囲んでタコ殴りでいいんだよ
廃墟の地下ダンジョンから、猪豚種ゾンビと蜥蜴人スケルトンの群れが這い出てきた。
見たまま、直立二足歩行する猪豚のゾンビと蜥蜴の骨の組み合わせだ。
「放てーッ!」
「「「〝火球魔法〟」」」
「「「〝火球魔法〟」」」
兵士長の号令に応じ、兵士の数だけ火の玉は放たれた。
一つ一つは致命的なダメージを与えない。だが、数が物を言う。
包囲された魔獣たちは反撃に移れず、ただ魔法攻撃を耐えつづけるのみ。
そしてプスプスと焦げ跡だらけになったところへ、新魔法。その効果は——
「「「〝着火魔法〟」」」
燻っていた焦げ目がゴウッと激しく燃えあがり、みるみるうちに魔獣は火ダルマ。
それが一匹から魔獣の群れに広がっていく。
なんとなく、超能力バトル映画で見た人体発火のシーンを思い出した。
「総員、かかれーッ‼︎」
トドメはメイスによる打撃。
ボカスカ一匹に対して四方八方から渾身の一撃を食らわせていくと、やがて魔獣の群れはサラサラと砂になって消え去った。
「この戦術は陛下のお考えで?」
「エリテマソーラ。後ろに下がっているように言っただろう」
もう済みましたと言わんがばかりの澄まし顔で、答えを催促してきた。
「こんなもの戦術と呼べるほどのものじゃないだろ。兵の数に任せて、囲んでタコ殴りしてるだけなんだから」
「あら。こなたは、陛下が火属性と水属性を同時に使わないよう指示されたと耳にしましたよ」
よく聞こえそうな耳をしてるもんな。
ただ、わざわざ知ってることを確かめるところにこの話の本意がありそうだ。
「濡れたら燃えづらい。それだけの理由だが」
「まあ……。はじめから二属性魔法を狙ったわけではないと?」
なんだよ二属性魔法って。
「初級魔法は単一属性の火と水。中級が天と地の単一属性魔法」
「こないだマギアレフィカ第二王妃が使っていた棘で拘束する魔法だな」
「『荊棘魔法』のことですね。そのとおりです。そして光と闇の単一属性と二属魔法は上級となります」
「ずいぶんと大雑把な分け方なんだな」
「と仰いますと?」
「中級を掛け合わせても初期を掛け合わせても同じ上級なんだろ」
「それだけ二属性魔法の難易度が高いとは考えられませんか」
わかりやすい解説だったし、上級魔法の先がありそうな設定に興味を引かれるが、それを訊ねると話が逸れてしまう。
それに、ここまでを聞いて思い当たる節もあった。
「もしかして、最後の方に燃えあがったのは——」
「火と熱の二属性魔法『大炎上』ですよ」
「……さっき高難易度と言ったよな」
「ええ」
「魔力とか位階の高さではなく?」
「ふふっ」
この笑みが答えだ。きっとタイミングなり魔法の加減がシビアなんだ。
そして、囲んでタコ殴りという俺の案は、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる的な結果をもたらしたと。そういうことなんだろう。
「兵士という職業も関係しているのかもしれない……」
あり得ない話じゃないはず。
というのも、兵士はすでに何度かレベルアップを果たしていると報告を受けているが、王様のオレは一回もレベルアップしていないんだ。
これには、そもそもの討伐数に差がある点を差し引いても、職業による違いという原因が考えられる。
みんな同じ努力をして同じ結果になる方が不気味なので、あながち的外れな推測でもないだろう。
「もっと陛下とダンジョンの視察をしていたいところですけれど……」
城からの迎えがきたか。
どの客かは、心当たりがありすぎて困るな。
◇
旅、というほどの遠出はしていないが旅の垢を物理的に落とし、精神的な疲労はそのままに王様の衣に着替えた。
そして私室で大臣からゴニョゴニョ耳打ちされたあと、すぐ謁見の間へ。
オレが玉座に腰掛けなり、
「陛下、ご説明願えますかな」
跪いていたオッサンが口を開く。
せめてご機嫌を伺うくらいすればいいものを。
とはいえコイツの用件は大臣からすでに聞いているので、挨拶の手間が省けた思っておこう。
それに、これくらいケンカ腰で来てもらった方がこちらとしても気兼ねなくやれるというもの。
「村が襲われないと冒険者の稼ぎが減って困るか? どうなんだ組合長」
「ダ、ダンジョン内での稼ぎも封鎖によって失われておりますぞ」
都合の悪いことは聞き流し、さっそく手前勝手な要望に繋げようとしてきた。
「どうして王国がダンジョンを封鎖せざるを得なかったのか、それがわからないようでは話にならないな」
「冒険者は少人数のパーティー行動ですので、ダンジョンから這い出る魔獣のすべてを討伐するというのは難しく……」
「違うだろ。冒険者組合は組織的に、浅い層の魔獣を見逃してきたんだ。組合長、嘘はよくないぞ」
ほんのジャブのつもりで当てずっぽうを言ってみたら、クリティカルだったらしい。みるみる顔色が変わった。
「い、いえ、そのぉ、冒険者たちも稼がねばなりませんので。一つのパーティーがダンジョンに留まれる時間には限りがありまして……」
「持ち込める荷物の関係か」
「はい! そのとおりです陛下」
冒険者の事情は聞くべき点もあるが、だからって浅い層の魔獣がダンジョンから外へ出てしまったら村々に被害が出る。襲われた側はたまったものじゃない。
「で」
「で、と申しますと?」
「オマエは魔獣被害の解決策を持ってきたうえで、オレに説明しろと詰め寄ったんだよな」
「そ、それは……」
組合長はチラリと大臣の方へ助け舟を求めた。
だが大臣は目を合わさない。
残念だったな。これまではそれでどうにかなっていたのだろう。
事を荒立てたくない大臣と、なんにもしない王様が相手なら、強気にでるだけで主張を通せたのかもしれない。
だが、諦めろ。ここにいるのは権力を傘にきて不条理に正論をぶつけたがる王と、謁見の間かかるカーテンに隠れてキラキラ期待の眼差しを向ける末娘に応えたい父親のコンビだ。
というか、プエルラーレはいつの間にそんなところいたんだよ。
「いいか、よく聞け。国民の生命と財産を守るのが王様の義務だ。もしそれを妨げようとするなら——」
「ゴホンッ」
いいところで大臣の咳払いで止められてしまった。
まだ正面切って対立するのは早いってことか。
ならば、悪い未来予想図をチラつかせるまで。
「国民に言いふらすぞ」
「……は?」
「立札にはこう書く『優しい王様が国民のためにダンジョンから魔獣が出てこないようにしたら、冒険者たちは、村が襲われないと依頼料を稼げないのでダンジョンを解放しろと迫ってきた』とな」
「——な⁉︎」
こんなものを広めたらどうなるのか、組合長はキチンと想像できているか?
ここは一つわかりやすい例を挙げてやろう。
「きっと魔獣退治のあと、村の者らは娘をあてがって冒険者を接待するだろうな」
「え? ……と言いますと」
「なんだわからんのか? 酔っぱらわせて寝首を掻くために決まってるじゃないか。それにな、王都や街で働く者にも村からの出稼ぎは少なくない」
なかには村を魔獣に襲われ、泣く泣く故郷を離れた人だっているのだろう。
もし、これまでの被害の原因が冒険者組合にあり、さらには駆除の依頼料まで踏んだくられるマッチポンプだったと知ったら、以降、冒険者に安全な場所はなくなる。
どれだけ魔獣退治できる実力者であっても、無防備な瞬間は必ずあるのだから。
「べつにハニートラップだけとは限らない。店屋で出される食事、商店で買った食品や薬、口にするモノはなんでも気をつけなくてはならなくなるぞ。さらには——」
「ももも、もう結構でございます!」
なんだギブアップか。せっかく乗ってきたのに。
「そ、それでは私はこのあたりで」
「待て。オレの話が終わってないぞ」
「……は、はあ」
さて、これから一つの提案をさせてもらう。
これ幸いと食いつけば、知らず知らず冒険者組合は教会からの防波堤になってしまう猛毒でもある。損して得とれをしたつもりが、うっかり大損ブッこくような甘美な罠だ。
くっくっくっ。オマエに拒めるか、組合長。
……なぁんて、ちょっと調子に乗りすぎか。そのあたりはご愛嬌ってことで。




