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よりにもよって王様かよ! 中間管理職のオッサン、勇者と魔王がいる異世界に転生したので、RPG的なお約束にダメ出しする  作者: 枝垂みかん
第二章

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いまさら気づいたのかよ


 賢者を名乗る亜人ハーフたちは最期まで抵抗をやめなかった。

 なんども降伏を促した。しかしネヴィアへの忠誠心からか逃げることもなく、力尽きるまで戦いつづけたんだ。

 できれば捕らえていろいろと聞きたかったが、


「逃すよりはマシか」


 こういう結果となった。


 いまもって事態の収拾とは程遠い。

 それでも、オレらは守りを固める余力を残せた。


「ペデモント将軍、状況は未だ予断を許さない」

「ハッ。急ぎ対応できる防衛戦力を再編し、国境付近に駐屯させます」


 これでようやく一息入れられる。

 ユエニスくんをはじめとした負傷者たちも、まずは傷を癒してもらいたい。


◇


 やるべき事後処理は山積みなのだが、


「まずは撤退戦の疲れを癒してからです」


 と、へべス大臣に私室へ押し込まれてしまった。お目付け役としてマギアレフィカもいっしょに。


「私が居ては落ち着きませんか?」

「そりゃあそうだ」

「遠征中は同じ天幕で過ごしていましたよ」


 いや、それはまた違うだろ。なにがどう違うのか上手く言えないが違うものは違う。


「陛下、まずは汗を流されては」


 これこれこういうのだ。

 意味深に聞こえてしまうのは、オレが意識しすぎなのか?


「前から疑問だったんだが、なぜ私室に部屋風呂があるんだ」


 ビジネスホテルじゃあるまいし。


「陛下になられる前の陛下が、お求めになったからでしょう」

「……そうか、出不精だったんだな。オレは後でいい」


 お先にどうぞと勧めると、マギアレフィカは顔色一つ変えず浴室へ。

 ややあって、ふぁさりふぁさりと衣擦れが微かに聞こえた。

 べ、別に聞き耳を立てていたわけじゃないぞ。


 というか、こんなことで男女を意識できる平穏さに安心感を覚えた。もうここは戦場ではないのだ、と。

 あとは瞬きを一つ二つ。それだけでオレは夢のなかへ……。



 目を覚ましたのは夜更け。

 久しくなかったレベルアップ痛にうなされ、起きてしまった。

 それと、嫌な夢を見たせいだ。

 あれは夢というより記憶と感情の整理かな。

 ショート動画を観ているような夢で、敵勇者にトドメを刺した短い場面——初めてオレの手で人の生命を奪ったシーンばかりをなんどもなんども、いくら別を望んでも同じ映像ばかりを繰り返し繰り返し……。


 これまでさんざん兵士に命じてきたのにな。やはりオレは小心者らしい。冷や汗で全身びっしょりじゃないか。

 だが不思議なことに、身体に溜まった長旅の汚れは残っていなかった。


「すぅ……、すぅ……、すぅ……」


 この寝息が答えか。マギアレフィカが拭いてくれたのようだ。

 寝ていても無表情というのが彼女らしい。

 まったく、さっきまで気に病んでいたのに、同衾しているとわかるなりオレは雑念で悶々としてしまうんだから救えない。


「いいや、これはある意味で人間らしさとも言えるか」


 感情がひと色に染まることなんてない。

 後ろめたい気持ちもあれば、欲だって湧くし、ときには欲に流されたいとも思う。

 それらがぜんぶ同時に在るのは普通のことなんだ。


「どのようなお話です?」

「——ぬお! お、起きていたのか」


 いきなり目が全開で、びっくりさせられた。

 だからかついついオレはよく考えずに話してしまった。


「初めてだった……」

「え?」


 と、マギアレフィカは小首を傾げるも、僅かの間。大きく二回パチクリパチクリと瞬きするなり、布団を捲って中を覗き込む。


「え?」


 まったく同じ発声のあと、こちらに説明を求める目を向けてきた。けっして非難している様子ではない。

 この勘違いを正す過程が、なおさら言葉選びを忘れさせる。平たく言えば、オレは素直にぜんぶ話してしまったんだ。

 敵勇者を殺めた後味の悪さ、隣で眠るマギアレフィカに欲情したこと、身体を拭いてもらった際に裸を見られた恥ずかしさまで、感じたことを余さずすべて。


「…………」


 そりゃあ黙るよな。

 オッサンの悩みとしてはナイーブすぎる。

 しかし、マギアレフィカの回答は斜め右へぶっ飛んでいた。


「では、私も肌を見せたら釣り合いがとれますね」

「——いやいやいや、どうしてそうなる⁉︎」

「私は妃ですので問題はないかと」

「たしかにそうだが!」


 三年近くつづいた関係性が前触れなく崩れることを、オレは恐れた。


「どちらかというと今は、話がしたい。もしマギアレフィカが眠くなければ」

「それではこの件は後日ということで。陛下がお休みになられるまで」


 いったんは妙な空気は打ち消したが、後日だって? 

 そこにツッコミを入れるとぶり返しそうだから聞き流すとして、さてどうしたものか。

 こちらから振っておいてなんだが、これといって話したい内容がない。どんな話題を提供したものかと頭を捻っていると、


「やはり悪霊群体(レギオン)がドロップした指輪の効果は、闇属性魔法の強化でしたね」


 あちらから振ってきた。表情に変わりはないのに、やたらと瞳をキラキラさせて。


「咄嗟だったからな。あまり詳しく使用感は覚えていないぞ。ただ、辺りから手当たり次第ではなくて、魔力が濃密な方から消しているようだった。いつもの気怠さもなかったしな」

「私の方にも、虚無魔法(ヴォイド)が発動した際に感じる魔力の喪失感はありませんでした。試してみないことにはハッキリしませんが、もしかしたら魔法の性質が変わったのではなく、制御が緻密になったのかもしれません」


 なぜそう思うのかと聞いたが最後、オレが再び眠気を覚えるまでマギアレフィカの考察は続いた。


「つまりは魔法自体が変化するより、コントロールが利くようになる強化の方が変わり幅が少ない。アイテムのレア度から考えて、そう見るのが自然ってことだな」

「……こんとろーる?」


 もうカタカナ語を使わないようにする判断力もオレには残っていない。つうか眠い。

 そして、ここでふと思い出す。


「そういえば前にもこんなことがあったな」


 あれは盗賊ギルドを検挙したときだったか。

 たしか、暗殺されかけた恐怖に震えていたら、ふらりと私室を訪れたマギアレフィカが魔法の話を根掘り葉掘り聞いてきたんだ。

 結果、オレは気を紛らすことができて復調した。


「そう考えると、とっくの昔にオレはオマエに心を許していたのかもしれない……」


 心を許すなんて大袈裟で、頼りにしているとかそういう言い方の方が相応しいのかも。

 いまさら気づいたのかよという話でもあるが、言い直す前に、細い指によってオレの瞼は閉じられた。


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