司教らを捕らえよ
怯える群衆と尻込みする軍勢、か。
ペデモント将軍が号令をあげれば、その均衡も崩れて地獄絵図と化すのだろう。
オレらの手を汚させるのが教会の意図かはわからない。だが少なくとも、そんなことをすればのちに響く。露骨なプロパガンダに利用されかねない。
「全員そのまま待機。……いいや、ラトロ」
「ハッ。ここに」
忍者は、突然そこにいた。
様式美に沿った現れ方に、本営の誰もが驚く。
ただ、オレだけはニンマリ。
「敵軍の裏へ回り込み、司教らを捕らえよ」
「乱戦となった隙にということでしょうか?」
「たぶん争いにすらならないぞ」
これはパーフェクトクリア条件が極々高難易度なクエストだ。
教会に嗾けられた民衆を傷つけたくないが、手を拱いていてはつけ込まれてしまう。なので心を鬼にして戦わなくてはならない。
そんな状況で、あの人数を相手に加減をするなど——
「簡単だ」
オレなら可能。非殺傷であり、かつ広範囲な無力化ができる。
「陛下は闇属性魔法を使うおつもりなのですよ。それも、悪霊群体の指輪を用いて」
エリテマソーラにネタバラシされてしまったが、そのとおり。
「多少の苦痛は与えるが、あっさり終わらせてやるさ」
「では、我らは事後に投降を促します」
「ああ頼む。司教らさえ押さえれば、そう難しくはないだろう」
対処が決まればあとは早い。
オレはエリテマソーラ配下の親衛隊に守られながら、陣地の外へ。
「あれだ! あれが人類種を裏切り、新たな魔王となった異端中の異端! 皆、彼奴を討ち滅ぼすのだ‼︎」
言いたい放題な司教を無視して、
「〝虚無魔法〟」
魔力を食い尽くす闇属性魔法を放つ。
レギオンの指輪により強化されたそれは、紫混じりの黒の周りに光の輪郭を帯びた。
おっかなびっくりな集団へ届いた虚無は——
「「「ぐわわぁああああーッ‼︎」」」
民衆から魔力を奪い、苦痛を振り撒く。
同じことを二度三度。
こちらも心が痛むが、彼ら彼女らを無傷で救うにはこれしかない。悪いけど今は我慢してくれ。
膝をつき身悶える群衆を眺めること、しばし……。
「陛下。司教らを確保しました」
「よくやってくれた」
ラトロが任務完了を知らせに。
それを受けてペデモント将軍が、
「敵軍を包囲ッ! のちに投降を呼びかけろ!」
「「「応ッ‼︎」」」
迅速な対応で降伏を促す。
顔を腫らして縛られた司教らの姿がよく効いたようで、抵抗らしい抵抗はなかった。
初手から悪辣なマネをされてしまったが、士気に水を差されることなく、事を済ませられた。
◇
捕らえた司教らはなかなか口を割らず。殺されないとわかると途端に威丈高に。ときには罵声を浴びせかけてくる始末。
こちらとしては、一刻も早く勇者らの動向を知りたい。
だから身の安全などを保証に触れたのだが、逆効果に終わったようだ。
「レガリスレクスの大司教たちよりは、骨があるようだな」
「フンッ。我らの信仰心を侮るでないぞ!」
「「「そうだそうだ!」」」
ここで忍び頭のラトロが「お任せを」と尋問役に名乗り出た。
得意そうといえば得意そうだけど……。
「ちなみにどうやるつもりだ?」
「口以外は無用ですので、まずは指を——」
「ああもういい。聞きたくない聞きたくない」
スプラッタは大の苦手。耳にするだけでヒェッてなる。……ん! 耳にするだけで、か。よしよし。
「ペデモント将軍。保護した民衆を十名ほど連れてきてくれ」
「どうなされるおつもりで?」
「なぁに、どんな酷い目に遭ったのか語ってもらうだけだ」
どうやらオレの意図を汲んだようで、
「その者らには、恥辱屈辱を払拭する機会を与えてやってはどうでしょうか」
話を合わせてくれた。
これがなにを意味するのかは、当人たちが一番よく知っているのだろう。司教らはラトロの脅しには屈しなかったのに、いまは震え上がっている。
コイツら……、いったいどれだけめちゃくちゃやってたんだか。
連れてこられたのは若い男女五名ずつ。
尋問中だと事情を説明して、それから司教らの前に連れていくと、彼ら彼女らは——というか女性たちの方が怒りを露わに。
こちらが止める間もなく、司教らの顔を引っ掻き、首を絞めるんだ。
「よせ! そこまでだ!」
すぐに兵士たちが抑えたが。
それでも彼女らは治らないようで、
「その棍棒を貸してちょうだい!」
と。
なぜかと問えば、返ってきたのはセルフレーティングな報復を、とのこと……ハァ。
ゲスどもめ。怯えてるんじゃないよ。因果応報だろうが。
男性らだって黙っているけど、握りしめた拳は怒りに震えている。
このままでは凄惨なリンチになりかねないので、いったん下がらせた。
「さて、喋る気にはなったか?」
「ほ、本当に身の安全は保証してくれるのだろうな!」
「内容次第だ」
「メーリスフロンスにおいて、婚姻関係は認められていない……。よってだ……」
そんなものが乱暴の理由になるか、ボケ。
「もう喋らなくていいや。オマエらはオレの人気取りに使わせてもらう」
「「「——ッ⁇」」」
「安心しろ。ヴィキヌスの民衆が満足するまで何度でも治癒再生魔法を浴びせかけてやるから」
こちらにそんな暇はないのでブラフだ。しかし効果てき面だったようで、司教らの口は軽くなった。
あれこれ必死に語っていくから取り留めがない。罪の告白なんか求めていないのに。
そんななかに、
「勇者たちは常にダンジョンに入り浸っている」
「レガリスレクスが攻めてきた報せは届けた」
「じ、じきに魔獣の群れが襲ってくるぞ!」
聞くべき情報が。
「ペデモント将軍」
「ハッ。ヴィキヌスの地にダンジョンは一つです」
今回の出征に向けて、対スタンピード対策は済ませてある。
「ぜ、ぜんぶ喋ったぞ!」
「解放しろ!」
司教らには当然の権利のように叫ぶ。まるで反省の色がない。
「おいおい、オレは言ったぞ『内容次第だ』と。まだ収容所に囚われている人々からの事情聴取が済んでいない。オマエらの処遇は、そのあとだ」
司教らはガックリと項垂れ、頭に乗せていた豪奢な司教冠が落ちた。
ではこれより勇者たちに、いつまでもバカの一つ覚えが通用しないと教えてやろう。




