第10話 成長方針と魔法選択
アールストンに戻って二日目の朝、俺はサークと向き合った。
グルックとの出発は明後日だ。それまでに、やっておくべきことを整理したかった。
「今後の戦い方を、一度ちゃんと考えておきたい」
「はい」サークが頷いた。
「テーマは一つだ。限られた資源で何を優先するか」
金もポイントも無限じゃない。何でもかんでも取ろうとすれば、結果的に何も活かせない。優先順位を決めて、そこに集中する方がいい。
特に意識しているのは、加護魔法のレベルだ。今はレベル3。あと一つ上がればレベル4になって、2レベル魔法が解禁される。その時に何を取るか、今から考えておく必要がある。
ギルドの職員に候補を教えてもらっていた。宿に戻ってから、サークと一緒に一つずつ検討した。
まず回復系。ヒーリングプラスという魔法がある。ヒーリングの上位版で、範囲回復ができる。
「便利そうですが」サークが言った。
「でも俺はすでにヒーリングを持ってる。単体回復が範囲になるのは悪くないが、今すぐ必要かというと微妙だな」
後でいい、という結論になった。
次に強化系。ストレングスという魔法だ。対象の筋力と耐久力を上昇させる。さらに、体格が一回り大きくなる効果がある。
「これはどうだ」
サークが少し考えた。
「強化の効果は非常に大きいと思います。ただ……体が大きくなるというのが少し」
「何か問題があるか」
「装備を着ける場合、体のサイズが変わると合わなくなります。鎧や胴当てがあれば、それが破損するか、脱がないといけなくなります」
なるほど、と思った。今のサークは特に装備をつけていないが、今後装備を用意した時には問題になる。
「でも今は装備がないな」
「はい。そういう意味では、今なら使いやすいですね」
「それに、サークが一回り大きくなれば、前衛としての圧力が増す。サモンエレメンタルと組み合わせれば、かなり違う」
優先度は高い。最重要候補として確保することにした。
索敵系のセンスエネミー。敵意を持つ存在を感知する魔法だ。
「サークの気配感知とどう違う?」
「俺のは匂いや音が中心です。これは敵意を直接感じ取るものなので、人込みの中にいる敵には有効かもしれません」
「ただ、今のところ、お前の感知で間に合っている」
「はい。未知の敵には有効ですが、今すぐではないと思います」
後回しにした。
知識系のリードランゲージ。未知の言語を解読できる。加護による言語理解がすでにあるが、それでもカバーできない古代語や特殊な言語に対応できるらしい。
「必要になったら取ればいい」
サークも異論なかった。
対魔法防御のマジカルガード。魔法ダメージを軽減する。
「魔法を使う敵と、まだ戦ったことがないな」
「そうですね。ゴブリンも狼も、物理的な攻撃しかしてきていません」
保留にした。必要になれば話が変わる。
召喚系のガーディアン。術者を守る自動迎撃型の召喚だ。
「サモンエレメンタルと役割が被るな」
「ガーディアンは術者の周囲を守ることに特化していますが、命令で動かせる柔軟性はサモンエレメンタルの方が上だと思います」
「ならサモンエレメンタルを優先する方が合理的だ」
優先度低で確定した。
生活補助系のクリエイトナッツ。食料を生成できる。緊急時には使えるが、今は食料に困っていない。
「後回しでいい」
弱体化系のウィーク。対象の筋力と耐久を下げる。これは敵に使う加護魔法だ。
「強化された敵に当てれば、効果を打ち消せる」
「ゴブリンの中にも、強化された個体がいると聞いたことがあります」サークが言った。「そういう相手には有効かもしれません」
「候補としては残しておく。ただ今すぐじゃない」
整理すると、最優先はストレングスで確定した。次点候補はウィーク。他は状況次第だ。
一時的に毒の抵抗が上がるレジストポイズン。
「効果時間中だけ毒の体制をあげてもな。」
「解毒の魔法は4レベル魔法なので、16レベルにならないと使えないようです。」
これも後回しにした。
現在の所持金を確認した。グルックからの護衛報酬、ゴブリンの討伐報酬を合わせて、70ゴールドを超えている。
ストレングスの習得費用は20ゴールドだ。今すぐ取ろうと思えば取れる。でもレベル4になってからでないと意味がない。今は温存する判断が正しい。
無駄な出費は控える。それだけだ。
話を続けていて、俺は一つ気になっていたことを口にした。
「サーク、炎魔法のレベルが上がっていないな」
サークが少し間を置いた。
「……そうですね」
「光ばかり使っているから、炎の経験が積まれていない」
「ファイアボルトは持っていますが、スリープやサモンエレメンタルが優先になってしまって、使う場面がほとんどないです」
仕組みとして、使わない魔法は育たない。光魔法が主力になっているから、炎魔法の成長が止まっている状態だ。
「炎のレベルはいくつだ」
「2のままです」
ランクは19ある。上限はあるが、まだかなり伸びしろがある。使わないことで、その伸びしろを活かせていない。
炎属性の1レベル魔法で他に習得できるものがあるか、ギルドに再度確認した。
ウォームサークル。周囲を温める魔法で、寒冷地での野営に役立つ。
「今のところ、寒い場所には行っていないな」
「シルバムは鉱山都市ですから、山が近いかもしれませんが」サークが言った。「今すぐは不要だと思います」
カレッジ。攻撃力を上げる代わりに防御力が下がる。
「リスクが高い。サークが前衛で使うには向いていない」
「同感です。防御が下がった状態で近接戦をするのは怖いですね」
アラーム。特定の範囲に侵入した存在を感知する魔法だ。野営の夜に役立つかもしれない。
「これはお前の気配感知で代用できないか」
サークが少し黙った。
「……できます、たぶん。ただ俺が眠っている間は使えない。アラームは設置型なので、俺が休んでいる間も機能します」
「そうか」俺は少し考えた。「群れにいた頃、警戒はどうしていたんだ」
「交代で見張りを立てていました」サークが言った。「俺は弱かったので、見張りの優先順位は低かったですが……自分が眠れない夜は多かったです。何かあった時に、周囲に気づけないのが怖くて」
それは慣れから来た習慣じゃなく、立場から来た習慣だったのか。俺は少し黙ってから、話を戻した。
「アラームは悪くないが、今すぐじゃないな」
フェアリーファイアー。ライトの代替で、照明魔法の一種だ。サークがすでにライトを持っているので不要だ。
「炎の1レベル魔法は、今増やす必要はないな」
「そう思います」サークが頷いた。
ティンダー。可燃物に火をつける。
「火ならわざわざ魔法でつける必要もないな。」
「炎魔法については、無理に新しいものを増やすより、レベルを上げる方向にした方がいい」
「同感です」
「目標はレベル4だ」
「2レベル魔法のフレイムボディーが使えるようになります。
体を炎で覆う魔法で、近接攻撃を受けると攻撃相手に炎ダメージが入る。接近してくる敵へのカウンターになります。」
サークが言った。
「それが取れれば、光一本槍にならなくて済む。炎もちゃんと育てていく価値がある」
「積極的に使う場面を作らないと、レベルは上がりませんね」
「意識して使っていこう。スリープが使いやすい場面でも、ファイアボルトを試す余裕があれば使ってみてくれ」
「わかりました」
全体的な方向性が固まってきた。
サークは光魔法を主軸にしながら、炎魔法も育てていく。光魔法が攻撃と補助の両面で機能していて、炎魔法はそれを補完する形だ。
俺は支援特化をさらに深めていく。今持っているのはヒーリング、ブレス、そしてこれから取るエイドだ。
「エイドをお前に使えば、ポケットが1つ回復する。実質的にお前が動ける回数が増える」
「連戦になった時に、特に有効ですね」
「一度使い切っても、すぐに補充できれば次の戦闘に備えやすい。今の俺たちの一番の弱点は、長期戦や連続戦闘での継戦能力だ。そこを補うのがエイドの役割になる」
自分が前衛に出るより、サークを長く動かし続ける方が全体の効率が上がる。それが今の俺の戦い方だ。
方針が固まったので、ギルドに向かった。
エイドは1レベル魔法なので費用は10ゴールドだ。講師に時間を取ってもらって、一時間ほどで習得できた。
感覚としては、ヒーリングやブレスと似た系統だった。何かを引き出すというより、何かを流し込む感触がある。対象のポケットの中で時間を圧縮するような、少し不思議な感覚だ。
宿に戻ってからサークで試した。
「どうだ」
「……ポケットが1つ回復しています」サークが少し目を細めた。「すぐに魔法の準備ができます。」
「ちゃんと効いている」
「はい。これがあれば、使い切った後でも次の戦闘に備えやすくなります」
パーティーとして、一歩前に進んだ気がした。
これで今できる強化は一通り終わった。
グルックとの合流は明日だ。明後日の朝にアールストンを出て、シルバムへ向かう。
「次はシルバムですね」サークが言った。
「鍛冶屋から荷物を受け取って、ハイルセンへ戻る。その間にまた経験が積める。炎魔法も意識して使ってみてくれ」
「はい」
窓の外でアールストンの夕暮れが広がっていた。
本を開いて現状を確認した。
タカオ
加護魔法 ランク28 レベル3
ポケット 4
習得魔法
レベル1:ヒーリング・ブレス・エイド
各種知識 ランク16
善行ポイント 6.62
サーク
属性魔法(炎) ランク19 レベル2
属性魔法(光) ランク25 レベル4
ポケット 4
習得魔法
レベル1:スリープ・ファイアボルト・サンダー・ライト
レベル2:サモンエレメンタルⅠ
近接戦闘 ランク9 レベル3
鋭敏感覚 レベル5
気配感知 レベル3
善行ポイント 0.55
数字を見ながら、俺は少し息をついた。
出発直後に比べれば、形になってきた。あの時は剣の握り方もわからなくて、棍棒一発で膝をついた。今も強いとは言えないが、やれることの幅は広がっている。
サークも同じだ。スリープだけだったのが、サモンエレメンタルが加わって、エイドで継戦能力も上がった。
「次の段階に向けて動いていける」
独り言のつもりだったが、サークが答えた。
「はい」
短い返事だったが、それで十分だった。
ステータスについては手動で追記




