獣人の群れを迎撃せよ
「急いで国境を越えるぞ。そこで補給を待ち、魔獣を迎え討つ」
「それでは戦火をレガリスレクスに持ち込んでしまいます!」
オレの判断に、ペデモント将軍は異を唱えた。
「構わん」
「——しかし陛下!」
「オレだってこの場で対処したいさ! でも疲弊したままの迎撃では王国軍が激しく損耗してしまうだろ。それよりはマシだ」
この案には冷徹な計算が含まれている。魔獣の群れによってヴィキヌスの地が荒らされる時間を考慮した。
もちろん人道にもとる自分本位な判断だと自覚もしている。だとしても、そっちを選ばざるを得ないのがオレの立場だ。
「ペデモント将軍、これは王国軍の無力さではないぞ。そもそも人というのは、なんでもかんでも手が届かないもの。だから選ぶんだ」
「陛下もお心を痛めておられるのに、つい個人の感情でモノを申しました」
「そういう個性は両総監に補ってもらえばいいさ。さぁ、先を急ごう」
「ハッ」
ここからは強行軍でレガリスレクス王国を目指す。
その道中に、偵察に出していた兵から知らせをまとめていく。
スタンピード発生の推定時刻は、オレらがヴィキヌス元国王に足止めされいたのとほぼ同時。これはダンジョンから最寄りの村から逃げてきた住人の証言を元に導いた。
「おそらく、追いついた勇者は私たちを逃がさぬよう仕掛けたのかと」
「マギアレフィカもそう思うか」
「はい。でなければ真っ先にこちらへ来ないことの説明がつきません」
レス・プブリカ共和国軍を全滅させた遅れは、オレら避難民連れの大所帯が複数の国を通過できるほどの時を要した。
今となってはヴィキヌス元国王の妨害が、勇者たちの指示だったかはわからない。
だが、僅かでも足止めとなり、そのあいだにオレらに魔獣の群れをぶつけるつもりだった。こう読むのが自然だろう。
「なんとか目論見は外してやれたか」
「ヴィキヌスのダンジョンは私たちの進路より後ろです。……このまま移動をつづければ追いつかれる心配はないかと」
レガリスレクス王国まで辿りつけば、まずは避難民という足枷はなくなる。
加えて、そこから報せを走らせて、援軍を呼ぶなり装備の補充をするなり対応もできる。
そして勇者パーティーの攻略も国境付近でなら——と希望を抱いたとき、
「陛下、魔獣の群れがこちらに接近中です!」
「なんだと⁉︎」
どうして一直線にこちらへ向かってくる? ダンジョンからオレらまでのあいだにある村は、一つや二つではないのに。
振り返るなり遠目にした魔獣の群れは、直立二足歩行する獣——獣人タイプだった。
だから、ソイツらも逃げているのだとわかる。
「やたら後ろを気にして……。その手があったか」
おそらく勇者パーティーが魔獣を追い立てているんだ。
「全軍止まれ、尻を突かれるぞッ‼︎ ペデモント将軍、獣人の群れを迎撃せよ!」
「ハッ」
「避難民は止まらず、レガリスレクス王国まで走り抜けろッ‼︎ 神官殿らも早く‼︎」
王国軍兵士は立ち止まり向きを変える。
かたや避難民たちは走り去っていく。
子を抱く母親や老人を背負う神官の姿も多く見受けた。それぞれが理不尽を嘆くことなく、今できることをしようと懸命に。
その背中が遠くなるにつれて、魔獣の群れとの距離は縮まっていく。
「火と熱属性、魔法よーい。放てッ‼︎」
ペデモント将軍号令の元、王国軍は炎の壁で魔獣勢いを鈍らせる。
だが、身体を焦がしながら突き抜けてくる暴走気味の獣人もいた。
そこへ、マギアレフィカ指揮による魔道士たちのオリジナル魔法攻撃。
無言で放つのでオレには具体的にどういうものなのかは判別できないが、たぶん速射に優れた高威力な魔法なのだろう。効果も抜群だ。
「ペデモント将軍! 熱属性を多めに!」
そしてなぜか、マギアレフィカから将軍への指示も飛ぶ。
元より火と熱をメインに攻撃していたので、王国軍の対応はスムーズだった。
燃え盛る火炎はみるみる範囲を広げて、赤さが眩しいほど。
——と、目を細めたときだった。
「身体が熱い⁇」
べつにこちらが燃えているわけではないし、炎とも距離がある。なのに体内から炎上するような熱さを感じた。
「マギアレフィカ、なんだこれは⁉︎」
「思ったとおりでした。熱と熱の二属性『限界突破魔法』が発動したのです! それも王国軍全体に!」
それだけじゃわからない。が、聞こえから察するに身体強化のバフ魔法なのだろう。
「陛下、今のうちに!」
今のうちに逃げろってことだな。
「ペデモント将軍!」
「ハッ! 総員、全力で後退!」
「「「応ッ‼︎」」」
こうして、王国軍と魔道士全員参加のマラソン大会となった。
……なったんだが、
「こ、怖ッ」
一歩の幅がデカい。脚がグルグル回る。瞬く間に景色が遠く後ろへ流れていく。
「お、おいマギアレフィカ! これってあとから身体の負担ハンパないんじゃないのか!」
「え! なんと?」
風切り音がうるさすぎて会話にならないほど。
そして間もなく、先行した避難民たちの背も見えてきた。
「国境だ!」
目印の石碑を通りすぎたところで——身体がガクンと。
なんとかオレはつんのめるに留めたが、加速を殺しきれず転倒する兵士もいた。
しかし心配した身体強化の負担は残らないようだ。
「皆、息を整えろ! ここより先は我らが王国。よって同じ手は使えないぞ。ここが正念場だ!」
「「「ハッ!」」」
国境で魔獣の群れ、そして勇者パーティーを迎え討つ。
直に背負うものを感じたからか、兵士たちの士気も高い。ここまでくれば、あとは時がオレらに味方するはず。




