もうオマエが魔王を倒してこいよ
レガリスレクス王国にはダンジョンが三つある。
一つは、山麓からつづく洞窟。
一つは、海岸近くの塔。
一つは、廃墟の地下。
どれも、いつ誰がなんの目的で作ったのか不明な古い時代の遺物とのこと。
そしてオレらは、そのうちの一つ、山麓のダンジョンに来ていた。
命令どおり、どのダンジョンも出入り口は防柵で囲われ、外側には王国兵たちが待機しているのだ。
兵士たちがなにを待っているのかと言えば——
「陛下、きました。巨大一角兎が一匹です!」
ダンジョンから出てくる魔獣だ。
「よし。では諸君らのお手並み拝見といこう」
すでに策は授けてある。
平たく言ってしまうと『囲んでボコってしまえ』という非情な作戦だ。
「魔獣が現れた! 放てッ‼︎」
「「「火球」」」
無数の火の玉が飛んでいき、デカい兎モンスターの毛皮を焦がしていく。
魔法が使えない者、または魔力切れした者は、投石で攻撃。なにかしておくだけで少しでも経験値が得られるかもしれないからな。
ポイポイ投げられる石とビュンビュン飛んでいく火の玉によって、ジャイアントアルミラージはだいぶ弱った。
「よし、トドメだ!」
「「「応ッ‼︎」」」
あとは一斉に槍で突いて突いて討伐完了。
倒した魔獣はといえば、サラサラと砂みたいになって消えていった。
「見たところ危なげなく事を済ませているようだが、なにか問題はないか?」
「「「ありません!」」」
ノータイムで即答か。本当に大丈夫かどうか怪しいな。
「それにしても、魔獣はダンジョンから出たあと、戻ろうとはしないんだな」
逃げようとはしていたが、最後までダンジョンに引き返すことはなかった。
「陛下は面白いところに目をつけられるのですね」
オレの独り言に応えたのは、マギアレフィカ第二王妃だ。なんと彼女、魔道士結社の元主席導師という経歴をもつ才媛。
といっても、オレはどういう組織のどんな役職なのか聞いてないので、響きだけでスゴさを判断するしかないんだが。
このあたりは追々確認ということで……。
でだ、どうして王妃ともあろう者がダンジョンくんだりまで来ているのかと言えば、それが魔道士結社への口利きの条件だったから。
あと、か弱いオレの護衛という側面もあるらしい。これはプエルラーレ第三王妃の言。辛辣。
「アウトレンジからボコボコにできるなら、兵士たちも安全かと思ったのだ」
「なんとお優しい」
まったく感情のこもっていない声音。
一昔前の読み上げソフトと比べても、まだあっちの方が情緒豊かだと思えるほど平坦な口調。
「一つ教えてほしいんだが」
「魔法のことでしょうか?」
「違う。それは別の機会にとっておくとして、オレのことを聞きたい」
「大臣から陛下についてどのように説明され、どう認識しているのか、という問いですね」
ズバッと話してくれるのは手間が省けて助かる。
こっちとしても下手な話の振りはできないデリケートな内容だからな。
「心を入れ替えたのだと、わたくしは理解しております」
ん? なんか含みがあるような……。
「おそらくは入れ替わったのでしょう。ですので、陛下は気に病むことはありません」
「ふむ。入れ替わった、か……」
もしもオレが乗り移ったのと同じことが王様にも起きていたら、
『ある日、うちの課長が異世界の王様になった件』
というサブストーリーが現代社会で繰り広げられているわけか。
日本の正規雇用に対する労基の防御力はガチガチだからな。やる気のない王様が中身でも、窓際にいれば食いっぱぐれることはないだろう。
「そのような理解だと助かる。だが、どうしてマギアレフィカ第二王妃がそういう発想になるのか——」
「なんと他人行儀な。マギアレフィカとお呼びください」
どうやら彼女はこの件について、これ以上話すつもりはないようだ。
「陛下!」
タイミングを見計らったかのように、ダンジョンから斥候が駆け出てきた。
「群れです。一角兎が四、小型大鷲馬が八。合計十二匹です!」
「大漁だな。オレも加わるぞ」
「「「……え」」」
そんな不安そうな目で見るなって!
王様だって魔法くらい使えるんだぞ。初歩も初歩なショボショボ魔法だけど。
ここに来るまでくるあいだにマギアレフィカに、火属性の初級魔法を教えてもらっていたのだ。
「火力は少しでも多い方がいい。タイミングは兵士長、任せた!」
「ハッ!」
ビシッと敬礼した兵士長は、兵士たちにキビキビと指示を出していく。
「今回は魔獣が多い。魔法を使えるのもは全員出し惜しみするな!」
「「「応ッ‼︎」」」
士気は上々。
そして魔獣の群れが飛び出してきた。
「——今! 放て!」
号令に合わせ、
「「「火球魔法」」」
オレも火の玉の魔法を放った。
魔獣はゴチャッと固まっているから外すことはない。当たるなりゴウッと焦げ跡を残して消えるが、ダメージは残せた。
だが、一つ気になる行動がある……。
「「「火球魔法」」」
ゴウゥゥゥゥッ。
「「「水弾魔法」」」
パシャ、ジュッ。
これだ。これが気になってしかたない。
「どんどん放てーッ!」
「「「火球魔法」」」
ゴウゥゥッ。
「「「水弾魔法」」」
パシャ、ジュッ。
ネイティブっぽい発音にもイラつくが、それよりなにより——
「「「火球魔法」」」
「「「水弾魔法」」」
ゴウッ、ジュッ……。
「おいオマエらそれやめろ‼︎」
「え、えええ⁉︎」
「火を消してやってどうする! しかも濡らすと次から火の玉が効きづらくなってしまうだろ!」
こんなこと言われなくても実生活から想像つくだろうが。
そうこうしてる間に、レッサーピポグリフが空へ逃げようとしているじゃないか。
「足止めをすればよろしいのですね」
「マギアレフィカ?」
「〝荊棘魔法〟」
——ふぉ‼︎
スゴイぞ。いきなり地面から荊の蔓が生えて、ピポグリフの馬足に絡みついた。
「い、いまだ! 第二王妃殿下の足止め魔法が効いているあいだに、総員、かかれーッ‼︎」
「「「うぉおおおおーッ‼︎」」」
兵士たちは槍を持ち、身動き取れない魔獣に殺到。よってたかって袋叩き。
……ちょ、ちょっと偏りすぎじゃないか、この世界の実力差。
小柄な魔女っ娘が、その細腕で放った魔法一つで大鷲と馬を合わせたモンスター八匹を同時に拘束してしまうだなんて。いくらなんでもだ。
小型とされたピポグリフだが、オッサン連中が槍でしこたま叩きまくってもまだ仕留め切れない生命力なんだぞ。
「わたくし、これでもいちおう元主席導師でしたので」
そういえば、なにやら強そうな前歴だったな。
マギアレフィカ第二王妃は『もうオマエが魔王を倒してこいよ』ってレベルの実力者らしい。
もしくは、王国の兵が他と比べて弱すぎるという可能性もあるが……。にしたってだ。




