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よりにもよって王様かよ! 中間管理職のオッサン、勇者と魔王がいる異世界に転生したので、RPG的なお約束にダメ出しする  作者: 枝垂みかん


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オレ、悪い王様じゃないよ


 頬をつねれば、……痛い。

 手のひらに指を立てても通り抜けない。

 どうやら明晰夢ではないようだ。いい加減、現実だと受け入れよう。


 この状況をありていに言ってしまえば——


『中間管理職のオッサンが懐かしのRPG的な異世界に転生したら、何の因果か王様でした』


 となる。正確には憑依転生というやつか。

 さらにつけ加えると、


『王様だからと調子こいて宗教勢力のお偉いさんを論破した挙句、帰らせてしまった件』


 だろうか。


 そして現在、謁見の間から王様の私室に場所を移して、大臣と面談中。


「……そんなに私は変わりましたか?」

「陛下はそのように話されなかったと記憶しております」


 おっといけない。つい社会人口調に戻してしまった。


「ち、朕は——」

「それでは皇帝ですぞ」

「……。余は其方の目にそれほど変わって映るか? であってますか⁇」

「ハァ……」


 どうやら落第点らしい。ため息で応えられてしまった。

 というか、この大臣から王様に対する敬意がまったく感じられない。だったらこちらも楽に話せばいいか。


「オマエって普段からそんなノリなのか?」

「ノリ、と申しますと」

「王を王とも思わぬ態度のことだ」

「はい。陛下はお飾りの王ですので」


 コイツ言い切りやがった。

 だが、考えようによってはオレにとって好都合なのでは。


「要は、求められたときに玉座に座ってればいいだけの王様ってことか」

「概ねは。基本的に、どのような陳情を受けても『大臣よしなに』と返すのがお役目ですな」


 ……たしかにお飾りだ。


「それともう一つ。勇者など英雄候補との謁見の際には、銀貨一枚を渡して『魔王を倒してまいれ』と送り出すお勤めもございます」

「当てつけかよ」

「私めは事実を申したまで」


 やはり大司教を追い返したのは、かなりマズイらしい。

 大臣は顔を露骨にしかめてる。

 だというのにコイツはオレを責めたりしない。多少のイヤミは言ったけど。たぶん端から王様になにも期待していないんだ。


 幹部寄りの立場だが、方々から板挟みという意味では中間管理職と通ずるものがある。

 だからかオレは、無能な王をコントロールして実質的な国家の舵取りをしている大臣に、小さな嫉妬と大きな尊敬の念を抱いた。


 たぶんもう憑依転生はバレてる。そこまでハッキリとわからなくても、王が豹変したのは明白だろう。

 そのうえでこうして話をするのは、いつでもオレをどうにかできるからだ。

 おそらくコイツは見定めている。ならば——


「オ、オレ、悪い王様じゃないよ」

「は?」


 間違えた。


「説明がややこしいな。とにかく、悪いモノに取り憑かれたわけじゃないと言いたかったんだ」

「それを本人の口から聞かされても……」

「たしかに」


 これは大司教を詰めたときと同じ論法だ。


「逆に聞かせてくれないか。大臣はどうしたい」

「と申しますと?」

「ええと、たとえばだな、賄賂三昧な搾取ライフを送りたいだとか、影の権力者として思う存分権勢を振いたいだとか……」


 我ながら貧困な発想力だが、オレが為政者に抱くイメージはこんなものだ。

 しかし、大臣から返ってきたのは、


「レガリスレクス王国の安寧、ですかな」


 ありきたりな模範回答。


「いやいやいや。オレにお利口さんぶっても意味ないだろ」

「本心ですが」


 訝しむ目を向けると、大臣はつづけた。


「私には娘や孫が多く、そのほとんどは王国の官吏に嫁いでおりますゆえ」


 なんだよ、このオッサンすでに王国を牛耳ってるじゃないか!


「だから国が傾いたら困ると」

「王家も、ですぞ」

「……ってことは」

「第三王妃は私の末娘でございます」

「お、義理父さんって呼んだ方がいいですか?」


 絶対やめろって目で睨まれてしまった。

 とにかく、大臣の一族と王国は一蓮托生だってことは確定っぽい。


 ここで新たな選択肢。

 傀儡の王様として平穏無事に暮らすか、積極的に介入するか……。

 他にもあるだろう。でもオレは知らなさすぎだ。これでは選びようがない。


「この世界について、魔王について、王国について、教会やら勇者についても教えてほしい」

「陛下は、本当に別人となられたのですな」


 なんだかリアクションに違和感がある。

 入れ替わった別人格(オレ)が、知らないことを知ろうとするのは当たり前のこと。それを驚くのは変だろ。


「陛下はなににも興味を示さない方でしたので。しいて挙げるならば、夜な夜な王妃殿下たちのもとへ通うことを唯一の楽しみとされておりました」


 ——ふ、複数形⁉︎ それ詳しく!

 と食いつきたいところだが、さっき第三王妃って言ってたから嫁さんが何人いるのか確かめたいところだが、でも、それよりも置かれた状況を把握する方を優先するべきだ。

 オレは鋼の意志でもって煩悩を頭の隅へ追いやった。


 いろいろと聞かせてもらった。

 レガリスレクス王国が中央集権国家であること。

 教会などのグローバルな勢力がいくつも存在すること。

 人類と敵対する亜人種をまとめあげた魔王の脅威について。

 勇者などの少人数を魔王討伐に向かわせつづける合理的な理由。

 魔王の存在によって生まれる既得権益。

 各勢力と代官の癒着構造などなど……。


 メタ的に、ケチだ無責任だと揶揄される王様だが、王様にも事情があるのだと知った。


 ただ、長い長いチュートリアルのなかで最もオレの琴線に引っかかったのは——


「いま『経験値』って言ったか⁉︎ モンスターをやっつけると溜まって、規定値までいくとレベルアップする、あの経験値のことだよな!」

「位階の上昇を指しているのならば、概ねそのとおりです」


 スゲェ、まんまゲームみたいな世界観だ。


「主に魔獣を倒して経験値を得るのが一般的とされております」


 その言い方だと、魔獣以外からもゲットできると聞こえるんだが。物騒だな。たぶん『人同士でも』って理解で間違いないぞ、これ。


「とするとだ、経験値を集約させることが少人数を魔王討伐に向かわせる理由の一つか」

「ほう」


 よくわかったね、みたいな顔をやめてくれ。これくらい誰でも想像つく。


「癒着やら専横を取り締まれないのも、各勢力がそれぞれにレベルアップした強力な個人を抱えているから」


 経験値の他にも、ダンジョンから得られる希少なアイテムや鉱物資源なども利権の温床になっているのだろう。


「魔物を捕まえて繁殖したらどうだ。経験値牧場みたいに。そしたら手軽に王国兵もレベルアップできて、取り締まりも捗りそうじゃないか」

「魔獣は魔獣の腹から産まれません」


 卵から孵るってわけでもなさそうだ。


「魔獣はダンジョン内より湧きます。そして地上に這い出たあとは、森の獣を漁り、人の里を襲うのです」

「さっき話に出た冒険者組合はなにをやっている。山狩りでもしたらいいものを」

「依頼がなければ冒険者は働きません」

「被害もメシの種ってことか」


 ここでオレの腹は決まった。

 平穏に暮らすでも積極的に魔王退治をするでもなく、王様として、


『この見知らぬRPG的な世界に蔓延る悪しきお約束事を、片っ端から覆してやる!』


 ——と。


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