対策くらい済ませてあるんだよ
年長の勇者は、敵勇者のなかでも最弱はず。
魔王領と接する本拠地のメーリスフロンスではなく、版図の果てであるヴィキヌスに置かれたという時点で、主力とはされていない。
さらにはアイツは、その十六名のなかでもさらに末席。
となると、光の勇者ユエニスの資金石としてはもってこいだ。
逆に、それさえあっさり倒せないのであれば、敵勇者への切り札とはならない。
「へへぇえ……。なんだい、その装備。他の連中と変わらないじゃないか」
大剣だけは専用に用意したが、防具に関しては王国兵と同じ。
だが、アフトギウム改をそこらの鋼鉄と同列にされては困るな。
混合比の見直しからはじまり精錬純度の向上、鍛造方法の工夫、いろいろやったんだ。
なにより——
「僕といっしょに成長した剣を、バカにするな!」
ユエニスが叫ぶと同時に剣身は八色の光を帯びた。
火、熱、水、冷、風、雷、木、土、本来なら打ち消し合うはずの四大主属性が、相反せず。
彼の言ったとおり、ダンジョンにおいて常に彼の手にあり、破損のたび何度も何度も打ち直した大剣。世界に一本だけの量産品だ。
「な、なんだよそれ! レガリスレクスの田舎者のくせに!」
「……君は口喧嘩をしたいの? その方が僕は平和でいいと思うけど」
光の勇者ユエニスの無自覚煽り。
年長勇者に会心の一撃。ぐぬぬッと唸る。
さらに追撃。背後から、
「なにチンタラやってんだ!」
「ビビってるんじゃね」
「ザコが勿体つけるなよ」
「なっ。くたばるならさっさとくたばっちまえ」
「次、誰がいくか決めようぜ」
敵勇者らの罵声が浴びせられた。
「待てって。こ、こんなヤツ余裕だっつうの! あんまり俺をみくびるなよ!」
「ァア?」
「……ご、ごめん。その、俺、頑張るから」
年長勇者は仲間に強く言い返すも、一睨みで黙らされた。
本当にトホホなシーンを見せられたわけだが、こんなのでも激戦地リーメスフロンスを生き抜いた勇者だ。侮れない。
「——お前のせいでぇえええッ‼︎」
逆ギレからの長剣大振り。しかし遠目でも追えない速さで、瞬き一つのあいだに何度も。
それらを光の勇者ユエニスは微動だにせず、切先のみで捌く。
「なっ⁉︎」
年長勇者は往なされたことに驚いたのではない。
「風の魔剣ティルウィングが‼︎」
ご大層な武器のようだが、一度の攻防でボロボロと刃こぼれ。これに目を剥いた。
「もうやめておこう。投降してくれたら、たぶん陛下も無体はしないよ。なんだったら僕からも口添えを——」
「ふ、ふふふ、ふっざけるなぁあああーッ‼︎ 〝消失光魔法〟」
光線が放たれた。おそらく、光と光の二属性。勇者のみが扱える魔法の最高位。
それをユエニスは、
「ッ⁉︎ 魔法を弾いた、だと⁉︎」
大剣を傾けて空へと逸らした。
そして、瞬く間に駆け寄り——オレの目では瞬間移動——ひと声。
「君なら耐えられるよね」
ナチュラル煽りな気遣いを告げ、ユエニスは掌底を腹に打ちつけた。
息の漏れる音だけ残し、年長勇者はダンジョン入り口付近、大樹にめり込んだのだ。
……ヤバ。うちの勇者、強すぎッ!
「チッ。この役立たずが!」
「おい!」
「ああ。もう順番もクソもないな」
「全員でやるぞ」
残る十五名の敵勇者は頭を切り替えた。光の勇者ユエニスを格下から格上へと。
「ユエニス、引け!」
「はい!」
全員でくるのならこちらも全員でだ。
「——逃すかよ!」
飛び出た敵勇者に、後衛からの魔法が殺到。
「クッソ!」
「バァカ、見とけ! ザコはこうやって一掃するだよ。〝消失光魔法〟」
再び光魔法が。こんどはオレらの陣へ向けて。
だが——
「なんだと⁉︎」
鋼鉄兵団の構える鏡の如く磨きあげられた盾が、光線を彼方へと逸らす。
本来、非常に小さいはずの光圧が、物理法則のバグったこの世界では激しい。しかしそれさえ強化板バネ構造が吸収。ノックバックのみで済む。
ふっふっふっ。こちらにも勇者がいる以上、光魔法の対策くらい済ませてあるんだよ。
「直接ブッた斬ればいいんだ!」
「そうだ。固まるな! 散れ!」
ここまで予定どおりだと、カンニングしたみたいな後ろめたさがあるな。
敵勇者はそれぞれが距離を取り、連携の心配がなくなる。そもそも不仲な連中にそんなものがあるのかも怪しいが。
どちらにせよ、バラけてくれたらこっちのもの。
「光の戦士団、敵勇者を各個撃破! その他は光の戦士団を援護、ならびに敵勇者の足止めッ‼︎」
「「「応ッ‼︎」」」
ペデモント将軍の指揮に呼応して、ユエニスを含む光の戦士団を全軍が補完する。
鋼鉄兵団とドワーフ兵団が立ち位置を変え、行手を塞ぎ、傷つく光の戦士には神官団とローエルフ巫女が即座に治癒再生魔法を。
分断した敵勇者の足は、
「「「迅雷魔法」」」
単体攻撃に特化した魔法によって止める。
雷と雷の二属性『大電撃魔法』を浴びせまくることで、痺れを与え、その場に留めた。
さらにそこへ、魔法戦士団に内包されるグラベル兵団が石礫魔法で嫌がらせ。
こうして敵勇者らは人によって築かれた袋小路に捕えられた。罠だらけ障害だらけ、まさに動く人間ダンジョンだ。
そして——
「光の勇者ユエニスが、敵勇者の一人を討ち取ったぞ‼︎」
残り十四名。
「クッソクソクソうざってぇ!」
「おい、ダンジョンに潜るぞ!」
「ァア‼︎ 逃げんのか!」
「じゃあ勝手に死ねば」
「チッ。わかったよ」
「こんどはこっちがバラバラにしてやる!」
劣勢となるや、敵勇者たちはダンジョンにオレらを誘き寄せようとした。
狭い空間ならば囲まれないと判断したのだろう。それぞれに攻撃を振り切り、大木の樹洞へと逃げていく。
こうして盤上は次の局面へ。




