なにがどう転がればそうなるんだよ
魔獣の襲来が日に一度とは限らない。
丸一日来ないこともあれば、立て続けということもある。
レギオンを倒してから間をおかず、今度は単眼巨人が群れで押し寄せてきた。
「マギアレフィカ、あれはたしか『巨石の遺構ダンジョン』の最下層にいる魔獣だったよな?」
「はい。ですが怪力の巨人なので侮れません」
とは言ってもドラゴンの群れほどではないだろう。
もしかしたらピークは過ぎたのかもしれないな。
いや、まだ決めつけるのは早いか。というか、
「アイツら後ろを気にしてないか?」
まるで逃げているみたいだ。
一つ目だから表情はわかりづらいが、ドラゴンや悪霊よりはまだ読める。ときおり振り返っては、それを振り切るように走ってきているように見えた。
どうやら、マギアレフィカもペドモンド将軍もオレと同意見のようだ。
「では兵を温存して、後続がある前提で対処しましょう」
「いや、将軍は正面のサイクロプスに集中してくれ」
「ハッ」
「後ろはマギアレフィカが気にしておいてくれ」
「はい」
段取りを済ましたら、あとはペデモント将軍に委ねる。
現在は、レガリスレクス王国軍を両総監麾下の二つに分け、さらにレス・プブリカ共和国軍を加えた三つの軍団を指揮してもらっている。
サイクロプスの身長はおよそ人間の三倍。脚は短めで、二足歩行だがゴリラに近いバランス。あと、毛髪はないのに体毛が濃い。
そんな一つ目の巨体が群れをなして迫っきた。
そこへ——
「「「火球魔法」」」
「「「火球魔法」」」
魔法兵が火属性の初級魔法を連発。
それは火と火の二属性となり『火球連射魔法』となる。
火の玉が間髪入れず連射され、赤い一直線を描く。
カウンター気味に直撃。
若干サイクロプスの足が鈍った、そこへさらに『着火魔法』の追撃。
巨体の群れはみるみるうちに炎に包まれた。
このまま魔法だけで押し切れるか?
と期待したところへ——
「盾兵、前へ!」
「「「応ッー」」」
ペデモント将軍は一部は突破すると読んで、守りの兵を展開。
その読みは当たった。数体のサイクロプスが陣地の間近まで迫る。
「食い止めろ!」
「「「応ッ‼︎」」」
サイクロプスはだいたいが素手か、持っていても丸太程度。しかし人型からは考えられない膂力による打撃は、想像を絶する。
板バネ盾は一度の防御で使い物にならなくなった。至るところで鋲が弾け、盾の表部がひしゃげて飛んでいく。
「盾兵! 受けるな、躱せ! 足元をとるんだ!」
一当てでペデモント将軍は対応を変更した。
それを伝令の兵が触れてまわる。
すぐに盾兵は盾を捨てて身軽になり、メイス片手に肉薄。だが、けっして正面には立たず、死角死角を突いて注意を引きつけるんだ。
敵が足元ばかりを気にしたら、
「皆さん、サイクロプスの目を狙ってください」
すかさずマギアレフィカたち魔道士による——
「「「〝石礫魔法〟」」」
その攻撃は石礫なんて生優しいものではない。
弾丸は砕けた黒曜石が散弾となり、わかりやすい弱点を穿つ。
サイクロプスの目の周りはズタズタ。視界を封じられると、手で顔を大いにドタドタと暴れた。
そこへすかさず、足を浮かせたアンバランスさを突く兵士によるメイスの一撃。脛を打ち、アキレス腱を打つ。
なかにはバットのように両手でメイスを握り、浮いた足を転かす方向へフルスイングする兵もいた。
よろけて転んでしまえば他のサイクロプスによる踏みつけが待っていて、巨体の転倒は連鎖するのだ。
「見事な連携だ」
「次は、共和国兵に入れ替えます」
こういう戦い方になれた王国兵とは違い、損害を抑えられないかもしれない。
「将軍。可能な限り手遅れを出さないよう神官たちに伝えてくれ」
「ハッ」
また突破してきたサイクロプス。
今度はレス・プブリカ共和国軍が迎え討つ。
人数はレガリスレクス王国軍よりも多いが、装備も動きもチグハグで、とても統制の取れた軍とは呼べない。
だというのに士気だけはやたらと高いんだ。王国軍に対抗意識でも燃やしたのか、それとも自国を守る使命感からか。
なんにせよ、前のめりの姿勢がもたらす結果は——深追いによる大怪我。
倒れたサイクロプスなど放っておけばいい。むしろちょうどいい足掛けになる。
なのに血気に逸る共和国兵はトドメを刺しにいくんだ。
「ペデモント将軍!」
「わかっております。ですが陛下、執政官閣下でも指揮できない兵らが、他国の将軍である私の指示を受け入れますか?」
「……そうだな」
犠牲は出しつつも共和国軍は役目を果たした。
このように三交代制を回すこと三周ほどで、サイクロプスの群れは全滅。結局、後続はなかった。
逃げているように見えたのは、オレの思い過ごしだったのだろうか。
◇
やはりピークは過ぎたと見ていいようだ。
レス・プブリカ共和国に着いて二か月ほど経つが、魔獣の襲来は規模が弱まる一方。
もう一か月ほど様子をみて、大丈夫そうなら引き上げてもいいかもしれない。
というより、兵士たちはともかく装備の損耗が激しい。盾兵が持つ板バネ盾のほとんどが壊れてしまい、機能していないんだ。
いや、ここは役目を果たしてくれたと言うべきか。
初戦からしばらくを凌げただけでも開発した甲斐はあった。もし板バネ盾でなければ、最初のドラゴン戦で盾兵に甚大な被害が出ていたに違いない。
神官たちの治療行為にも限りがある以上、重症者からの対応となり、その数が多くなれば完治しないまま戦闘に復帰する兵士が増えていたはず。
他の、武器や防具も修理が追いついていない。
部品もギリギリで、臨時徴用した職人たちを総動員しても人手が足りないんだ。
マギアレフィカはかなり頭を捻って物資のバランスを整えてくれたが、やはり受け入れた民のぶんまで食料を運ぶとなると無理が出るのも当然だ。
シャフトが曲がったメイスであっても使わざるを得ないのが、今の現状。
そろそろ引き上げを視野に入れはじめたころ、
「こちらへ向かってくる集団が確認されました」
「規模は?」
「いえ、魔獣ではないようです」
遠目に見ると、着の身着のままといった様子の一団だ。
背丈や体格からして亜人の割合が多いようだが……。
「先触れを出す余裕もないのだろう」
「では、兵を向かわせます」
いまさら避難民か?
と思いきや、その一団が逃げてきたのは、魔獣からではないのだそうだ。
事情を語ってくれたのは、元盗賊ギルドのギルド長で魔女ネヴィアの追跡の任についていた——ラトロだった。
「どうしてオマエが……⁇」
「そのあたりも含めて、ご報告します」
開口一番に聞かされた内容が衝撃的すぎて、あとにつづく内容が入ってこない。それほどの報せだった。
「ネヴィアは……、大聖女は聖リーメスフロンスの建国を宣言しました」
なにがどう転がればそうなるんだよ




