全軍、出陣せよ!
国産RPGでは最強ジョブの一つとして扱われる忍者だが、神殿の文献に記載はなく、職業認定は不可能だと思っていた。
しかしだ、よくよく考えてみるとおかしい。時代の流れと共に職業が多様化していくのが自然、そうでないのはあまりに不自然。
神殿が祀る精霊や神霊などの神様たちは、職能を司っているのでなく、人の新たな歩みを祝福すると説明された。
となると、新たな職が認められないわけがない。
こんな話をエリテマソーラにしたら、
『できますよ』
あっさりと。
ならばと、急ぎ適任者の選定した。
というか探すまでもない。元盗賊ギルドのギルド長であり、ネヴィア追跡の任を担ってくれていたラトロこそ相応しい。
こうして彼は、忍者集団の頭領へとジョブチェンジ。
諜報活動における必須技能を体系化して、同時に神殿の協力も得て試験内容も作成。
王国兵に再就職していた元盗賊から、彼を慕い、忍者を目指す者も多く、人員はすぐに確保された。
下忍や上忍のような階級は存在せず、盗賊ギルドが前身というのもあって、頭領以外は横並びの関係だ。
名前も役目も変わってしまったが、再び同じ組織に集えたことを、彼らはとても喜んだ。
「現在、忍者たちにはレガリスレクス王国内の防諜と、ヴィキヌス周辺の諜報活動を任せております」
「さっそく使いこなしているな」
「彼らは優秀ですので。単独または少人数で敵地へ忍び込み、情報を持ち帰るなど並の兵にはできません」
軍トップのペデモント将軍が手放しで褒めるものだから、頭領のラトロも忍者集団もモチベーションは高まる一方。
「補給路の確保や陣地の設営など、非常に計画が捗ります」
「それはよかった」
こんなふうに王国軍は新設された部隊の運用を学びつつ、再編されていった。
◇
一年が経ち、出陣の日——
オレは王都の広場を埋め尽くす国民の前で、壇上に設えられた玉座に腰掛けていた。
目の前には、サケルドス大神官と十六歳になったばかりの青年が跪いている。
「面をあげよ」
凛々しくへベス大臣が声を張ると、青年は、しっかりとオレを見据えた。そこには、かつての怯えた様子は残っていない。
「大神官よ、かの者は数多の精霊や神霊から祝福を受けた。これに相違はないか?」
「はい陛下。こちらの勇者ユエニスは光の戦士と認定され、さらなる高み、勇者を超える存在となる『光の勇者』へと至りました」
そう。ユエニスくんは四大主属性魔法をマスターして、魔法剣も修め、光の戦士の認定を受けた。
だけにとどまらず、彼はより高位のジョブ、歴史上にない世界に一人だけの光の勇者と認定されたのだ。
目頭が熱くなった。ついつい四年前を思い出して感極まってしまう。オッサンはこういう少年の成長劇に弱い。
だが、彼をもう『ユエニスくん』とは呼べないな。
「光の勇者ユエニスよ、大聖女を僭称する魔女ネヴィアを倒してまいれ」
オレは王様として、命じた。
「はい! 必ずや、魔女ネヴィアを討ち取ってみせます」
声変わりを済ませた彼に用意したのは、銀貨一枚ではない。
「将軍、光の勇者と同行する軍勢を呼び上げろ」
「ハッ」
一段下に控えていたペデモント将軍が壇上に登り、いまかいまかと喝采のタイミング待ちする国民たちへ、ネヴィア討伐軍の全容を明かしていく。
「リットラル総監、ルアーナス総監率いる光の戦士隊」
小規模集団で困難を突破するエリート部隊だ。
王国兵のなかで認定を受けられた光の戦士らを二分割して、即応できるよう両総監の指揮下に置いた。
また、指揮系統でいうと光の勇者ユエニスはここに含まれる。独立戦力として作戦ごとにどちらかへ加わるという自由度の高い運用だ。
つづいてペデモント将軍が指揮する部隊が挙げられていく。これが盛りだくさん。
「レガリスレクス王国軍より火魔法兵団、水魔法兵団、天魔法兵団、土魔法兵団、鋼鉄兵団」
これは得意な属性ごとに集めて、二属性魔法の発動確率を上げた王国兵の部隊だ。
そして鋼鉄兵団は、盾兵と一般兵をまとめて呼称した。一番に身体を張る危険度が高い役割なので、少しでも名誉を高めようと考えた結果、こうなった。
「随行軍より魔法戦士団」
これは神殿に身を寄せた人類種の男女混成チームで、戦士と魔法使いの攻撃に特化した組み合わせ。
「神官団」
治療技術と治癒魔法に特化した神官たちと、新たに巫女となったローエルフたちの後衛担当。
ちなみにエルフ代表のフミリスはここに含まれない。彼女と少数のローエルフ巫女はエリテマソーラ第一王妃直轄の特殊任務を帯びた。
「ドワーフ盾兵団、ホビット斥候団、ノーム工兵団」
名前のとおりの軍団だ。
そして名前の出なかった集団が二つ。忍者軍団と、エリテマソーラ直轄の特殊部隊。
忍者軍団は影の組織なので、公にはしない。
もしかしたら後ろ暗いことをしてもらう可能性もあるので、少なくともネヴィアを討ち取るまでは、公然の秘密だ。
そしてエリテマソーラ直轄の特殊部隊の任務は、王様の護衛。今回のようにオレが戦地に出向くときには同行もする。
これは勇者という異常な戦力を有する個に対抗するため、必要な措置として、王妃三名からの勧めもあって設立した。
王妃らの近くという職場環境もあり、基本的に女性エルフのみの秘密の集団だ。
「魔女ネヴィア討伐軍の全容は以上となります!」
ペデモント将軍による発表が終わると、広場の熱気は『いまかいまか』から『まだかまだか』に変わる。
その熱気を受けてオレは立ち上がり、
「光の勇者ユエニスよ、新たな秩序を築くため立ち上がった戦士たちよ、そしてレガリスレクス王国国民よ、いまこそ邪悪な魔女を討ち取るとき! 人間らしい営みを戻すのだ! 全軍、出陣せよッ‼︎」
宣言と共に、オレは手を彼方へとかざす。いかにもな、のちのち身悶えること請け合いの大仰な所作で。
だが、国民の熱気は熱い波となり熱狂に至った。
国威掲揚は大成功。
これで五年は戦える。




