ダンジョンを封鎖せよ!
「あっ。パパきてたんだぁ」
声の方を向くと、なんとそこには甘ギャルがいた。
パステルカラーに花柄やレースやフリル、これでもかとガーリーな要素がてんこ盛り。
かと思えば、小柄ながらメリハリの利いたボディラインを強調するドレス姿。
たしか十年くらい前に流行った、あざとい系のギャルスタイルだ。
ちょっと詳しすぎて我ながらキモいが、そんなことはさておき、ここは王様の私室で入ってこられる者は限られている。
さらに大臣を『パパ』と呼んだってことは……。
マジかぁ。この世界の遺伝子ってぜんぜん仕事しないんだな。あとファンタジー感も仕事しろ。
「珍しい。ヘーカが働いてる〜」
「これプエルラーレ。お前はいつになったらまともな言葉遣いを覚えるのだ」
「いいじゃんべつに〜。あたし第三王妃だからあんまし公式の場に出ないんだし。ねーヘーカぁ」
そんなまん丸お目めで同意を求めないでくれ。
っていうか、このコが第三王妃……。
「プ、プエルラーレ。悪いが、今は大臣と大事な話をしている。急ぎでないならあとにしてほしい」
「……ふえ?」
「ああ、言い方がキツかったか。邪険にしてるとかそういう意図はないんだ」
「……うん」
大臣、そうとう甘やかして育てたんだな。見た目の年齢より遥かに仕草が幼い。
「でー、どんなお話?」
帰らないんかーい。
「これプエルラーレ、いい加減にしなさい」
「は? あたし第三王妃だし。パパより偉いんだけど」
なるほど。子供っぽくしてるのは演技、というよこのコのあざとさだ。
「あーッ‼︎ もしかして、また王妃を増やす相談してるんでしょ!」
「違うが。しかしどうしてそんなことで怒るのだ。これまで陛下のことなど気にもしていなかっただろうに」
「パパには内緒〜」
大臣も大臣で、末娘に強くは言えないらしい。
この状況、上手く使えないだろうか?
まだオレはプエルラーレの性格も好き嫌いも知らない。下手をするとオレという存在を怪しまれる可能性だってある。
だがもし彼女を乗せられた場合、大臣を動かせるかもしれない。
せっかくだ、どう切り出したものかと悩んでいたアイディアをぶつけてみるか。
「実は、大臣とダンジョンについて話していたんだ」
「ダンジョン⁇ ヘーカ、そんなのに興味あったんだー」
「まぁな。で、オレはスゴイことを考えた」
「えーなになに〜?」
「王国軍でダンジョンを封鎖するのはどうかと。なんなら軍で攻略してしまうのもありか、とな」
さぁて、プエルラーレの反応はどっちだ?
口をパクパク唖然とする大臣から察するに——
「スゴイスゴーイ!」
いけた。
「よくわかんないけどぉ、魔獣を閉じ込めちゃえば村とかの被害を抑えられるわけじゃーん。それってめっちゃイイこと! しかも弱々な兵士たちも経験値稼げるし、ダンジョンの宝物で王国のお財布事情も潤って、いろいろお得ぅ。ヘーカってば冴えてる〜」
このコ、アホなフリして実はバッチリ要点を押さえてないか。
大臣も相当な狸ジジイだと思ったが、プエルラーレもプエルラーレで……。そういや、どことなく垂れ目が似てなくもない気がしてきたぞ。
「いいじゃんパパやりなよ〜」
「待て待て、待つのだ。つい先ほど大司教を怒らせたばかり。そのうえに冒険者組合まで敵にまわすようなことをしてどうする! あそこは下部組織も多いのだぞ」
「ええー、あたし難しいことわかんないけどぉ、そもそも冒険者が『計画的に魔獣を狩らない』から被害出てるわけでしょ。なら、文句言われる筋合いなくなーい」
ド正論だ。というか、オレよりわかってるじゃないか。冒険者に対する皮肉まで混ぜてるきたくらいだ。
ここまでを聞いて、なんとなく察せた。
大臣は、愚鈍な王様のそばに擬態できる賢い娘を置くことで、王への余計な吹き込みなどを防いできたのだと。
「とりあえず商工連盟は問題ないとして、魔道士結社と神殿だけ気をつかっておけば、平気なはず〜」
「……ハァ。プエルラーレの聡明さは相変わらずなのだな。だが、どうしてそこまで積極的なのだ?」
「え〜っ。それ聞いちゃ〜う。だってだってー」
つづくプエルラーレ第三王妃の言葉は、予想を大きく裏切るもので——
「だって大司教を詰めてるときのヘーカ……、ものすっごくカッコよかったんだも〜ん。いやんいやん言っちゃった〜」
オレは身悶えさせる破壊力。
——はッ、はぁわわわわッ、あ、あれを見られていたのか‼︎
王様役になりきって権力者を論破するという構造は、オッサンの密かな願望そのもの。
あんな場面を見られていたなんて、くぅううう、ノリノリだっただけに、このうえなく恥ずかしいッ‼︎
「す、すまんがあれは忘れてくれ。ちょっとした気の迷いだったんだ」
「んーん、ゼッタイ忘れなーい。ねーヘーカ、次は冒険者組合の組合長を論破しちゃう? それとも商工連盟の総裁を言いくるの?」
「……な、なぁ大臣。オマエの娘、頭ヤバいぞ」
「玉座の間で同じことを陛下にも感じました」
「も〜、あたしの悪口言ってー。そんなことしてると、エリテマソーラお姉さまとマギアレフィカお姉さまに口添えのお願いしてあげないんだからねっ」
また新キャラか。どういう関係者かはだいたい想像つくけど。
「ふむ。エリテマソーラ第一王妃殿下とマギアレフィカ第二王妃殿下か」
やっぱりそうきた。
「お二方ならば、神殿と魔道士結社の双方に話を通してもらえるやもしれん。ダンジョンをどうするかは保留としても、教会を怒らせた今、打てる手は打っておいた方がよいな。プエルラーレ、頼めるかい」
「どーしよっかな〜」
ずっと、このコにどこまで踏み込んで話せばいいのか考えていた。だが、おそらくとっくにオレの豹変はバレている。
大司教を追い返したところを見られていたならなおさらだ。
「一つ聞かせてくれないか」
「なーに?」
「前のオレと今のオレ——」
「今のヘーカ! 今の方が面白くてカッコイイもん」
聞くまでもなかったようだ。結局、このコは大臣の娘ってことらしい。
前の人格を哀れに思うが、オレにはどうしようもないこと。
よって、こういうときは開き直ってしまうに限る。
「ではここに、レガリスレクス王国国王としてダンジョンの封鎖を命じる!」
「ぷっ。似合わなっ」
え、えええぇ、王様ムーブがカッコイイんじゃなかったのかよ。
よかれと思ってやってみたら、クッ、またしても黒歴史を増やしてしまったぞ。
「けど、そういうヘーカも可愛くて好き〜」
「オッサンを揶揄うんじゃない。とにかく、第一王妃と第二王妃への口利きを頼んだ。プエルラーレ、やってくれるな」
「まっかせて〜」
「……ハァ」
大臣からの返事は、ひどいしかめっ面とため息だった。
だがな、娘を御せなかったオマエが悪い。だからそんなに恨めしい目を向けてくれるな。
こうして、王様となったオレによるお約束事破りの第一弾は『ダンジョンを封鎖せよ』となったのだ。




