光をもたらす勇者ってなんだよ
「語るに落ちたな、大司教」
「ど、どういう意味でしょう」
オレは王様。勇者に端た金を渡して『魔王を討伐してまいれ』と命じる、あの王様だ。
そしてオレは今、新たな勇者を連れてきた教会の大司教をノリノリで詰めまくっている。
「オマエはさっき『聖女が女神から宣託を受けた』と言った」
「はい。こちらのユエニスこそ、悪しき魔王を倒し世界に光をもたらす勇者にございます」
「ツッコミどころ満載だけど、まずは聖女だ」
「聖女ネヴィアに、なにか」
「オマエたち教会のトップで聖女を認定したと言っていたが、いったい誰が神託だと認めた。まさかその真偽まで合議で決めたりはしてないよな?」
大司教はようやく発言のマズさに気づいたらしく、口はパクパクさせているが声になっていない。
「それでは伝言ゲームの出どころが女神からなのかも怪しくなる」
「な、なんたる仰りようか! いかに陛下といえど……」
許さない——まで言ってくれたらチェックメイトだったのだが、ギリギリのところで冷静さを取り戻したようだ。
「なんだ。言ってみろよ」
「め、女神様への侮辱は許しませんぞ」
「話をすり替えるな。オレは女神を侮辱などしていないぞ。教会が信じられないと言った。神託ではなく御託だと言ったんだ」
「——ぐっ、ぬぬぬっ」
「だいたい『光をもたらす勇者』ってなんだよ」
天井の高いところにある窓を見やる。
「晴れてるじゃないか」
「い、いずれ魔王は世界を闇で覆いますぞ」
「ふーんスゴイな。魔王は世界を闇で覆えるほどの力があるのか。だったら抗いようがない。というか、それが本当だとしたらとっくに人類は滅ぼされてるだろ」
くっくっくっ。コンプラによってハラスメントの烙印を押されし禁忌——正論を解放したのだ。今のオレに屁理屈など通じないぞ。
「まぁいい。聖女が受けた宣託の真偽はともかくとして、闇云々は魔王の脅威を表した比喩であり、魔王討伐に勇者を差し向けることもよしとしよう」
どうして少人数で旅をするのかが意味不明だが、そういうゲームみたいな世界観なんだろう。
オレはひとときのロールプレイングを満喫すると決めたんだ。些細なことなど気にしない。
勇者ではなく王様という配役を無意識で選ぶことろに、オレの抱えた心の闇を感じなくもないが、まぁそれもよしとしよう。
「だがだ、勇者がそこの少年とはどういうことか」
「か、必ずや僕が魔王をやっつけます!」
ずっと跪いたままだった少年が慌てて顔をあげた。ていうか声変わり前かよ。
「ユエニスくんだったか。キミいくつ?」
「……か、必ずやオラ——違った、ぼ、僕が魔王を!」
台本にないこと聞いてごめんね。
田舎の子ってバックボーンなのかな? 我ながらディテールの細かさに驚く。
「勇者ユエニスは来年十二となります」
「まだ小学生じゃないか」
「い、いまは未熟かもしれませぬが、されど若さは可能性でございますゆえ」
「若すぎるだろ。こんな子供に世界の命運を託すなんて、情けない。いったい大人たちはなにをしている!」
「ですが陛下、宣託では——」
「黙れ! おい大臣」
で、合ってるよな。
ここでオレは隣に突っ立ってるだけのオッサンに話しかけた。果たして受け答えしてくれるのか。
「……。はい」
コイツ、一瞬聞こえないフリしなかったか。
「大司教を摘み出せ」
「よろしいので?」
イイも悪いもあるか。これは夢での出来事。だったら、忖度したり今後の心配したりそんなものは無用だ。
というかこれ、ホントに夢ぇ……だよな⁇
大臣は顔に、オレのよく知る中間管理職の苦悶を滲ませている。
大司教は不安からか重たそうな司教冠に触れた。すると流れた汗がこめかみを伝い、目を瞑ったんだ。
やたらと生々しい。
極めつけは、
「ぼ、僕が魔王をやっつけます。必ずやっつけます僕が魔王を」
覚えてきたセリフを必死に繰り返すユエニス少年だ。
絶対に勇者と認められないとマズイ。でないと居場所がなくなってしまうかもしれない。そんな切迫感が、か細い声からも指の震えからも伝わってきた。
夢とは思えないリアリティ……。
オレは疲れ果てたオッサンで、お上の一声でコロコロと変わる労働環境に苛まれる中間管理職。
たしか、懐かしいタイトルのリメイク版をじっくりと楽しむ余力もなく、主人公に自分の名前をつけたところで放置して、そのままパタリ。
そして目を覚ますと——ここ、謁見の間にいた。
真っ赤なカーペットが敷かれていて、壁にはキンキラなタペストリーもかけられている。だから城の中で間違いない。
おかしいと感じたのは見下ろす視点だったことと、玉座が見当たらないこと。
このあたりでようやく察した。オレは明晰夢を見ていると。夢のなかで王様役をしているのだと。
だから憤りのままに言いたい放題してたんだけど……。
「……ハァ。陛下もこう仰せですので、大司教猊下、今日のところはお引き取りを」
「クッ。ここでのことは教会内で問題とさせていただきますぞ!」
大司教は肩を怒らせて帰っていった。
置いてかれたユエニスくんは、まだ同じセリフを繰り返している。
もうそろそろ夢は覚めてもよさそうなものなのに、後味の悪さに現実味は増すばかり。
「陛下、まるで別人のような変わりようではありませんか。いったいどうなされたのです」
大臣に事情を話しますか?
→はい
いいえ
こんなコマンドが脳裏に浮かんだ気がした。




