いきなりネタバラシかよ
山麓の洞窟ダンジョンに行った翌日——
オレらは、廃墟の地下ダンジョンにきていた。
今日も今日とて同行者がいる。第一王妃のエリテマソーラだ。
特徴的なとんがり耳からして、彼女はいろいろと詳しそうだ。
ここは根掘り葉掘り尋ねておきたいところだが、まず先に確かめておくべきことがある。
「エリテマソーラは、最近のオレをどう思う」
「あら、無粋な仰りようですこと」
茶化された。まるで子供を遇らうみたいに。
それも想定年齢からして、おかしな話ではない。見た目年齢とのギャップが気になる。だが、いくつか聞いたりなどしないぞ。間違いなく地雷を踏むことになるからな。
こういうオレの心の内まで読み取ったような笑みを浮かべ、エリテマソーラ第一王妃は「マギアレフィカはなんと?」と聞いてきた。
「心を入れ替えたと言っていた」
「ありのままを伝えてしまう方が、疑念を抱かれずに済みます。マギアレフィカは陛下がなされたのと同じことをしたのですね」
「言葉足らずなところまで共通しているとでも言いだけだな」
「まあ」
コロコロと笑って、この件はお終いとされてしまった。
よくよく我が身に置き換えて考えてみると——などと王様に憑依転生したオレが言ったら語弊があるけど、
『ある日を境に親しい人物の性格が変わった』
こんなこと、そう珍しいことでもない。
急に連絡が取れなくなるヤツもいれば、なにかに取り憑かれたように悪い道へ進むヤツもいるし、良い方向に行くヤツだって。
こういうとき周りは憑依を疑うだろうか?
逆さま四つん這いで人を襲うなどの奇行があれば悪魔憑きを疑われるかもしれないが、普通なら、
『なんかの影響を受けたんだな』
で済ます。
よっぽど社会活動に支障をきたすようなことでもない限りは、家族でもそっとしておくだろう。
少なくとも俺なら目を離さないが干渉はしないはず。
この前提に立てば『憑依転生がバレたらどうしよう』とビクビクする方が、かえって怪しく映りかねない。
「長く生きていると人の変化に大らかになれるものだもんな」
「……は?」
いかん。ホッとした拍子に失言をしてしまった。
「——オ、オレの話だぞ。それに若さとは寿命と比べて相対的に決めるものだ」
「……つづきを」
「平均寿命が五十歳の時代なら三十代でも若くは思われないが、多くが百歳まで生きる社会なら三十代はまだまだ若いとされる。そういうことだ」
「へえ。としますと、こなたはまだまだ小娘となりますね」
見た目は小娘ではなく、二十代中盤なんだが。
エリテマソーラは派手めな女性だ。夏のバカンス帰りみたいな肌色をしてるから、なおさら海外インフルエンサーみたいな印象を覚える。
「たぶんダークエルフはみんな長生きなんだろ。だったら単純な年齢を人類の寿命と比較するのではなく、そちらを目安にするべきだ」
「こなたはダークエルフではありませんよ」
違うの⁉︎
「正しくは、ハイエルフとダークエルフのハーフです」
これまたスゴイ組み合わせだな。
オレのファンタジーディクショナリーどおりならば、それって高位なエルフと邪悪なエルフの掛け合わせなのでは……。
この疑問にエリテマソーラは、
「ご覧くださいな」
胸許を開いて応えた。
「ひ、日焼け跡みたいだな」
「ちゃんとご覧になってくださいまし」
チラッと見たからもういいだろ。
「ここまでこなたの肌を晒したのは、陛下が初めてかもしれませんね」
「……というと?」
「近ごろの陛下は忘れっぽいようなので教えて差し上げます。先代も先々代も、それより以前の建国当時から、どの王もこなたに触れてはおりません」
エリテマソーラの爆弾発言。
王様は混乱した。
待て待て待て。ってことはコイツ——
「こなたは飽き飽きしているのです。この、緩やかに蝕まれていく王国に」
やっぱりか。コイツが黒幕——テンプレ異世界転生モノなら主人公を異世界に送る神様役だ。
「……オレを呼んだのは、オマエか?」
「うふふっ。さぁあ、どうなのでしょう。けれど、マギアレフィカの言に偽りはありませんよ」
「オマエらがオレと王様を入れ替えたのか。大臣は知っているのか? プエルラーレは?」
「それを知って陛下はどうなさるのです」
言われてみれば、そのとおりだ。
こちらの意思と関係なく魂だか心だかを入れ替えてしまえる相手に、抗いようなんてないもんな。
「ましてや陛下は『王様として生きるのも楽しい』とお思いなのでしょう」
この問いを選択肢にすると——
元の生活に戻りたいですか?
はい
→いいえ
オレは『いいえ』を選ぶ。もしかすると、こういう選択をする人間性まで見越しての人選だったのかもしれない。
「いきなりネタバラシかよ。普通こういうのって最後の最後にやるもんだろ」
「陛下が隠そうとなされれば、こなたもそのようにしましたよ」
どうやら、先に様式美を崩したのはオレらしい。
といった具合に、なんとなく話のオチがついたところへ——
「ご、ご歓談中、もも申し訳ございません!」
兵士長が上擦った声で報せにきた。
マギアレフィカ第二王妃のときは緊張していた程度だったのに。それほどまでにエリテマソーラ第一王妃が怖いのか。
「魔獣だな」
「は、はい!」
「構成を」
「失礼しました! 猪豚人ゾンビが三体、蜥蜴人スケルトンが三体です!」
オークもリザードマンも亜人種だったはず。
「あら陛下、いかがなされました?」
「いや、魔獣の定義が曖昧だと思ってな」
「たとえ人型であっても人語を解せたとしても、ダンジョンより生じた偽りの存在を、魔を帯びた獣——魔獣と呼びます」
なるほど。わかりやすい説明だ。
しかし、このままだと兵士らがエリテマソーラに怯えて捗らない。
だからオレは「王妃は危ないから後ろへ」と下がらせた。
これに、兵士長が不思議そうに首を傾げたのは、つまりハイエルフとダークエルフのハーフはそれほどの実力者ということなんだろう。
だったらなおさら手を出してもらっては困る。
魔獣退治は害獣駆使の側面もあるが、経験値稼ぎも大きな目的なのだから。
「兵士長。これまでどおり、魔獣がダンジョンから出てきたところを火の玉の魔法で一斉攻撃しろ」
「進言します。兵士のなかには、位階上昇に伴い熱属性の魔法を覚えた者が複数おります」
「ほう。それはアンデッドに効きそうだな」
「はい。非常に有効でした」
「ならば火と熱の魔法で焼き尽くしてやれ。あと、スケルトンの方は槍ではなく」
「メイスを用意してあります!」
「よろしい。ではかかれ」
「「「ハッ」」」
さてさて、レベルアップした兵士たちの成長ぶりを拝見せてもらおうか。




