レベル差が序列なのかよ
巨木の樹洞ダンジョン——
その名のとおり、樹齢が想像つかないほど育った幹にポッカリと空いた洞から奥深くへとつづくダンジョンだ。
獣人系の魔獣が現れるのは、撤退戦のおり確認している。
その入り口付近に十六名の敵勇者が屯ろしており、賢者とおぼしき亜人ハーフは見当たらない。
見るに、連中は対等な関係ではないようだ。
一番の年長が、他の少年たちの言いつけに右往左往。平たく言ってしまうとパシリをさせられていた。
「レベル差が序列なのかよ」
「おそらくは」
これらは手を双眼鏡に、遠目にした印象。
それに忍者軍団の頭領ラトロが答えた。
敵勇者たちがダンジョンに入り浸っているのも、経験値を稼ぐためだろう。
強さがそのまま立場となる社会に属していれば、そうなるのも当然か。
……結局、彼らはまだまだ少年なんだ。狭い世界でしか生きてきていない。
「賢者らは?」
「我が軍出陣の報を受けた敵勇者らに命令され、全員ダンジョンの奥へ向かいました」
「何名かが街まで使い走りに行っている可能性はないか?」
「ありません。確認済みです」
たしかに、ダンジョンの入り口付近には食料などの物資が山積みだ。
辺りは、荒んだ生活を送っているのが見てとれる散らかりっぷり。
「陛下。情けは無用ですよ」
「わかっている」
エリテマソーラが図星を突いてきた。
彼女は、オレのなかで未消化のまま残る『敵勇者——少年たちに軍事力を差し向けて本当によいのか』という葛藤を見抜いたらしい。
「人としての善悪、その分別はつく年齢です」
「だな」
敵勇者は単なる不良少年などではないのだ。一個で軍に匹敵する戦力を持つ。手心を加える余裕などない。
それに、連中の手は既に汚れきっている。凶悪なテロリスト集団として扱うべきだ。再びヴィキヌス全土を巻き込むスタンピードを起こすことさえ、躊躇いなくやってのけるのだから。
「将軍、包囲からあとの段取りは問題ないな」
「ハッ。我らが一番はじめに行った作戦ですので」
「そうだったな」
王様の命令第一弾『ダンジョンを封鎖せよ』でやった、囲んでタコ殴り、それを再現するだけ。
かつてと比べると、対象の強さもこちらの規模も桁違いだが、
「やれるか」
「お任せを!」
ペデモント将軍は胸を張った。
◇
全軍は息を潜め、敵に気づかれない位置まで距離を詰めたところで——
「攻撃、開始ッ‼︎」
ペデモント将軍が叫んだ。
号令を受けた全軍が有機的に動き出す。
真っ先に鋼鉄兵団とドワーフ兵団が前へ。読んで字の如く鉄壁、盾の壁を作った。
そのフォローには魔法戦士団と神官団ならびにローエルフ巫女がつく、さらに後ろではノーム兵団とホビット兵団が陣地を築く。
これらと同時並行で、各魔法兵団による一斉射。真っ先に物資を焼いたのだ。これによって敵勇者らの反応は遅れた。
「魔法兵団、作戦、サウナ責めッ!」
ダメージ確認など不要と、ペデモント将軍は次の策を走らせる。
「「「〝荊棘魔法〟」」」
地魔法兵団が木属性魔法を連発。
それらは掛け合わさり、木と木の二属性『異常繁殖魔法』へと昇格。敵勇者らを囲う密林の檻となった。
間をおかず、
「「「〝火球魔法〟」」」
「「「〝着火魔法〟」」」
火魔法兵団による、二属性『火球連射魔法』『大炎上魔法』の発動。
囲いは燃える檻と化す。
さらに、
「「「〝疾風魔法〟」」」
風と風の二属性『魔力渦魔法』が、
「「「〝水弾魔法〟」」」
水弾を粒にして、湿り気を帯びた空気を巻き込む。
対象の加熱と蒸発を急加速させた。
完璧な連携によって、ダンジョン入り口は即席サウナに。
事態の把握と対応までのタイムラグ、その間に少しでも体力を削っておく。
僅かな消耗でも上出来。このまま倒し切れるとは思っていない——ほらきた!
「暑いんだよ、クソがッ‼︎」
轟音と共に木っ端微塵となる炎の檻。
舞い散る火の粉をものともせず、敵勇者たちは姿を現した。
だが驚愕はしない。こちらはすでに、次の手どころかアイツらの詰みまで読み切っているんだ。
ノーム兵団による土と木の二属性と『荊棘陣魔法』で後衛の安全を確保。
さらに土と土の二属性『魔力補給』が魔法を放つたびに魔力をフル充電。
生じた解れはホビット兵団が補い、全軍は敵前の陣地へ飛び込む。
そして鋼鉄兵団とドワーフ兵団へは、神官団とローエルフ巫女が『治癒再生魔法』を浴びせまくる。
常に回復する盾の完成、反撃への備えは完璧。
とはいえ一方的、とは言えない。
オレらの猛攻を受けるなかでも敵勇者たちは、
「チクチクうざったいな!」
「蹴散らすぞ」
「ァア! 偉っそうに」
「おいザコ、お前が一人で片付けてこいよ!」
年長の下っ端を前に蹴り出す余裕すらあった。
アイツらのタフさをたとえるなら、昔の高難易度RPGでしばしばあったターンごとに自動回復していくボスキャラ。
もしくは全回復魔法を使うラスボス。ああいう手応えの無さ。
こちらはそれを上回るダメージを与えられていないんだ。
しぶしぶといった様子で、年長の敵勇者はこちらへ向かってくる。
だが、その行手を光の戦士団が阻む。
先頭に立つのは光の勇者ユエニス。
「もう僕は、誰にも負けない!」
「へへぇぇ……、メーリスフロントを知らない勇者かぁ。そうかそうかぁ」
真っ直ぐに育ったユエニスに対して、年長の敵勇者は嗜虐的な笑みを浮かべた。
自分より弱い者を見つけた。そんな鬱屈した心根の現れか、頬を裂くように口の端は吊り上がっていく。




