よくデザインを見てくれよ
翌朝まで、兵士たちの呻めきは絶えなかった。
おそらくレベルアップ痛に苛まれていたに違いない。
あれだけ多くのドラゴンを倒したのだから、獲得した経験値は相当なもの。当然の結果だ。
劇的な戦闘力向上は見込めないだろうが、それでも事態の好転材料と言えるだろう。
そして、避難民の受け入れについて。
神殿や商工連盟の者から難民側の代表者を出してもらい、交渉に当たった。
交渉相手を指定する時点で、こちらからの譲歩はないと伝えたようなものだ。
彼らに突きつけた条件は大きく二つ。
一つ、レガリスレクス王国軍の撤収時に同行。失地回復を諦めることもここに含まれる。
一つ、保護ではなく臨時徴用という体裁をとる。煮炊きや生活周りの雑用の他にも、戦闘後のドロップ品の回収、技能があるものは装備や防衛施設の修繕などにも従事してもらう。
また、賃金の支払いはレガリスレクス王国に到着して以降とした。
どれだけ足元を見れば気が済むのだと言われかねない条件だが、できる限りの誠意として、徴用とした事情は隠さずに話した。
「これを全員に伝えるか否かは、そちらに任せる」
「仰せのとおり、我らがこの地に残れば後日の火種となりましょう」
商工連盟から出してもらった代表者は、早くも魔獣騒動後の展開に目を向けていた。
なかなかに商魂逞しそうなので、ぜひレガリスレクス王国に来てから、その商才を発揮してもらいたい。
「神殿の者たちには、兵士たちの後ろで回復役を担ってもらう」
「承りました」
「となると、あとは魔道士結社だが」
マギアレフィカの下につければいいかと聞いてみれば、避難民のなかにはいないらしい。
「冒険者ギルドに所属している者も、そうでない者も皆……」
「我々を逃す盾となり、いまごろは……」
「そうか」
各勢力がそれぞれに動いた結果が、ここにいる避難民ということか。
「では、なおのことキミたちは生きなければならないな」
「「……はい」」
レス・プブリカからリーメスフロンスのあいだにある土地がすべて壊滅したとは考えられないが、無事にに済んだ国も、それはそれで悲惨だろう。
なかにはそれを見越して逃げてきた者もいるかもしれない。
だからかこちらの要求はすべて受け入れられ、再交渉もなく、避難民は条件どおりにレガリスレクス王国軍が徴用することとなった。
◇
最初の戦闘から一日空き、レス・プブリカ共和国到着から数えて三日目の昼——再び魔獣が襲来した。
ガスにも影にも見えるアンデッドだ。
無念の表情を浮かべるさまざまな顔の集合体が、瘴気を撒き散らしながらこちらへやってくる。
サイズは上位九頭竜粘土像並み。
ただ、これまでに見た魔獣と大きく違うのは——
「悪霊群体にしては育ちすぎです」
「おいおいマギアレフィカ、ダンジョンの魔獣は代謝も成長もしなって前提だったろ」
「魔力に依って象られた存在なので、基本的にはそのとおりです。しかし、あれは魔力に依る思念体なので……」
ある意味で、あれは最も地上に出してはいけない魔獣なのかもしれない。
おそらくは憑き殺した人間の怨念と、それに紐づいた魔力を取り込む類。
肉が必要ないゆえに、こういうことが起こり得るイレギュラーな魔獣だと位置付ける。オレはこういう理解をした。
とにかく、見た目どおり物理攻撃は効かないとした方がよさそうだ。
「それほど強い魔獣ではありません。本来は初級魔法でも対処できるのですが……」
「大量に溢れたなかに人間を喰えた個体があり、その淘汰のなかで育ち過ぎてしまった一体ってことか」
「正しくは一塊です」
なるほど。どこを攻撃しても他の部分には影響しないと考えを改めないと。にしても、
「オレの魔法が有効そうだ」
言ってて、まったくもってしっくりこない。だが、理屈を並べればこういう結論となる。
「ええ。魔法で魔力を散らすよりも、直接魔力を消してしまう虚無魔法の方が効率は良いかと」
「じゃあそういうことで」
と、近くに控えていたペデモント将軍に、対処方法を伝えた。
やることは非常にシンプル。オレが闇魔法でレギオンを縮めたあとは、数にものをいわせて二属性狙いの魔法連射。これだけ。
じわじわと迫ってくるだけのデカい的だ。外す心配はない。
いまだに悪霊に闇魔法が有効っていうのは納得いかないが——
「〝虚無魔法〟」
放った黒い塊はみるみるレギオンを吸い込み、蒸発した。
なんというか……、
「ナメクジに塩をかけてる気分だ」
誰ともなく軽口を叩いてしまうほどの効き目。
たまには『オレも経験値を稼いでおこうか』と闇魔法を連発しているうちに、どんどんとレギオンは小さくなり、
「あっ」
あっけなく消滅した。
みんな臨戦体制で出番を待っていたのに。しかもうちだけじゃなくてレス・プブリカ共和国兵も。
「ペデモント将軍、……その、すまんな」
「いえ、とんでもありません。貴様ら、陛下が強大な魔獣をお一人で討たれたぞ!」
「「「うぉおおおーッ‼︎」」」
なんだか喝采を催促したみたいになって、すごく居心地悪い。
そんななか、数名の兵士がレギオンがいたところへ走った。消えるときに宝箱を残したからだ。
「ま、禍々しい作りだな」
運ばれてきたそれは、思わず腰が引ける作り。
元盗賊で、神殿で盗賊スキルを認定された徽章持ちの兵士が「問題ありません」と、宝箱を開いてみせる。
するとなかには、箱より問題あるデザインの指輪があった。
「絶対に呪いのアイテムだろ、これ」
「闇属性魔法を強化するリングですね」
隣から覗き込んできたマギアレフィカが、余計なことを言った。
「く、詳しいな」
「これでも元主席導師なので」
「えっと……、欲しいならあげようか?」
「私は闇属性魔法を使えません」
そういやそうだった。
以前、体系化された魔法をぜんぶ使えるのが魔道士の入り口と聞いた。
しかしそれには例外もあり、光と闇属性がそう。たとえば『光属性は勇者だけ』みたいに、この二つの属性は限られた者だけが使える魔法なのだそうだ。
「じゃあ処分するか——」
「それを捨てるだなんてとんでもない!」
いよいよ退路がなくなってきたぞ。
「陛下お一人で異常成長悪霊群体を倒したのですから、遠慮なさらずに自分の物になさってください。ここはレガリスレクスのダンジョンではありませんので、拾得の納税も不要ですよ」
百パーセント混じり気なしの親切で勧められているが、よくデザインを見てくれよ……。
片目だけ眼球のある髑髏がヌラヌラと赤黒く脈打つ血管の束に縛りつけられ、さらには大口を開けていて、レギオンを想起させる苦悶の群体が入れ子構造になり鋭い牙を立てられて叫んでいるんだ。
「推測される追加効果は『闇属性魔法の影響下にある対象に苦痛を付与』です」
「——敵味方関係なく影響する魔法で、そんなのダメだろが」
やっぱり呪いのアイテムじゃないか。
よし決めた。こんど魔王に会うことがあったらプレゼントしてやろう。




