛行できれば話が変わるが」

「加護魔法にフライトという魔法があるようです」サークが言った。「ただ、レベル4の魔法です。まだ遠いですね」

「属性魔法にはないのか」

「風属性の3レベルにスカイウイングという魔法があります。ただし風属性の素質が必要です。俺は炎と光しか素質がありません」

「素質は後から取れるのか」

「善行ポイントで取得できますが、10ポイント必要です」

 現在の俺の善行ポイントは6.02だ。全部使っても取ることが出来ない。

「属性には制限があるんだったな」

「対になる属性は同時に持てません。炎と水、風と大地、光と闇が対応しています。最大で三属性まで取れますが、俺は炎と光を持っているので、もし三つ目を取るなら風か大地になります」

「風属性を取れば理論上はスカイウイングに繋がるが」

「遠すぎます。素質取得に10ポイント、その後レベルを9まで上げる必要があります。現実的な選択肢ではないと思います」

 俺も同じ結論だった。

「遠距離攻撃を強化する方向はどうだ」

「炎のレベルを上げると、レベル9で3レベル魔法のファイアーボールが使えるようになります」サークが言った。「ファイアボルトよりずっと威力が高くて範囲もあります。サンダービーク相手でも、あれなら有効かもしれません。炎属性使いがほぼ全員習得するメジャーな魔法だそうです」

「レベル3魔法が使えるのは9レベルだよな」

「はい。今が3レベルなのでまだ遠いですね」

 加護魔法の方でも確認した。スピードという魔法があって、対象の移動速度を上げる。精霊の速度を強化できれば、空中でも機動力が上がる可能性がある。ただしレベル3の魔法で、今の俺はまだレベル2相当までしか使えない。

「今すぐという事でしたらサンダーボルトもありますが」サークが言った。

「光の2レベル魔法で、今のサークなら使えるな」

「はい。あれば便利ですが、必須とは思いませんので、今すぐ取らなくてもいいと思います」

 結論が出た。現状では戦術を大きく更新する手段がない。当面は既存の戦術、特にサモンエレメンタルを主力として対応していくしかない。光の精霊が今の俺たちの最重要戦力だということを、改めて確認した。


 翌朝、ギルドの掲示板を確認した。

 Eランクの依頼も受けられるようになっていた。報酬の幅が広くなっていて、内容も多様だ。

 今日の目的は別にある。ハイルセンから持ってきた荷物受け取り依頼だ。飲食店から注文された調理用ナイフを、シルバムの鍛冶屋で受け取ってハイルセンへ届ける。依頼人の鍛冶屋の名前と場所を確認して、向かった。


 指定された場所は、町の中ほどにある工房だった。

 扉を開ける前から金属を打つ音が聞こえていた。熱気が漏れていた。中に入ると、煤で黒くなった石壁と、炉の赤い光が目に入った。

 弟子らしき若い男が出てきて、俺たちを奥に案内した。

 奥にいたのは小柄な男だった。小柄といっても横幅がある。腕が太くて、胸板が厚い。髭が顎から胸の辺りまで伸びていて、顔の半分が隠れていた。ドワーフだとひと目でわかった。

「ガルバンだ」男が言った。声は低く、短かった。「ハイルセンからの受け取り依頼か」

「そうだ」

「できてる。待て」

 ガルバンが奥に引っ込んで、革で包んだ細長い荷物を持ってきた。包みを少し開いて、俺に中を確認させた。丁寧に仕上げられた調理用ナイフが六本、並んでいた。

「問題ないか」

「十分だ」

「それでいい」

 受け取りの手続きをして、署名をもらった。これでハイルセンに持ち帰れば依頼完了だ。

 荷物を確保してから、さて帰るかと思った時だった。


 別の弟子が工房に駆け込んできた。

 さっきの若い男より年上の、二十代後半くらいの男だ。息が上がっていた。

「ガルバン師匠、ラザンが戻ってきません」

 ガルバンの表情が変わった。

「どこへ行った」

「それが……鑿を忘れてきたと言って出たんですが、行き先が閉鎖区画の方で」


 ガルバンが俺を見た。説明が必要だと判断したのか、短く話してくれた。

 ラザンという弟子が、作業中に工具を置き忘れてきたことに気づいた。取りに戻ると言って出たが、向かった先が問題だった。最近立入禁止になった鉱区だ。

「なぜ立入禁止になったんだ」

「アンデッドが出た」ガルバンが言った。「三日ほど前から、廃坑になっていた旧鉱区に何かが現れるようになった。ゾンビが三体、確認されている。詳細は不明だが、危険と判断して立入禁止にした」

 アンデッド、という言葉が頭に引っかかった。

「ラザンはそれを知っていたのか」

「知っていた。知っていて入ったとしたら、工具がどうしても必要だったんだろう」ガルバンが顎髭を握った。「馬鹿な奴だが、放っておけない」


「俺が行く」ガルバンが立ち上がった。「だが一人では心もとない。あんたたちに頼めるか」

 俺はガルバンを見た。鍛冶師にしては体つきが戦闘向きだ。腰に短い斧を差していた。

「報酬は出す」ガルバンが続けた。「今すぐ決めてくれ、時間がない」

 俺はサークを見た。サークが小さく頷いた。

「受ける」


 出発の準備をしながら、俺はサークに小声で確認した。

「アンデッドに対して、今の俺たちの手札はどうだ」

「ホーリー系の魔法があれば有効ですが、俺はまだ習得していません。今のサモンエレメンタルや近接戦闘でも対応できますが、アンデッド相手に特別有利な手段はありません」

「アンデッドにはスリープは効かない」

 俺は魔物知識を伝える。

 想定より不利な条件だった。

「まず現地を見る。状況が予想以上なら一度撤退する。それでいいか」

「はい。無理をする理由はありません」


 ガルバンに伝えた。

「まず現地を確認する。状況によっては一度引いて、対策を取ってから再挑戦することになるかもしれない」

「構わない」ガルバンが頷いた。「ラザンが無事かどうか、まず確認したい。動けるなら引き出してくる。そうでなければ場所を特定してから対策を考える」

「同じ認識だ」


 準備を終えたガルバンを見て、俺は少し安心した。

 短い斧を両手分持っていた。防具は皮の胴当てと小手で、動きやすい装備だ。体の動かし方を見ると、扱い慣れているのがわかる。鍛冶師だが、戦えるタイプだ。

 前衛がサークだけだった状況に、もう一人加わる。それだけで選択肢が広がる。

「ドワーフは戦闘もやるのか」

「やらないと鉱山では生きていけない」ガルバンが短く答えた。「細かい話は後だ、行くぞ」


 三人で工房を出た。

 シルバムの石畳を歩きながら、ガルバンが先導した。目的地は町の外れ、廃坑になった旧鉱区だという。

 サークが俺の隣を歩いた。

「アンデッドへの対策は、現地を確認してから判断します」サークが低く言った。

「ああ。状況次第でホーリー系の習得を考える」

「ホーリーファングが候補になりますね。俺の爪と牙にアンデッド特攻が付く」

「それが一番即効性がある」

 道が石畳から岩肌の地面に変わった。建物の密度が下がって、廃坑の入口らしき暗い影が前方に見えた。

 アンデッドが相手だ。今まで戦ったことがない種類の敵だ。

 ガルバンが立ち止まって、暗い坑道の入口を見た。

「ここだ」

 俺はサークを見た。サークが前方に鼻を向けた。

「……匂いが変です。腐っている、というのともまた違う」

「知っているか」

「知りません。でも生き物の匂いじゃない」

 俺はヒーリング・ブレス・ストレングス・エイドがポケットに入っていることを確認した。

「行くか」

 ガルバンが先に踏み込んだ。俺とサークが続いた。


メモ

タカオ

加護魔法ランク28 レベル3→4

ポケット 4→5

習得魔法

レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド

レベル2:ストレングス(NEW)

各種知識ランク16

魔物知識レベル1(NEW)

善行ポイント6.62→5.62→6.02


サーク

属性魔法(炎)ランク19 レベル2→3

属性魔法(光)ランク25 レベル4→5

ポケット 4→5

習得魔法

レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト

レベル2:サモンエレメンタルⅠ

近接戦闘 ランク9

近接戦闘 レベル3

鋭敏感覚 レベル5

気配感知 レベル3

善行ポイント0.55→0.75


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