そんな物騒な魔法じゃないよ
ユエニスくんにつづいて、彼のパーティーメンバーである師範たちも参戦する。
「ふっざけんな‼︎」
敵勇者は叫び、力任せに大剣を薙ぐ。
それをユエニスくんは受け流した。
両者は小枝のように大剣を振い、激しい攻防を重ねていく。
そのフォローを師範たちはキッチリこなす。ときには魔法で牽制、槍を突き、ナイフを投擲。
どちらが上かはわからないが、オレが横から手を出せるレベルの戦いじゃないことは確か。
「お前らもボサっと突っ立てんなよ! 今のうちに王様をやっちまえ!」
この時点で、さきほどまで猛攻を仕掛けていた獣人の群れは散り散りに。ヴィキヌスの方へ逃げ去っていた。
勇者パーティーの『賢者』を名乗った亜人ハーフたちに応じたのは、ペデモント将軍、リットラル総監、ルアーナス総監。それぞれが率いる軍勢でもって対抗。一人対軍勢。
なぜそうなってしまうのかといえば、単に賢者たちが強いから。
賢者の名乗りどおり魔法を得意としているのかというと、違う。うちの三名は接近戦も魔法もどちらも優れている。
結果、王国軍は盾兵がガッチリ固めつつ、メイス攻撃で牽制。魔法でチマチマ削るという対処となったんだ。
かたやマギアレフィカ率いる魔道士たちは、翼で空を舞い上から仕掛けるタイプの賢者を相手に、魔法合戦を繰り広げている。
そして、ミノタウロスを彷彿とさせる角ありの大柄な賢者の相手は、エリテマソーラとへべス大臣が率いる義勇兵たち。
こちらは木属性魔法の足止めと土属性魔法の石礫で、一方的。とはいえ、すぐに決着がつきそうにはない。
「どれもオレが知ってる賢者と違う」
こんな軽口を吐けるくらいには、戦えている。
むしろ眺めていられるのはオレだけという激しい攻防が、あちこちで。
拮抗しているとも言える戦況……。
しかし時間はこちらの味方。飲ませず食わせず休ませず、これで勇者パーティーに勝てる。
どれだけ強くともアイツらは生き物。魔獣のように魔力のつづく限り動けるわけじゃない。腹も減れば疲れもする。睡眠だって必要だ。
となると一日二日。相手がバケモノなのを考慮に入れても、これ以上は保たないはず。あとは戦闘を長引かせたぶんだけ、流れはこちらへ傾く。
じきに避難民に付き添った神官たちも戻ってくるだろう。そうなればますます戦いは安定する。
ただ、唯一心配が残るのはユエニスくんたちだ。彼らだけが交代できない。
どこか一つでも決着をつけられたなら、加勢もできるんだが……。
「ガキの割にはやるじゃないか」
「僕は勇者で、毎日ダンジョンで鍛えてきたんだ!」
「ハハッ。そっちジジイたちがお守りについて、レガリスレクスの辺境クソザコダンジョンを、だろ?」
「それがどうした!」
鍔迫り合いからの大振りの交換。大剣の一撃を躱すなり斬り返す。それらと同時に言葉も交わされていた。
「あのさぁ、俺とお前程度が同じ勇者だと思われるのは癪だって言ってるんだよ。まだわからないのか?」
「同じなもんか!」
「あぁあ、そうじゃないそうじゃない。チッ、こいつ俺より頭悪いのかよ。いちいち口で説明するのって面倒なんだよなぁ」
互角に見えていたが、敵勇者の方は余裕を残してらしい。急にユエニスくんから師範へ矛先を変えた。
その凶刃は、いとも容易く師範の一人を戦闘不能に。
「ほらほら、放っておくとジジイが死ぬぞ」
挑発なのは見え見え。しかしユエニスくんは気を取られてしまう。
「まずはそういうところ——だッ‼︎」
敵勇者はパッと大剣を手放し殴りつけ、戻した拳で柄を握った。
そして、よろけるユエニスくんのフォローに入った槍使いの師範と回復魔法をかけようとした師範を、ひと薙きに斬り捨てる。
他の師範たちも瞬く間に倒された。
「ハハッ、よっわ」
「よくも!」
「いい加減わかれっつうの。あっちの王様なら、とっくにわかってるんじゃないか。俺とお前の格の違いをよ」
言うなり、敵勇者は突然こちらへ視線を向けて無防備を晒す。
そこをユエニスくんは突く——が、読まれていた。隙を突いたつもりが、足先蹴りのカウンターを腹にもらい、屈んだところを顎への跳び膝で——ノックアウト。
「お前はネヴィア様が選んだ勇者らしいな。再教育したいんだと。だから殺さず連れてこいってさ。おい聞いてんのか? ……チッ、あんなもんで伸びやがったのかよ。ザコが」
倒れ伏すユエニスくんの頭をグリグリと踏みつけ、敵勇者は顔をだけをオレに向けた。
「なぁ王様、俺にもわかるように説明してみてくれよ」
瞬き一つのあいだに——オレはネックハンギング。首を掴まれて宙吊り状態。
「……オ、オマエたちは、メ、メーリスフロンスに、送られた少年勇者のな、なかから、生き残ったひと握り……」
「でぇ?」
コイツらは『勇者』と選別をされ、その高ポテンシャル集団のなかから、さらに過酷な環境というフルイにかけられて生き延びた。
天賦の才にアホほどの経験値が積まれたメーリスフロンスの勇者たちは、とんでもない高レベル揃い。
その洗礼を受けていないユエニスくんとは桁が違う。こう言いたいのだろう。
「あんたらいいのか? 早く助けてやらないと王様が死んじまうぞ」
「「「——陛下‼︎」」」
クッソ、そういう知恵だけは達者か。コイツはオレを餌に皆の連携を乱すつもりだ。
なんとか抜け出さないと。だが、オレが殴って蹴ってして、効くのか?
せっかく勝ち筋が見えてきたのに、ここに至ってオレが足手纏いだなんて……。
ええい、もうなんでもいい! とにかく抗え、抗うんだオレ!
ガムシャラな抵抗に少しでも拳の重みを増そうと、オレは懐にしまってあったモノを握り込んだ。
ほとんど無意識に掴んだそれは、そのうち魔王にプレゼントしようと取っておいた悪霊群体デザインの禍々しい指輪だった。
酸欠で薄れていく意識のなか、オレは必死に殴る。敵勇者の肩や胸をバシバシと。顔面は躱されるから当たりそうなところを手当たり次第。
だが、まるで効果なし。
ボヤけていく視界に、あちこちで拮抗が崩れていくのが映った。
こちらへ駆けつけようと気を取られたところを突かれて、被害が増えていく。
こんどばかりはどうにもなりそうにない。すでにオレの生殺与奪は握られている。
だったら微かでもいい、敵勇者の魔力を削ってやるんだ!
「……ヴ、〝虚無魔法〟」
と、打ちつけた拳から闇魔法を胸元へ。
——それは、オレの想像を遥かに超えた結果をもたらした。
握り拳の内にある禍々しい指輪が反応。
本来あるべき魔力の喪失感はなく、マギアレフィカが鑑定した『苦痛を与える』という追加効果も感じない。
それらは、より濃密な魔力に惹かれた結果すべて敵勇者の体内へ、心臓辺りに注ぎ込まれたのだ。
「そ、即死魔ほ……クハッ」
そんな物騒な魔法じゃないよ。
だが効果は絶大。敵勇者は全身がこむら返りを起こしたようにビクンビクンと、白目を剥いて痙攣した。
掴まれていた首は離され、呼吸が戻った。新鮮な酸素が脳を巡り、これがオレをカッと冴えさせる。
痛みとは神経伝達される刺激。だったら一番神経が多いところへこいつを叩き込んでやれば——
「〝虚無魔法〟」
むせ返りそうなところを堪えて、敵勇者へ顔面パンチ。
ヘロヘロな一発だったが、まだ相手はハートブレイクショットの影響から抜け切れていないので、命中。与えたダメージは、
「——グぁああァアぁぁぁひぁあぁあァアぁぁ‼︎」
仰け反り、絶叫をあげ、全身が伸び切っての硬直。
「あガ、ガ……かひ…………」
ややあって、敵勇者は真後ろへパタリ。
おそらく二度と回復できないダメージを負わせた。
胸の上下は……もうない。
だが、まだ息つくのは早い。一刻も早くとオレは咳き込みながら叫ぶ。
「ケホケホ、ゆ、勇者は倒した! オレらは、勇者にだって勝てるぞッ‼︎」
「「「おおおおおおーッ‼︎」」」
ゲッホゲホと格好はつかないが、それでも皆、オレの無事を受けて正面の敵への集中力を取り戻した。




