いよいよ勇者戦かよ
遠征に出てからずっと、へベス大臣への連絡は欠かさずにしていた。
だが、大勢の魔獣を引き連れて帰るとは伝えていない。
すでに補給の要請は出した。あとはどれだけの期間で対応をしてくれるかが、勝敗の要。
ペデモント将軍は両総監とローテーションの打ち合わせをしている。内容は確認ばかり。しかし雑には済ませず綿密に。
「今回は的が小さいぶん、やりづらいな」
「しばらく大型の魔獣ばかり相手にしていましたからね。ですが個々は弱くなるので……」
マギアレフィカは『だから対応が楽』とは言わない。
彼女だって範囲攻撃を突破する獣人を目にしているんだ。防御が線であるのと点で敵と入り混じるのでは援護の難度は桁違いであり、ここにきて、盾兵を運用できない痛手に思い至ったのだろう。
「なるべく距離があるうちに削りたいですね」
「ああ。いかにして損耗を抑え、時を稼ぐか。そういう戦いになるな」
だから将軍たちも細かく打ち合わせをしているんだ。なるべくミスを減らし、かつ兵士たちに負担を溜め込まないようにと。
そしてタイムアップ。
獣人の群れが押し寄せてきた。
「火と熱属性、魔法よーい! 放てーッ‼︎」
ペデモント将軍の号令を受け、無数の火球魔法が止め処なく。
放たれた火の玉は火線を描き、着弾と同時に燃え広がり炎の壁となる。
「炎を抜ける影を的にしてください!」
マギアレフィカは突破する獣人のみに狙いを定めた。魔道士たちが撃つ魔力を凝縮したような点が、次々と急所を穿つ。
だが、いかんせん数が多く、処理が追いつかなくなるのも時間の問題。
となると間近まで迫った獣人は、メイスで対処せねばならない。
じわりじわりと、群れとの間合いは縮まっていく。
「総員、接近戦に備えよッ!」
とうとうペデモント将軍からこんな指示も飛ぶ。
どの兵士が握るメイスもシャフトが歪みが目立ち、いつ破損してもおかしくない。
オレはグッと歯を食いしばり、大きな損害を覚悟した。
そろそろ魔道士を下げるべきか。下げて後続を断ってもらおうと、マギアレフィカに声をかけようとした——そのとき!
「〝異常繁殖魔法〟」
獣人の行く手を樹木の壁が遮った。
「「「〝棘荊魔法〟」」」
さらに荊が蔓のように巻きつき、絡まり合ったそれらは縄となり網となり、獣人の侵攻を食い止めた。
振り返れば、そこにはエリテマソーラ第一王妃と鍬や鎌を手にした老若男女たち。
他にも、
「グラベル老人会! いまこそ日頃の鍛錬の成果を見せるとき! 投擲ッ!」
「「「〝石礫魔法〟」」」
叫ぶへベス大臣と、やたらムキムキな爺さんたち。
彼ら彼女らが投げた石は、荊に絡まり身動きが取れなくなった獣人たちを次々と撃破していく。
さらに後ろには荷車が続々とつづく。
「ヘーカ〜! 新しい装備ぃ!」
「——プエルラーレまで⁉︎」
運ばれてきたのは盾とメイスのみだった。
だが、王国軍の規格とは違う。見るからに重厚。
どういうことだと荷車を引くドワーフ——鍛治師の職人頭ファブリコに目をやると、
「ワシは知らんぞ。王妃様がこうしろって言ったんだ」
「ヘーカとペデモント将軍からのパパ宛てのお手紙を読んだ感じ、これくらいは必要かな〜って」
プエルラーレの発案との回答が、本人から。
どうやら兵士たちの声と大幅なレベルアップを見込んで、かつ強大な魔獣に求められる性能を考えたうえでの独断らしい。
パッと見た限り板バネは分厚くなり、数も増えていて、盾との接合部も鋲留めのみからプラス嵌め込み構造へと改良されている。
「盾の表側は、ヘーカが言ってた複合装甲っていうのにしてもらった〜」
「急拵えだが、軟いアフトギウムと硬いアフトギウムを重ねてある。ざっと盾の総重量は倍、だが頑丈さはそれ以上だ」
しかしホントに扱えるのか? とファブリコは髭ヅラを歪めて訝しむ。
いきなりの実戦配備に不安は尽きないし、しかも獣人相手に欲しいのは取り回しの利く盾なんだが……。
「陛下、エリテマソーラ第一王妃が時を稼いでくれている今のうちに」
「そうだな!」
巨大な魔獣相手なら回避も重要になってくるが、人の体型と変わらない獣人相手なら、構えさえ間に合えばいい。
魔法兵以外に、新型の板バネ盾とゴツいメイスが配られていく。
それらを手にした兵士たちはこれまでとの勝手の違いに戸惑う、どころか——
「これこれ」
「ああ、このくらい分厚くないとな」
「これならドラゴンとも張り合えそうだ」
しっくりきた様子。
「メイスの柄も折って叩いてを何度やったか。とんでもなく面倒な仕事だったわい」
「なるほど。期待できそうだ」
「それじゃーまだまだ補給とか新しい国民のお世話とか仕事いっぱいだし、あたしら戻るねー」
持ってきた荷を下ろすと、プエルラーレは荷車に乗って帰っていく。
王妃が荷物みたいに運ばれるのかよ! とツッコミたくなるが、いっときの牧歌的な空気のおかげで、いい感じにリラックスできた。
「ペデモント将軍。いきなりの新装備だが、使えそうか?」
「はい。この装備ならば、たとえ勇者パーティーが相手でもやり抜いてみせます。なあ貴様ら!」
「「「応ッ‼︎」」」
装備も整った。心強い援軍も到着した。補給だって不安はない。
このまま獣人を抑え切れる——と士気が上がりきった矢先、
「ずいぶんとデカい口を叩くじゃないか」
樹木の壁が、一部消し飛ぶ。これが盛り上がった空気に冷や水を浴びせた。
弾けた木端がパラパラと舞うなか現れたのは、
「チンケな獣人如きにおっかなびっくりなくせして、生意気なんだよクソザコが」
レス・プブリカで見た勇者パーティーだった。
いよいよ勇者戦かよ、とオレらは身構える。
兵士や市民の義勇兵など大勢がいるなか、ふと勇者と目が合った。
「あんたが王様か」
確認の一言。
しかしこちらの返事を待つ気はないようで、
「お前から——死ねよ」
ここにいる全員を無視してオレに迫る——が、振るわれた大剣は、一回り小さな影によって防がれた。
「勇者が悪いことしたらダメじゃないか! そんなの勇者じゃない!」
オレを庇ったのは、勇者ユエニスくんだった。




