第100話 届かない一手
リバイバルを持って臨む戦いは、これまでと違う形になる。
俺はラフルを出る前に、もう一度構成を確認した。
サークのポケットは61。リバイバルは9レベル魔法だ。1回でポケットを9消費する。ニアとエレーナへの付与で前線を維持し、さらに予備を1回分確保する。再付与のためだ。戦闘中に切れたら即座にかけ直す。それで合計36のポケットを使う。フレイムジャベリンは3発分、21消費。足すと57。もう他に魔法はほぼ使えない。
「これで行くか」
「ええ」
サークは静かに答えた。
俺の役割はバフと回復の専念だ。マジカルガードとエレメンタルガード、特に風属性への対策を全員にかける。ウインザーが風魔法を多用することは前回で分かった。残りのポケットはレスキューと蘇生魔法に取っておく。
グレイシャはアシッドスプラッシュ主体で削り担当だ。防御を無視して溶かす。その後にサークのフレイムジャベリンが入る。これが今の俺たちの最大火力だ。
「手下は無視する」
俺は言った。
「ウインザー1点に集中する。手下に構えば削りのペースが乱れる。見えていても、動くな」
エレーナが頷いた。グレイシャも、ニアも、サークも。全員が同じ顔をしていた。覚悟、というより、静かな集中だった。
南部都市連合の廃墟上空に、ウインザーの姿があった。
手下たちが周囲を飛んでいた。指示された担当域を巡回しているのか、それとも俺たちを探しているのか。どちらにしても、今は関係ない。
俺たちはニアの背で高度を保ちながら、射程圏内に入るために角度を取った。
その瞬間、ウインザーが何かをした。
魔法だと分かった。気配があった。だが何の魔法かは分からなかった。詠唱の言葉が聞き取れる距離ではなかった。
俺は記録した。後で考える。今は動くしかない。
「グレイシャ」
「分かってる」
アシッドスプラッシュが放たれた。
ウインザーの胴体に当たった。前回と同じ箇所を狙っていた。鱗が溶けた。確かに溶けた。ジュウという音がした。
「サーク」
「フレイムジャベリン」
炎の槍が溶けた鱗の隙間に刺さった。ウインザーの体が揺れた。ダメージが通っている。確実に削れている。
「ニア、エレーナさん」
2人が動いた。ニアが正面から、エレーナが側面から詰めた。連携というより、それぞれが最短の角度を取った結果として噛み合っていた。
爪が入った。刃が入った。
だがウインザーの皮膚は分厚い。近接攻撃は鱗のある部分ではかすり傷レベルにしかならなかった。溶けた箇所を狙えれば違うが、動きながらでは精度が出ない。
削れてはいる。しかし届いていない。
その差が、俺には分かった。
ウインザーの前肢が動いた。
エレーナへ向かっていた。
「エレーナさん!」
間に合わなかった。
エレーナの体が消えた。正確には、一瞬で原形をなくした。爪一撃の威力が、それだけの規模だということだ。
だが、光が灯った。
リバイバルが発動した。エレーナが、元の姿で地面に降り立った。即死から即復活。狙い通りの動きだった。
「サーク、再付与」
「やっています」
サークがすでにリバイバルをエレーナにかけ直していた。ポケットが削れていく。それは分かっていた。許容範囲のはずだった。
エレーナが体勢を整えながら言った。
「かわせる可能性も見えてきたわ」
声は落ち着いていた。死んで蘇ったのに、慌てた様子が全くなかった。前世で長く生きた人間は、死への向き合い方が違うのかもしれない。
「でも」
エレーナが続けた。
「当たれば即死。それは変わらない」
そうだ。回避できれば生き残れる。だが、当たれば一撃だ。リバイバルは蘇生してくれる。消耗してくれるわけじゃない。
このペースでは追いつかない。リバイバルの回数が切れる。
「エレーナさん、一旦下がって」
俺は言った。
「リバイバルはもう使い切った。サークの火力をウインザーに向ける」
「分かった」
エレーナが後退した。
サークがフレイムジャベリンに集中できるようになった。
ウインザーの体に、傷が積み重なっていた。確かに効いていた。だから続けた。届くと思って続けた。
ウインザーが1歩踏み込んだ。
前回も同じことがあった。目を閉じたまま、正確な1歩。視覚に依存しない感知能力。分かっていた。分かっていても、どうしようもなかった。
だが今回、向いた方向が違った。
エレーナではなかった。
グレイシャだった。
爪が振られた。
「グレイシャ!」
直撃した。
俺は即座に詠唱した。
「レスキュー!」
何も起きなかった。
発動しない。
景色が変わらない。転移が起きない。全員がそのまま空中にいた。
グレイシャの体が落下していった。
俺は追いかけようとした。ニアが急降下した。間に合うか分からなかった。地面が近かった。
なぜ発動しないのか、俺には理解できなかった。
さっき見えた、あの魔法。ウインザーが戦闘開始時に発動した、正体不明のあれが、もしかすれば。
だが、考える時間はなかった。
グレイシャが落ちていく。
俺にできることが、なかった。




