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よりにもよって王様かよ! 中間管理職のオッサン、勇者と魔王がいる異世界に転生したので、RPG的なお約束にダメ出しする  作者: 枝垂みかん


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物理法則仕事しろよ


 やってきたのは山麓の洞窟ダンジョン。


 今日は王妃たちはおらず、代わりに、勇者ユエニスくんが同行することに。

 言っておくが護衛などではなく、OJT未満のインターンシップ。

 ゆくゆくは城での仕事を任せる予定だから、世界観に合わせると行儀見習いってところか。


「ユエニスくん、城での生活には慣れたかい?」

「はい陛下!」


 ……。保護した小学生が最初に覚えたのが、言葉遣いと余計なことを喋らないという処世術とは、なんとも世知辛い。


 しばらく雑談とも呼べない当たり障りない会話をしていると、


「お待たせしました」


 ペデモント兵士長が出迎えにきた。

 これから彼の案内で、山麓の洞窟ダンジョンを視察する。


「……明るいのだな」

「やや薄暗くはありますが、視界を妨げられるほどではありません」


 驚いたことにダンジョン内は松明などなくても明るい。どうやら、壁面にこびりついた苔が光源となっているようだ。


「この先に隠し部屋があります」

「ほう」

「踏み込むと多数の魔獣が発生する仕掛けとなっておりますので、お気をつけを」

「聞いたな、ユエニスくん」

「……はい」


 ほんのり不服そうだ。やはり勇者なだけあって、バトルジャンキー気質なのだろうか? それとも若さゆえの英雄願望とか?

 なんにせよ、言いつけを守らないほどヤンチャな子ではないようだから、そこは安心していられる。


 隠し部屋前に着くと、待機していた兵士たちが一斉に跪く。


「ここは危険なダンジョンのなか。そういうのはやめにしよう。そうだなぁ……、今後はこうしたらどうだ?」


 オレはうろ覚えの敬礼をしてみせた。ビシッと額に手を当てる、あれだ。

 敬礼擬きを見た途端、兵士たちは同じように。


「「「ハッ!」」」


 壮観壮観。敬礼一つで精強揃いに見えるから不思議だ。


「では、頼む」

「ハッ! 総員、水属性魔法ならびに冷属性魔法を用意!」

「「「応ッ‼︎」」」


 一見すると他と変わらない壁に先行した兵士が触れる。するとパッと壁が消えて、奥に部屋が現れた。

 そしてペデモント兵士長が「三、二、一」と突入のタイミングを合わせ——


「総員突入! 即時魔法連射ッ!」

「「「応ッ‼︎」」」


 隠し部屋へ飛び込んでいく兵士たち。

 入るなり、


「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」

「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」


 あのネイティブ発音が鼻につく水の塊をぶつける魔法を放ちまくる。

 なかには、


「「「〝氷結魔法(フリーズ)〟」」」


 対象を冷やす魔法を使う兵もいた。


「いい判断だ」


 オレの独り言に、そばにいたユエニスくんが首を傾げる。律儀な子だ。


「なんと呼ばれているのかは知らないけど、見るからに火を吐きそうな真っ赤なトカゲの群れだろ」

「あれは火蜥蜴(サラマンダー)ですね。まだ幼体のようですけど、火を吐く危険な魔獣です。あと、触れると火傷します」

「……く、詳しいね」

「陛下のお供をさせていただくにあたり、へベス大臣さまより『事前に学んでおくように』と魔獣の図鑑を渡されましたので」


 そういう便利なものがあるんならオレにも見せてくれればいいものを。


 いまさら気づいたんだが、この子、元から読み書きできたのか怪しい。

 とするとだ、たった一か月と少しのあいだに図鑑をみて名前を読めるくらいには勉強したってことか?


「教会で習ってない単語も多くて、陛下がお気づきのことも載っていたかもしれません」

 

 これはやりづらくなったな。

 教会が教育機関としての役割を果たしているのなら、無闇に潰すわけにはいかない。勇者に限った話だったら気兼ねなく叩けるんだが……。


 ひきつづき兵士たちの奮闘を観察すると、


「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」

「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」


 兵士たちは無数に水の塊をぶつけてベビーサラマンダーの群れをノックバックさせ、一方向的に攻めていた。

 しかし、なにぶん数が多く、他の魔獣の陰に隠れていた個体が反撃の体制を整えてしまったんだ。


 そいつはクワッと縦割れの瞳孔を開くなり、爬虫類らしからぬ尖らせた口——その先から火炎を吐く。

 首を左右に一度二度振り、兵士たちに炎を浴びせかけた。


「ペデモント兵士長!」

「ご心配には及びません!」


 兜から覗く前髪をチリッとさせてはいたが、深刻なダメージを受けた様子はない。

 さんざんぶつけた水弾の飛沫で、兵士たちも濡れていたのが幸いしたようだ。


 なんどか反撃は受けたが、やがて冷やされつづけたサラマンダーの群れは、弱っていき——なんと⁉︎


「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」

「「「〝氷結魔法(フリーズ)〟」」」


 突然、地面から生えた氷柱が数匹を貫いた。

 おそらく二属性魔法が発動したんだ。

 さらにつづけて、


「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」

「「「〝水弾魔法(ワーラー)〟」」」


 突如、ペデモント兵士長が淡い光を帯び、擦り傷や小さな火傷などのダメージが消えた。チリチリになった前髪も元どおり。

 これも二属性魔法に違いない。


 やはり存在したんだな、回復魔法。

 水の塊をぶつける魔法が組み合わさって治癒になるというのが、どういう理屈なのか皆目見当つかないけど。


 こうして兵士たちの奮闘の末に、すべてのベビーサラマンダーを倒した。

 ややあって、魔獣がいなくなった部屋の中央に宝箱が現れる。


「……仕事しろよ物理法則」


 ボルツマン脳じゃあるまいし、なにもないところにいきなり宝箱がドドーンと現れても反応に困るぞ。


「陛下?」

「なんでもないよユエニスくん。さあ、兵士たちの奮闘に対するダンジョンからのご褒美を確かめるとしよう」


 隠し部屋の宝箱なんて、ワクワクしないわけがない。それが第一層のものだとしてもだ。

 さてさて、どんなお宝がでてくるのやら……。


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