か、勝手に決めつけるなよ
遠征初の勝利に王国軍は沸く。
しかも相手にしたのはドラゴンの群れ。元冒険者や元盗賊というキャリアがある者でもレガリスレクス王国のダンジョンを探索している限り、まず目にすることない大物だ。
そして、こちらへ向けられる対照的な反応が二つ。
一つは庇った避難民たち。
これまで捨て置かれたのもあってか、魔獣を全滅させた王国軍を見て、その多くが拝むように涙していた。
もう一つは防衛施設に引きこもっていたレス・プブリカ共和国軍。こちらが好意的でないのは、オレらから目を逸らすさまからも見てとれる。
いまさらながら疑問だ。
「よくもまぁ魔獣の群れが押し寄せるなか、ここを守り切れたものだな。避難民だってそうだ」
それとなくマギアレフィカに話を振ったら、
「陛下、よくご覧になってください」
返ってきたのはオレの軽率さを咎める厳しい声だった。
言われて辺りを見回すと、たしかにいまのは失言だったとわかる。
けっして無事なんかじゃなかった。避難民も共和国兵も両方とも。
避難民が居留していた場所の奥に、掘って埋めた跡がある。冷たい地面の下の現実一つや二つではなく、いくつも……。
一方の共和国兵だって、いや違うか、兵士ですらないのかもな。冒険者はもちろん普段は鍬を握る農民まで動員して、レス・プブリカは総力を尽くし国を守ったんだ。
装備がチグハグなのにも合点がいった。
同時に、彼らがどういう戦法で魔獣を追い払ったのかも、なんとなく想像がついてしまう。
俯く共和国兵と、ときおり彼らへ向けられる避難民からの恨みがましい目つき……。
「おそらく囮にされたのです」
マギアレフィカは避難民の側に立って話す。
だからオレは諌めた。
「それしか国民を守る方法がないならオレだってそうするぞ」
できるかできないかではなく、これは守るべき優先順位の話だ。なので共和国を責めるなと。
「……禍根が残りますね」
「だろうな」
こうなっては避難民の面倒をレス・プブリカ共和国がみるのは無理だ。むしろ、近隣にすら居てほしくないと思うに違いない。
今回の規模がつづけばその心配もなかったかもしれない。だがオレらが、正確にはペデモント将軍が救ってしまった。
けっして彼を責めてるわけじゃない。人命はなにものにも替え難いという価値観は、王様になった今も変わらずだ。
だが、陣地に誘き寄せて退治するのと、身体を張って守ったのでは印象もだいぶ異なってくる。
「かなり交渉しづらくなってしまったな」
ボヤくと、なんの話だとマギアレフィカは微かに首を傾げた。無言のリアクションは見ようによっては不機嫌ともとれる。
無表情だからわかりにくいけど、たぶん納得してないんだ。ペデモント将軍の義憤を諌めた彼女だったが、実は、避難民を見捨てるマネを肯定したオレに怒っているのかもしれない。
「マギアレフィカは避難民を保護したいのか?」
「それは陛下のお気持ちでしょう」
「……オレの?」
「お気づきでないのですか。陛下はずっと、王であろうと自分に嘘をついていますよ。消極的な言動を慎重さと履き違えています」
「キツイこと言ってくれるじゃないか」
脊髄反射で言い返すあたり、図星を突かれたと白状しているようなものだ。
「私は『救える者ならば誰でも救えばよい』などとは申しません。王国民の暮らしを考えてのご決断なのもわかっております。ですが彼らは陛下にしか救えず、陛下は救いたいとお考えになっています」
「か、勝手に決めつけるなよ」
オレだってなんも考えずに救いの手を差し伸べたいさ。
でも、いますぐ避難民を連れて帰るわけにもいかない。となるとスタンピードが収まるまでのあいだ、王国がここで養わなくてはならないんだ。
遠方まで運ばれた食料が、どれほど重いコストになるのか考えて言っているのか!
問題は金だけじゃない。輸送の量も限られていて、食料を増やしたぶんは装備品を減らさなくてはならないんだぞ。そんなことをしたら——
「私を言いくるめることなど簡単でしょう。なのにそれをしないのは、陛下の心が拒んでいるからです」
「だから決めつけは——」
「決めつけではありません! 私は第二王妃、陛下の妻ですので。陛下が陛下になられてからの三年ほど、たくさんの言葉を交わしました。だからわかります」
マギアレフィカはまるでオレに興味ないと思っていたのにな。どうやら決めつけていたのはオレの方らしい。
「……そこまで言ったからには働いてもらうぞ」
「はい。私はそのために同行しておりますので」
「だったらやってもらおうか。装備の予備や補修部品を大幅に追加して、かつ分け与える食料まで手配できるよう補給物資の計画を練り直してくれ」
とんでもなくムチャな計算だ。
そのかわりオレはオレで、執政官とムチャな話をまとめてくるから。
「どうか陛下のなさりたいようになさってください。私も……、いえ、私はそう望んでいます」
「ありがとう」
とても夫婦の会話とは思えない内容とシチュエーションだが、こんなときにこんな場所だからこそ、ちゃんと話せたのかもしれないな。




