↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/107

第105話 残された意味

 何も起きなかった。

 光だけが広がって、消えた。それだけだった。

 そんなはずはない。条件は満たしている。死体がなくてもいい。それがリザレクションだ。俺はそのために習得した。

「……もう一度だ」


「リザレクション」

 光が広がった。

 何も起きなかった。


「リザレクション!!」

 光が広がった。

 何も起きなかった。


「タカオ……もう……」

 エレーナが言いかけた。


「まだだ!!」

 俺は叫んだ。

 もう一度詠唱した。光が出た。消えた。また詠唱した。光が出た。消えた。

 何も起きなかった。


 失敗するはずがない。

 術者と深い関係にある人物限定という条件はある。

 だが、俺とサーク以上の関係などない。

 条件は満たしている。


 それに、死体がなくてもいい。魂さえあれば…


「……魂が……ない?」

 声に出した瞬間、理解が追いつかなかった。

 バーニングソウル。

 その名前の意味を、俺はこの瞬間初めて本当に理解した。

 命を爆発させる魔法。

 命だけじゃない。

 魂ごと、爆発させる魔法だったのか。


 誰も何も言えなかった。

 ウインザーは確かに死んでいた。巨体が廃墟の中に横たわっていた。手下たちは散り散りになっていた。俺たちは勝った。

 だが。

 あいつは——どこに行った?



「……魂さえあれば……」

 声が止まった。

 自分で言って、気がついた。


「……ないのか?」

 誰も答えなかった。

 グレイシャが目を伏せた。

「……多分」

 グレイシャの声が小さかった。

「そんな……」

 ニアが言った。それ以上は続かなかった。


 バーニングソウル。

 その名前の意味を、俺はこの瞬間初めて本当に理解した。

 術者の命を燃やして極大ダメージを与える魔法。

 命だけじゃない。魂ごと燃やし尽くす魔法だった。

 だからリザレクションが発動しない。呼び戻す魂が、どこにもない。


「……あいつは知っていた」

 声に出た。小さかった。

 知っていた。バーニングソウルが魂ごと消滅する魔法だと、知っていた。だからリザレクションでは戻れない。その事実を、知っていた。

 それでも。

「……嘘ついたな」


 直前の会話が頭に戻ってきた。

 俺が訊いた。失敗した場合はどうするんだと。

 サークが答えた。リザレクションがあります、と。死体がなくても復活可能です、と。

 全部分かっていて、言ったのか。


「ふざけるな……」

 拳を握った。

「勝手に決めるなよ……」

 怒りが来た。確かに来た。

 だが続かなかった。

 違う。

 あいつは——。

 俺が止めると分かっていた。だから言わなかった。魂が消えることを言えば、俺は絶対に止めた。そうなれば、ウインザーを倒す手がなくなる。全員が死ぬ可能性があった。

 だからサークは言わなかった。俺に選ばせなかった。

 それでも、やった。


「……サークは、最初から……」

 エレーナが言いかけた。言葉が途切れた。

「覚悟してたのね……」

 グレイシャが静かに言った。目を伏せたままだった。

「……あほやで……ほんま……」

 ニアの声が震えていた。


 あいつは逃げなかった。

 誰よりも現実を見ていた。削りは通らない、レスキューは封じられた、回復量も上回れない、このまま戦えば全滅する。あいつはその事実を最初から最後まで直視していた。

 俺が目を背けたかった部分を、サークは冷静に見ていた。

 そして——。

「……勝ったんだよな」

 声に出した。

「ええ……」

 エレーナが静かに答えた。


 ウインザーの巨体が廃墟に横たわっていた。動かなかった。

 手下たちは消えた。眷属化が解けて、散り散りになった。

 空が静かだった。ドラゴンの影がなかった。

 世界が、静かになっていた。

 全部終わった。

 あいつが終わらせた。


 言葉が出なかった。

 出そうとした。何か言うべきだと思った。でも何も出なかった。

 ニアが俺の隣に来た。何も言わなかった。ただそこにいた。

 エレーナが空を見上げていた。グレイシャが地面を見ていた。

 静かだった。

 静かすぎた。


「……無駄にはしない」

 俺は言った。

「タカオ様……」

 ニアが俺を見た。

「絶対にだ」

 他に言える言葉がなかった。これしかなかった。

 あいつが最後まで最適解を選んだ。俺には出来なかった選択だ。俺が選んでいたら、止めていた。止めて、別の手を探した。そしておそらく、見つからないまま全員が死んでいた。

 サークはそれを分かっていた。だから俺に選ばせなかった。


「……帰るぞ」

 俺は言った。

「どこに?」

 エレーナが訊いた。

「決めないといけないことがある」

 世界は救われた。ウインザーは死んだ。手下は散った。

 でも世界は廃墟のままだ。グリムント王国も、南部都市連合も、バングル王国も、ハイルセンも、シルバムも、壊れたままだ。生き残った人たちがいる。これからどう生きるかを決めないといけない人たちがいる。

 俺にはまだ、やれることがある。

 あいつが命を懸けて残したもの。

 それをどう使うかは——。

 全部、俺に託された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。