好き嫌いの問題ではないよ
ヴィキヌス王国、ドゥカート公国、プリンキパート諸侯国……。
一つ、また一つと国を超えるたび、教会の権威が強まっていた。それに伴い居心地の悪さも増していく。
どこもが勇者制度反対派の神父たちを追い出したからか堅持派一色で、なかには『なぜ勇者ではなく兵士なのだ』と、救援に応えたレガリスレクス王国軍に落胆してみせる始末。
露骨に歓迎されていないのが伝わってくる。
あと、神殿との宗教的な争いはないと聞いていたが、住み分けは明確にされていて、同行する神官たちは場所より非常に肩身が狭そうにしていた。
「土地が変われば常識も変わる、か」
オレなりに納得をして、先へ進む。
もちろん、王国兵たちや神官たちへのフォローも欠かさずに。
そういった居心地の悪さも、レス・プブリカ共和国に辿り着くと一変した。
ここはスタンピード被害の際。当然の空気感だ。
生活の気配が薄れた土地の先へ行くと、即席の防衛施設が並ぶ。よほどの急拵えだったのか、乱雑で煩雑に密度もバラバラで。
その、いちおうの安全圏の外に——目を疑うような景色が広がっていた。
「どうして避難民が外側に留め置かれている⁉︎」
まるで避難民を拒むように防御柵が張り巡らされているんだ。
「陛下!」
真っ先に反応したのはペデモント将軍だ。
おかげで冷静になれた。
「おいそれと共和国が受け入れられない数だからだろう」
「ですが!」
「将軍、ここはレガリスレクス王国ではありませんよ。レス・プブリカ共和国に内政干渉をしろと仰るおつもりですか?」
「しかし……」
マギアレフィカに咎められても、見ていられない光景にペデモント将軍の義憤は収まらない。
理屈はわかるが、一方で気持ちもわかる。
養いきれない人数を受け入れたらどうなるかなんて、火を見るより明らか。
しかも守ることに手一杯の状態の今、為政者の視点では、国民と避難民との軋轢なんて起こったら堪らない。
そこへ——
「陛下、レス・プブリカ共和国代表の執政官閣下がお見えです」
兵士から先触れが。
「将軍のお気持ちはわかります。ですが、ここは控えてくださいね」
「……ハッ」
マギアレフィカらしからぬ気の回しようだ。
応えるペデモント将軍も、それを察してか、いったんは引き下がる。
彼だって、さすがに国の代表同士の話に割り込むほどわからない人間ではない。だとしても万が一を考えて念押しはしておくべき、そんな考えからの発言なんだろう。
気まずい雰囲気を察されたくないから二人には外してもらい、執政官の対応はオレ一人で。
「このたびの救援、感謝の言葉もありません」
あまりにもここまで受けてきた対応と違ったので、一瞬戸惑った。
「周辺国の危機は波及する。我が国とて無関係ではいられないさ。微力ながら助力させてもらう」
いちおうこっちは国王で、あっちは執政官。どちらも国家元首だが、これくらいの距離感は保つべき。でないとまた大臣に説教されてしまう。
「微力などととんでもない! 長らく動かしてこなかった軍を動かし、自ら指揮にも立ちました。ですので私にもレガリスレクス国王軍の精強さはわかります」
「かなりの苦労をされたようだ」
これは、避難民を防衛施設の内に入れない苦肉の対応までを含めて言った。
「思うところもあるでしょう。ですが、現状が共和国の限界でありまして……」
「責めているわけではない。とても辛い選択を迫られたのだと慮ったのだ」
ここまでの道中でオレは半ば歩調を合わせることを諦めていた。
だが、僅かでも執政官と話して考えを改めた。彼は平和ボケから醒めている。
平和と言っても、魔王との戦いと勇者制度がもたらした一時的なもので、共通の敵を前にいったんは争いを抑えているだけの仮初。今回の騒動でそれが露呈した。
にもかかわらず、魔獣の被害に直面していない国は
未だに勇者を出せば解決すると信じて疑わない。
「ご配慮、痛み入ります。では、さっそくで心苦しいのですが、魔獣対策の打ち合わせをはじめても構いませんか」
「もちろんだとも」
歓迎できないことを恥じているようだけど、この状況でセレモニーなんかされてもメシが喉を通らない。実務的に事を進めてもらった方が助かる。
その後の執政官との打ち合わせは、両軍が混じらないよう担当場所を区分けすることで落ち着いた。
というより、これ以外にやりようはないだろう。
すんなりと話が済んだので、オレは少しだけ踏み込んだ。
「避難民についてだが」
「……」
途端に執政官の顔色が曇った。
後ろめたくは思っているらしい。
「神殿と商工連盟、それと魔道士結社の関係者はこちらで受け入れたい」
我ながらかなり酷いことを言っている自覚はある。
困難を強いられている人たちを選別しているのだから、人でなしと呼ばれてもしかたない。
つくづく思う、ここ三年ほどでだいぶ中間管理職のオッサンの倫理観が薄れてしまったと。異世界ファンタジーの王様ナイズされてきたな、と。
「……やはり、教会はお嫌いですか?」
「好き嫌いの問題ではないよ」
オレは勇者制度を批判する立場だが、それは個人や組織にではなく、制度そのものに対して。
「兵士が身体を張って魔獣と戦っているのに、勇者勇者とうるさい連中がいては不和を招く」
「たしかに……」
おや、執政官は教会に思うところでもあるのか。
「もっと言うと、先に挙げた三つの組織とはやり取りができている。受け入れにも協力するであろう」
口にはしないが、もし教会の者を受け入れたら、今回の騒動が魔女ネヴィアによる人災だと広めづらくなるのも理由の一つだ。
「そういえば、共和国には教会の気配がないな」
「司教らは真っ先に逃げましたよ。邪魔でしたので出国許可証はすぐに出しました」
なるほど。他の国はわからないが、レス・プブリカ共和国が神父らに許可証を発行されたのも、執政官が教会を嫌ったからか。
「どおりで道中の教会がうるさかったわけだ」
「自らの手は汚さない連中です。のちのち戻るのを許すつもりもありません」
かなり鬱憤が溜まっていたらしい。
ついでに、かつて大司教と聖女を取り除いたオレにシンパシーを感じているのかも。
このまま教会の悪口を聞かされるパターンか、と思った矢先——
「陛下、執政官殿」
マギアレフィカが魔獣襲来を知らせに。




