打ち切りエンドかよ
「敵勇者十四名、全員ダンジョン入りしました」
「では、閉じよ」
「ハッ!」
せっかく追い詰めたのに、あっさりと逃した。
この展開は事前に織り込み済みなのだ。深追いしないよう周知していて、功を焦らず全軍が従ってくれてよかった。
ではなぜ敵勇者の撤退を見逃したのかといえば、ダンジョンに閉じ込めるため。
ちょうど今、最奥から数多の魔獣を引き連れた賢者たちが戻ってきているはず。その処理を招いた者自らでさせようと考えたのだ。
もちろんダンジョン入り口でスタンピード到着まで抑えつづけるシナリオもあり、その場合は敵勇者が前後挟み討ちになったのだが、今回はダンジョンに逃げ込むパターンだった。
というわけで入り口を封鎖するのだが、ちょっとやそっとの障壁では、勇者の光魔法だ簡単に突破されてしまう。
理想をいえば、光を拡散させる氷のみの壁がベスト。しかし短時間でダンジョンに栓できるほどの氷は用意できない。
なので、木と木の二属性魔法で用意した壁に、水をぶっかけまくって冷と冷の二足属性魔法で凍らせることにしたのだ。
これで光魔法で一発突破はできない。ガンガン武器で叩き割るしかない。
また、その兆候があれば、こちらから氷魔法で壁を補修する二段構えとなっている。
ちなみに、入り口ごと壊して生き埋めという方法は、ダンジョンの自動修復機能があるので却下した。
「さて、閉じ込められたと気づくのが先か、スタンピードと鉢合わせるのが先か。欲を言えば後者となってもらいたい」
「ですな。では前者であっても、外に出ようとしているあいだに魔獣の群れが追いつくよう、可能な限り強固に封じます」
ペデモント将軍は入り口封鎖の指揮と並行して、担当外の兵士に休息をとらせたり、負傷者の治療や破損武器の補修などなど、テキパキと指示を下す。
しかも、それを受けたそれぞれが気を抜くことなく有機的に動くのだから、スゴイものだと感心させられる。
そうこうしているうちに、大木の樹洞ダンジョンは氷に覆われた。迎撃の準備も整った。
二度とスタンピードなど起こさせない。そのためにも、敵勇者撃破と併せ、勝利までの顛末を大々的に広めてやるのだ。
陽が傾きかけたころ——
「わかりやすいな」
「まったくです。こうチカチカと照らされては、目を痛めないか心配になります」
氷の壁の向こうダンジョン側では、敵勇者が光魔法を連発。芯材にした魔法の樹木に熱は溜まっていき、あちら側から爆ぜたこもった音も届く。
水と氷属性魔法で継ぎ足し継ぎ足ししているけど、破られるのは時間の問題だろう。とはいえ、まだまだかなりかかりそうだが。
高みの見物をきめこんでいると、エリテマソーラが口を開いた。
彼女は片時も離れずそばにいる。しかしオレとペデモント将軍の会話に入ってくることは、稀。
「陛下。高位の魔法発動の気配がします」
そんなもの感知できるのかよ。
と、ツッコミを入れる間もなく——
「総員ッ‼︎ 迎撃ッ‼︎」
ペデモント将軍の叫びと破砕音が重なった。
氷の壁がダンジョンの出入り口ごと粉々に、吹き飛んだ。
「おそらく火と天の二大主属性『天変地異』です。賢者の仕業でしょう」
二大主属性⁇ 初耳だがヤバイのは見てわかる。たぶん範囲破壊の魔法だ。
もし、あんなものをこちらへ向けられたら一溜まりもないぞ。
「エリテマソーラ。また発動の気配がしたら、すぐに知らせてくれ」
「はい」
「将軍、やれるな」
「ハッ」
クッソ。危険行動を察知して潰していなかなきゃならないなんて。ゲームじゃないんだから、そういう新システムによる難易度調整なんか及びじゃないぞ。
大木の樹洞ダンジョン出入り口は、みるみるうちに修復されていく。
しかし入り口が壊れているうちに、敵勇者と賢者たちの半数五十弱が飛び出してきた。
様子からして、敵勇者たちは賢者たちが引っ張ってきた魔獣の群れの対処を押しつけあっているようだ。
見えたのはここまで。
なぜなら——
「火、風、木、属性魔法、放てぇえええーッ‼︎」
待ち構えていた各魔法兵団と魔法戦士団の女性たちによる二属性魔法の連携がはじまったから。
行動を阻害する棘は極太な幹となり、それを炎が焼く。さらに吹き込む風が嵐となり、火焔流となるのだ。
まさに魔法のシナジー。相乗効果で威力が増し、敵勇者らの包囲のなかに釘付けにした。
「汚ねぇぞ!」
「正面から戦えや!」
ときおり敵勇者らの罵声が届くも、魔法の轟音により掻き消される。
前門の魔法攻撃、後門の魔獣。
戦闘開始から連中は食わず休まずだ。限界は近い。
そんな焦りからか、魔法の直撃を受けつつも飛び出してくる敵勇者には——
「単体魔法、放てッ‼︎」
石礫と雷撃をお見舞い。
さらに、
「「「〝着火魔法〟」」」
熱と熱の二属性『限界突破』で強化された光の戦士団が対応。光の勇者ユエニスの活躍も見られた。
戦闘が経過していくと、敵勇者らを通過して魔獣がこちらへ押し寄せることもあったが、鋼鉄兵団ならびにドワーフ兵団が、後衛をガッチリガード。
魔法戦士団の男性戦士やホビット兵団が、チクチクと削り切って処理。
「陛下!」
「またさっきのデカイ魔法か⁉︎」
「おそらく」
「将軍!」
エリテマソーラの二大主属性魔法の察知を伝えると、オレの返事を省き、
「天魔法兵団、光の勇者を援護ッ‼︎」
風と雷の二属性『疾風迅雷』を発動させる。
これは瞬間移動の如き魔法で、パッとユエニスが消えたかと思えば、標的の間近へ現れ、討った直後に元の位置へ。
かなり使いどころが難しい魔法だ。
本音を言えば、対ネヴィアの切り札にとっておきたかったのだが、出し惜しみして甚大な被害を出しては元も子もない。
ときには板バネ盾がひしゃげ飛び、後衛に迫られるヒヤリな展開もあったが、互いに補い合い、次第に鈍っていく敵勇者や賢者たちを抑えた。
ローテーションを組む余裕もない総攻撃は、いつ止むとも知れずつづく。
そして日暮れから始まった激戦は、夜明けまで。
大木の樹洞ダンジョンの前には物言わぬ敵勇者らの亡き骸が点在。
魔獣が現れる気配もない。
とても澄んだ空気とは呼べない戦地の濁りはそのままだが、静けさだけは戻った。
ふと吹いた風が、澱みを流す。
すると、眩しい朝日が戦い抜いたオレたちを照らした。
「諸君、我らの勝ちだ!」
「「「うぉおおおおおーッ‼︎」」」
苦渋の一年を過ごした者らの喜びはひとしおのようだ。
だが、聖メーリスフロンスの規模からして、これは非常に小さな戦果であり、初戦を乗り越えただけ。
それに、取り戻したヴィキヌスの土地を基盤にして、新たな政府を起こさなくてはならないんだ。
ネヴィアとの戦いはまだまだつづく。オレたちの戦いはまだはじまったばかり……。
なぁんて『漫画の打ち切りエンドかよ』みたいな感想を覚えてしまったが、
「陛下、完勝おめでとうございます」
「ああ。ありがとうエリテマソーラ」
いまだけはオレも勝利の美酒に酔い痴れよう。
第二章はここまでとなります。お読みいただき、ありがとうございました。
ここでいちおう念のため、打ち切りエンドではございませんと宣言しておきます。ひきつづきお付き合いくださいませ。
さて、第三章は土地の奪還から共同国家の建国、魔王との共闘へと話は進んでいきます。ただいま執筆中でして、ストックが溜まったら再開します。
また、第一話から改稿も進めておりますので、よろしければぜひ。
少しでも「つづきが気になる」「おもしろい」など興味をもっていただけたのなら、ぜひとも【★で称える】【おすすめレビュー】で応援してくださいませ。
執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。




