コイツらやっぱり親子だよ
「冒険者のみにダンジョンを開放してくださるというのは、本当でしょうか?」
「言っただろ、魔獣が民に害を及ぼすから封鎖したと。それとも他に話をもっていった方がいいか?」
「とんでもありません。ありがたく受けさせていただきます」
組合長はあっさり提案を呑んだ。
「多くの国民は、冒険者組合の貢献的な姿勢を支持するであろうな。もちろんオレもだ」
「もったいないお言葉」
用が済むとホクホク顔で組合長は帰っていった。
謁見の間はしばしの静けさに包まれ、大臣のため息だけがよく聞こえる。
それともう一つ。
「ハァハァ、ハァハァ……」
おい大臣。オマエの娘、様子がおかしいぞ。小指を噛んでモジモジしてるじゃないか。心なしかオレに向けられる視線も熱っぽい気がするんだが。
「出てきていいぞ」
「は〜い!」
どうにも種明かしが待ちきれないようなので、ざっくりと話のカラクリについて説明した。
組合長に仕掛けたのは出る杭は打たれる。それを利用した策だ。
各勢力が足並みを揃えて王国を蝕むからこそ対処に困っていたわけで、逆をいえば、抜け駆けしようとした勢力があれば他が叩く状況にもっていける。
「ふーん。つまりヘーカは、冒険者組合の『自分たちだけ得したい』っていう下心を利用したってこと?」
「ああ。組合長は得した気分になって、王国のダンジョン封鎖を認めただろ」
ここまで話しておけば、プエルラーレからマギアレフィカとエリテマソーラのルートで、各勢力に意図を汲んだ情報を広めてくれるだろう。
「ヘーカは、みんなに『王国と冒険者組合はグル』だって思わせたいんだね〜。えっぐーい」
「だろ」
欲を言えば、教会には上手いこと『冒険者組合がオレを唆した元凶』と伝わったら最高なんだが、これは高望みしすぎか。
「あそこは下部組織が多いので。ロクなことにはならないでしょうな」
「具体的にはどんなものがある?」
大臣曰く、武術家集団の流派がいくつもあり、盗賊ギルドや傭兵ギルドなども下部組織なのだそうだ。
「冒険者組合は国境を越えた組織ですので、地域の組織は軒並み各国の支部に組み込まれてしまいます」
「っていっても、上が勝手に稼ぎ口を減らしたら下は怒るよね〜」
なんだか仁義なき戦いでも起こりそうな不穏さだが、そうはさせない。
「孤立させたところを個別に対処する」
「組合長は外からも内からも責められちゃうわけか〜。ヘーカひどーい」
「バカを言うな。一番の悪党は大臣だぞ」
「てへへ、そっかぁ。パパ、ヘーカが留守のあいだにいろんな人と会ってたもんねー」
オレがダンジョンに行っているあいだ、オレと教会との揉め事を聞きつけた各勢力の代表は、足繁く大臣のところへ通ったそうだ。
そうなるように城を空けていたのもあるが。
おかげで役に立つ情報がたくさん手に入った。
さっきの冒険者組合の思惑もそうだし、軽口や悪口、なにを探りたいのか、などなどだ。
「ひきつづき大臣には、オレに対して否定的な態度をとってもらわないとだな」
「では、ここぞというときに口答えでもしましょうか」
「整合性が取れる範囲でなら、ありだな。あとで謀っていたと難癖つけられない加減で頼む」
「お任せを」
王国により封鎖されたダンジョンに入れるのは冒険者組合の者だけ。この不公平がどれほどの軋轢を生むのか、見物だ。
「ああ〜楽しい! ホントのホントにエリテマソーラお姉さまの言ってたとおりになった〜」
いちおう大臣をチラ見しておいたが、関与している様子ではなかった。
プエルラーレも、その口ぶりから判断して、オレと王様の入れ替えについては聞かされていただけらしい。
「教会を真っ向否定したのもカッコよかったけど〜、いろんな勢力を揉めさせようとするズルいところなんて、見ててキュンキュンとまんな〜い」
おい大臣、また娘の奇行がはじまったぞ。
そんな踊るみたいにクルンクルン回ったらスカートが捲れて——やはり大胆ッ。
おおっとオレは見てはいないぞ。見えただけだ。
「これプエルラーレやめなさい。はしたない」
「パパわかってなーい」
と、大臣を黙らせたのちに語った話は、オレが前提にしていたモノをひっくり返すインパクトだった。
「いーい、勇者制度っていうのはめちゃくちゃ合理的なんだからっ」
てっきり経験値の集約と教会の権威のための装置かと思っていたが、それでは理解が足りないそうだ。
「そもそも魔王は、猪豚人とか蜥蜴人とか、牛巨人とか、あたしたちと敵対してる種族をまとめたわけで〜、それってめちゃくちゃ脅威なわけじゃーん」
たしかに。そんな連中と国境を接していたら気が気じゃないな。
「でも、うちもだけど、どの国も援軍を送ったりしたくないわけでー。そこで!」
「勇者制度か」
「大正解! 毎月五人くらいの勇者パーティーを送っとけば『うちは加勢はしてますよ』って態度できるし、犠牲者は年間六十人程度で済んじゃう。ほら、すっごく合理的」
言われてみれば、援軍を送るのは越境や兵站を考えると王様にとって頭の痛い問題だろう。
かといって対外的には見捨てるわけにもいかない。
このくらい元サラリーマンのオレでも想像つく。
当事国は緩衝地帯の役割を果たしてくれているのだから、少なくとも協力の姿勢は見せておくべきだし、現状維持をしてもらわないと次に困るのはこちらとなる。
それらすべてを解決できるのが、勇者制度というわけか。
送られた少年少女は殉死という尊い犠牲となるのだから、なおさら体裁がいい……ハァ。
「たしかに合理的だな」
「ですが、それを否定されたの陛下ですぞ」
「そーそー。しかも理由が『こんな子供に世界の命運を託すなんて情けない!』っていうのが、めっちゃヘーカって感じ。あたしああゆうの大好き〜」
プエルラーレの好感度は置いておくとして、勇者制度は、限りなく幸福の最大公約数近い制度なのは認めよう。
ただし、多くの国民が実情を知らなければという前提があってはじめて成立するまやかし的な側面もある。
少数の犠牲のうえに人知れず成り立つ平穏か。似たような例は、現代社会でも枚挙に暇がないだろうな。
「合理的なのは認めるが、勇者制度なんて最悪の必要経費だ。だからオレは認めない」
「きゃあ〜ん! そういう言い方しちゃうヘーカたまんな〜い。ねぇねぇヘーカぁ。勇者はね、どの国も同じ人数だけ送り出す決まりなんだよ〜」
ニッコリと、プエルラーレはオレの聞きたいことを先回りした。
「人類の国家間は相互主義ってことか。勇者が自由に他国に渡れるのも——」
「陛下の許可証があってですな」
コイツら……。やっぱり親子だよ。父娘揃ってオレに邪魔者を追放させる腹づもりだ。
「目障りな者をまとめて勇者にして送り出すってアイディアなら、却下だ」
「ええ〜っ。ヘーカなら言いそうなのに〜」
ひとをなんだと思ってるんだ、まったく。
素行の良くない連中を外国に行かせた国の末路なんて、知れている。魔王どころか世界を敵に回しかねない愚策だ。
「とにかく、教会のアキレス腱はよくわかった。勇者制度があるからこその権威だってことも、それを各国の王が認めざるを得ない理由もな」
だったら王国で、レベル九九のオッサン集団を編成して解決に向かわせればいいだけの話だ。
いまのはちょっと極端な例だったかもしれないが、ダンジョンさえ押さえておけば、そう遠くない未来に似たようなことはできるはず。
冒険者諸君には、その手伝いをしてもらおうじゃないか。
これまで迷惑かけたぶんを社会貢献で贖ってもらうというのだから、悪くない案だ。




