ダンジョン基本法を発布せよ!
というわけで、新たに発布したダンジョンに関する法度は以下のとおり——
ダンジョンにおける活動の管理ならびに拾得物に係る課税および当該歳入の使途に関する基本法
一、レガリスレクス王国内に存在するダンジョンへの立ち入りは、当該国国王の認可を受けた組織または団体に限る。
一、ダンジョン内において得たすべての拾得物は、その都度、担当官に申告しなければならない。
一、前項の拾得物の二割を、ダンジョン拾得物税として納めるものとする。
一、ダンジョン拾得物税は、ダンジョン出入口の封鎖、ならびにダンジョン外へ出現した魔獣の討伐その他これに準ずる費用に充てるものとする。
一、王国兵は予告なく認可者に査察を行うことができる。
認可者が査察を拒否した場合、当該団体はもとより、ダンジョン侵入許可を受けたすべての関連団体に対し、国王は懲罰を科すことができる。
——以上が、通称『ダンジョン基本法』である。
法的な根拠として『王国内の物は王様の物』という理屈で成り立った、ご覧のとおりの悪法だ。そこはハッキリと認めよう。
だが、苦情は王国ではなく、唯一の受益者である冒険者組合へ向かう。
きっと組合長は下部の組織からの突き上げと他の勢力からの干渉に晒されるはず。
結果、オレのもとには国民の支持だけが残るというわけだ。
ちなみに、ダンジョン基本法には立法側の抜け穴まで用意してある。認可を受けた時点で手遅れな落とし穴だ。
そして、天下の悪法が運用されてから一か月——
今日は謁見の間に兵士長の一人を招いて、諸々をヒアリング。
「ダンジョンに入る冒険者パーティーのリスト制作に抜かりないな?」
「ハッ!」
いい返事だが、もう少し説明なりなんなりあってもいいと思うぞ。
「ここにいるのはオレと大臣だけだ」
「……はい」
「ペデモント兵士長。陛下は忌憚のない意見を申せと仰せである」
「で、では自分の担当しております山麓の洞窟ダンジョンでの経験をもとに具申します」
ほんのりリラックスして語ってくれたところによると、現時点で冒険者パーティーのランク分けまで済ませていて、第二段階の運用に入っているらしい。
第一段階は冒険者から税を取ること。まずはこちらの定めたルールに従う姿勢に慣れさせる。
そして第二段階は、稼ぎのいい冒険者パーティーに王国兵を同行させる。
「それで、監査についた兵のなかにレベルアップした者はいたか?」
「おりません」
そうか。パワーレベリングできるんじゃないかと期待していたんだけど。
「しかし拾得物の発見方法など学ぶことは多く、それらを、こちらの報告書にまとめて参りました」
大臣伝いに渡された紙束には、ダンジョン攻略に欠かせない重要情報が盛りだくさん。
隠し部屋の見つけ方や、倒したあと貴重な鉱石を残す魔獣の種類などなど。
「査察に兵をつけたときと、そうでないとき、対象の冒険者パーティーの納税額に差はあったか?」
「……も、申し訳ありません! ご指摘の点、直ちに改めてさせます!」
「咎めるつもりはない。報告書を見て言っただけの、ただの思いつきだ」
兵士が査察についてくるというのは、即ちお客さん連れと同義。足手まといがいる時点で見入りは減るだろう。
だが、それを差し引いても見過ごせない差があるのなら、こちらがノウハウを盗もうとしているのがバレているということになる。
このあと別の兵士長も呼び出して、兵たちのレベルアップの様子についても聞いた。
魔法の使用回数が増えたり、攻撃力が増えていたりと成果は着実に現れているそうだ。
以上のヒアリングを勘案して、オレは兵士たちにダンジョン第一層の巡回を命じた。
もちろん少人数パーティーではなく編隊を組んでの制圧を念頭に置いて。
◇
どうやら冒険者組合が内輪揉めしているらしい。
情報源はエリテマソーラ第一王妃だ。
「神殿からの密告か?」
「ええ。冒険者として修行をする神官や巫女もおりますので」
やはりヒーラー的な役割なんだろうか? 個人的な興味は尽きないが、ここは話を進めよう。
「わざわざオレの私室まで知らせにきてくれなくても……」
「あら、妻が夫の私室を訪れてなにか問題があって?」
建国当初から第一王妃だった人物のセリフとは思えないな。考えようによっては、王家の系譜的に曾々々……婆さんにも当たるんだぞ。
「そんな透け透けな夜着姿を見せられるのは、安眠妨害だと言った」
「まあ。いやらしい」
い、いちおう夫婦という関係性だから、いまのはセクハラに当たらないのでは?
性的な意味ではなく社会的な意味でドキリとするから、そういう言い方はぜひともやめてもらいたい。
「やはり、陛下はこなたを怖がらないのですね」
「嫌われない努力はしているつもりだが」
「それで先ほどのお言葉ですか? あれは褒めているつもりでしたの?」
……んなわけあるかい。寝ようとしていたところにきたから、あんまり考えずに喋っただけだ。
だからそうコロコロと笑ってくれるな。
くっそ、暗がりでも肩口の日焼けあとが見えてしまって、目に毒だ。
実際はハイエルフとダークエルフのハーフの証が肌に現れているだけらしいが。だからって普通そんな混じり方をするか?
なんというか、いろんな意味でかえってファンタジー……。おかげて今夜はすぐ寝つけそうにない。
「うふふっ。本音というのは確かのようですね」
「揶揄いたいだけなら後日にしてくれ。明日は久しぶりにダンジョンに行くから朝が早いんだ」
「そんな建前で城を空けて、こんどはどのような悪知恵を仕掛けるのですか?」
「大臣とお喋りしたい冒険者組合の下部組織が山ほどいる。連中、オレがいるとこっそり話もできないそうでな、だから気を遣っただけだ」
話は済んだのに、エリテマソーラは帰ろうとしない。
べ、べつに色っぽい展開なんか期待してないからねっ。
「せっかくだ、レベルアップについて聞かせてくれないか」
「位階の上昇のことを仰っているのです?」
「ああ。それって自覚できるものなのかと思ってな」
兵士からの報告は受けている。だから兵士の場合は自覚できる変化があるんだろう。魔法の使用回数という例もあったくらいだ。
だが、オレには一度もそういう体験がない。
「おそらく陛下の場合、夜も眠れぬほどの痛みを伴うかと」
「え、痛いの?」
成長痛みたいなものだろうか。
「まあ陛下ったら、子供ような反応をして」
「だから——」
「揶揄ってなどおりませんよ。こなたから見れば、陛下は赤子も同然ですので」
こっちから振りづらい話題を。答えに困るぞ。
「じゃあ寝る子は育つってことで。ちゃんと帰るときは灯りを消していってくれよ。油代もバカにならない」
「冒険者から巻きあげた拾得物で国庫は潤っているでしょうに」
「あの税はダンジョン封鎖に使う予算と決めてある。ランプの油代には使えないんだ」
「律儀なのやら型破りなのやら、本当に掴みどころのないお方……」
この言葉を最後に部屋は暗くなる。
音もなくエリテマソーラは去っていった。
そしてオレは悶々とした気分を、度重なる寝返りによって紛らし、なんとか眠りにつくのだった。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
本話の冒頭にありました『ダンジョン基本法』ですが、私のような素人目から見てもヤベェ法律です。
よかったら、どんな罠を仕掛けてあるのか予想してみてください。感想欄に書いてもらえたら嬉しいです。
あっ、でも法文としてのダメ出しはご容赦くださいね。法学部一年生にボッコボコにされるレベルなのは自覚しておりますので……。




