……ハァ、固いよ
流入民には短期間の労働を課した。
これまで手付かずだった土地の開墾や道路の敷設、大型高炉や反射炉の建設に従事してもらったんだ。
これは『働かざるもの食うべからず』精神ではなくて、のちのちを考えてのこと。
一年の訓練期間と予定では五年の戦争、これを経た人々が元の暮らしに馴染むには、人間らしい生活を忘れさせてはならない。
だから少しでも労働と対価、衣食住と日々の営みを頭の片隅に残してほしくて。
こんな意図でなのだが、
「いや〜捗りますなぁ」
へベス大臣はホクホク顔だ。
「ほどほどにな。本来の目的を忘れてもらっては困るぞ」
「しかし王国に本格的な移住を望む者もおります」
「それもネヴィアを倒したあとだ。それに、大臣が主催しているグラベル老人会も調子いいらしいじゃないか」
遠くまで逃げてくること自体が困難なので、流入民に老齢者は多くはない。
しかし手を借りて逃げ延びてきた老人のなかには口惜しさが残り、そして希望を目にした。
へべス大臣率いるマッチョな爺さんの集団を。まだまだ若者にはまだまだ負けんぞいと岩石を放る偉丈夫たちを。
となると志願は必然であり、グラベル老人会の規模は拡大したのだ。
「他の流入民もそれぞれに励んでおりますので、新入りたちも負けてはいられないと、日々汗を流しております」
以前見た、グラベルと叫びながら筋トレする、あれか。
「そっちもほどほどに頼む」
さて、このように流入民たちの精神衛生面にも気を配ってはいるが、されど限られた期間に鍛え上げなくてはならないのが現実。
よって、彼ら彼女らのダンジョン育成には、魔道士結社による研究成果をフルに活かした。
まずは適性ごとに育成方針を定める。
人類種の男性は王国軍の一般兵と同じメイスと丸盾を装備した戦士として、女性には火と木の属性魔法を中心に魔法使いとしての経験を積んでもらう。
亜人種は男女の性差が少ないので、体格のがっしりしたドワーフは板バネ盾を持った盾兵に、手先が器用なホビットは盗賊スキルを磨いて斥候に、地の大属性に親和性が高いノームは土と木の魔法を使った工兵に。
少数のエルフやダークエルフはエリテマソーラ第一王妃のもとで修行となり、大多数のローエルフは神殿で巫女へのジョブチェンジを目指すこととした。
どれも興味深いが、なかでもノーム部隊の運用がオレの琴線に触れた。
木と木の二属性『異常繁殖魔法』はたびたび目にしていて、すでに燃料問題の解決にも使われている。
だが他の組み合わせはといえば、土と土の二属性『魔力補給魔法』という魔力回復エリアの生成や、さらに集団にもってこいな土と木の二属性『荊棘陣魔法』というものまであるのだ。
これらを駆使すれば、近寄りづらく遠距離から殴り放題の陣地が作れるとオレは考えた。
ただ、直接的な打撃力が低いので経験値稼ぎに手間取るという問題がある。
しかしそれも、王国軍と共にダンジョン深くまで潜ることで解決。
たとえ総ダメージにおける貢献度が少なくとも、たくさんの経験値をもっている魔獣を狩ればいい。パワーレベリングに近いか考えだ。
いまや王国内のダンジョンはどこも人口密度が半端ない。
従来から探索していた王国民に流入民が加わったことで、第一層から第五層までキャパオーバーなほど。ちょっとしたテーマパーク状態だ。
これまでなら格上すぎると手をこまねいていた難度であっても、数の暴力で粉砕。魔獣がリポップするなり撃破して、経験値を稼ぎまくっているのだ。
肝心の王国兵はといえば、第六層から第七層を行ったり来たり。
また、彼らには別メニューに全大属性初級魔法の習得を目指したキッカケ体験と、メイスと魔法の同時使用を課した。
キッカケ体験は、こないだマグス・ドゥ・クス主席導師と話したものをより効率的に体系化した内容。
同時使用は、メイスから魔法を放つ特訓を経て、留めて、帯びさせるまでを目指す。
どちらも高難易度なので、すべての兵士がマスターするのは無理だろう。
たとえるならこれは『器用貧乏になれ』と言っているようなもの。簡単ではない。
にもかかわらず早々に双方を会得して、光の戦士と認定された者がいた。それも二人も。リットラル総監とルイーナス総監だ。
やっぱりあの二人は器用貧乏……なんだろうな。そういうイメージは元からあった。
そして彼らの成功が与えた影響は波及する。一人ができたら他の人だってできる。こういう事情は人類史にたびたび登場していた。
また、両総監が面倒見よく指導に回ったのも大きい。
日に日に、王国兵から光の戦士にジョブチェンジする者が増えていく。
そんななか、ペデモント将軍はといえば……。
「報告します。本日の訓練終了後時点で、王国軍の内
における光の戦士認定者は全体の二割を目前としております」
生真面目なタイプには向かないようで、未だ全属性の習得に手こずっていた。
それを気に病んだ様子を見せたりはしないが、彼に焦りがないわけでもない。かれこれ三年以上の付き合いだからわかる。
「順調だな」
「ハッ。年内に三割を目標に鋭意努力してまいる所存です」
「……ハァ、固いよ」
つい、言葉尻にため息が混じってしまった。
「それは……⁇」
「ペデモント将軍の仕事はなんだ?」
オレの言いたいことは伝わったみたいだが、だからこそ黙るのかもしれない。
「全兵士の手本となり、戦を勝利に導くことです」
「否定はしないが、それは将軍にしかできないことか?」
「自分にしかできない、こと……」
「作戦を決定して責任を取る。これがトップの役目だ。そこに全属性魔法の習得は必要ない。もちろん、なかなか上手くいかない兵士たちにとって、共に頑張る将軍の姿は慰めにも励みにもなり、戦場の土壇場で生命を預けるに足る信頼へと繋がるだろう。だが本質は違う」
ここから先はわかるな? とオレは目で訴えた。
「訓練体験をもとに兵士らの戦力向上を把握し、作戦立案における判断材料とします」
「だから固いって」
同じセリフだが、今回は語尾に笑いの息が混じった。
「そういう性分ですので」
「どんどん伸びていく連中は両総監に任せて、将軍は上手くいかない者らや盾兵に特化した者たちに目を向けてやれ。脚光を浴びれば誰だって勝手に伸びる。問題となるのは、努力が報われたと思えないでいる者だ」
「思えないでいる、ですか?」
「将軍がいい例だろ」
ここまで言うとペデモント将軍は「身に覚えがあります」と恥ずかしそうにした。まぁ若さゆえだな。もう彼だって中年手前だけど。
ここでふと頭に浮かんだ。病んだ者を集めたら闇魔法に特化した軍団を作れるかも、と。
というのは冗談として、
「元盗賊を集めた特殊部隊の進展はどうだ?」
話は影の軍団創設へと移る。
そう、かねてより考えていた最強ジョブの一つ『忍者』だ。




